勝利という名の殺戮
第10話 対空爆戦
横須賀での休暇を終え、俺たちは横浜に帰った。とはいえ、最後の一日は電池式のセンサーを横須賀中心部にばらまく作業だけだったが。
ちなみに二泊目、若菜は俺に気を使って風呂を女性部屋で済ませてくれた。一泊目に積極的過ぎたことを反省していると言いながら、添い寝だけは求めてきたので了解した。
横浜では、ふたつの変化が起きていた。
ひとつは、
もうひとつは、大規模な空爆が予定されていること。パイロット養成施設の破壊に対する報復第一弾はミサイル攻撃だけだった。しかし、全くといってよいほどこちらの被害がなかった。そのため、第二弾として航空機を使用した大規模空爆を匂わせているのだ。
久良岐は忙しそうに対空爆作戦を考え、指示をしていた。これまではモグラのように地下施設にこもり、やり過ごすことしかしてこなかったらしい。
今回は、SAや
「なんだかんだと中西と異世界グループに頼りっ放しで申し訳ない」
寝不足か、珍しく表情に疲れが出ている久良岐が申し訳なさそうに言う。
「構わない。そのために戻って来たんだ」
「お前たちが来てくれなかったら、空爆に対して反撃するなんて発想すらなかっただろうよ」
「使えるものは使ってくれ。もし命を落とすことがあっても、日本独立の礎になれるなら悔いはない」
「冗談でも言うな。お前こそが俺たちの希望なんだ」
「それも、中々プレッシャーかける言葉だぞ」
俺は笑ってみせる。
「すまん。無茶をさせないよう俺が気をつける」
「中西、一点相談がある」
「なんだ」
「劉海賢のことだが、さすがに対空爆作戦に参加させるわけには行かないよな」
「ああ。あいつはウチ公認のダブルスパイだ。さすがに友軍機を撃ち墜とせとまでは指示できないし、人としてやらせていいものじゃない」
「だな」
「そうなると、お前の部下、カーミラさんが連れてきた里中一平に迎撃作戦を任せることになるが……」
「あいつこそスパイじゃないかと?」
「カーミラさんの目を疑うわけじゃないが……」
「あいつは男を見る目がないぞ。バアルにそれとなく監視させとけばいいか?」
「頼む」
その他に何点か確認し合い、作戦の概要も聞いたところで、俺は自室にもどる。
自室では、若菜が頼んでおいた洗濯物を畳んでタンスにしまってくれている最中だった。
「そんなことまで、いつもありがとう」
「それが私の任務ですから。言ってしまえば、組織公認の妻みたいなものです」
「やっぱり、明日から自分でやるわ」
「なんでそういうことを言うんですか!」
頬を膨らませた若菜が想像以上に可愛らしく感じられ、目を逸らす。
「ほら、照れてる、翔吾さん」
「うるさいなぁ。若菜だって顔が真っ赤だぞ」
咳払いが聞こえて、バアルが椅子にかけていることに今気づく。
「仲睦まじく微笑ましいことです」
バアルがニヤけ顔を隠しきれずに言う。
「先ほど久良岐さまとお話しされてた件、彼のことですが、既に送り込みました」
「ありがとう。かなり目端が利きそうな奴だから、特に慎重に頼む」
「はっ。では、私はこれにて」
バアルの背中が扉の向こうに消えるのを確認しつつ、俺は若菜に注意事項を伝えようと思った。
「バアル、絶対に聞き耳立ててるから、変なことは言うなよ」
「はい」
そう言いながら、俺はテーブルの上に置かれた資料を確認する。横須賀の護衛艦の
何よりも記念艦三笠は、日本の誇りを取り戻すための重要な施設であり、せっかくここまで破壊されずに残った以上、守り抜いていきたい。
俺が資料を見るのに熱中していると、温かなものが俺の肩を抱いたようだった。
「翔吾さんって、夢中になると隙があるんですね」
「お、おい、若菜。バアルに聞かれてるぞ」
「バアルさんは応援してくれる仲間だし」
呆れた俺が身体をよじって目を合わせると、また思い掛けず唇を重ねてくる。
少しだけ時が止まったように感じられ、やがて若菜の唇が離れていく。
「休めるときは、休んでくださいね」
そう言った若菜は、静かに部屋を出て行った。
◆◇◆◇◆
大規模空爆はいつ来てもおかしくない兆候さえあれ、なかなか実施されなかった。
こちらとしてはシミュレーションなどを通して何度も訓練中であり、遅ければ遅いほど対空爆作戦の練度が上がってくる。
敵もそれを想定していそうなものだが、なかなか攻撃は始まらなかった。
横須賀での休暇以来、1週間たったところで、航空自衛隊百里基地や海上自衛隊厚木基地などで戦闘機に活発な動きが見られるとの報せがあり、こちらの迎撃戦力も早急に展開できるよう準備に取りかかった。
空襲警報がなり、巡航ミサイルが発射された模様との連絡を受ける。自衛隊のPAC-3を改造したものや、駆逐艦などから立て続けにミサイルが発射されたようだ。
俺は計画通り、サーベルに雷魔法を付与して飛び上がる。異世界技術のELクラフトは滞空性能があるため、
更には、ミサイルポッドに短距離対空ミサイルを満載したSA-04Bが地上で待つ。里中一平の発案で、右腕機関銃のプログラムをCIWSを参考に書き換え、対空機関砲にしてある。
ミサイルはさほどの間もなく視認範囲に近づいてくる。俺は雷魔法を発動し、ミサイルを空中で次々撃ち墜とす。
タイミング的に俺では無理が生ずるものは、里中が的確に
一時間ほどか、一通り巡航ミサイルの迎撃が済んだところで、敵戦闘機の離陸が伝えられる。今回は汎ユ連の主力戦闘機であるJ-20を中心に組んだもので、練度がかなり高いという話だ。
機影が見える前に
バアルからの連絡で、その爆煙の向こうで百機に届きそうな多くの航空機が編隊飛行をしながら一気に距離を詰めてきているらしい。事前に百里、厚木両基地の航空機にスパイバグをばら撒いているため、ステルス性能があってもこちらから正確に位置を掴めている。
「こちらからも行くか」
俺は爆煙に向け、一気に最大戦速を出して距離を詰める。敵の最初の1機が顔を出した瞬間に、サーベルでコックピットを切り裂く。
そして、煙の中で補足した気配に対してもサーベルを振るい、2機を切った手応えを得る。
煙を抜けると、何十機いるか分からないほどの大編隊がおり、俺は囮になるため相模湾方面へ慌てて逃げるような体をとる。意図通り、数編隊が俺を追跡する動きを見せる。
小さな声で詠唱を唱えていた俺が、大規模雷魔法を戦闘機の群れに向けて放つ。
忽然と現れた無数の雷により、ほとんどの戦闘機が爆発し、破損し、コントロールを失い、横浜上空が阿鼻叫喚の巷と化す。
俺は立て続けに焔の魔法を放ち、ダメージの少ない機体や、汐汲坂ベース近くに堕ちそうな機体にとどめを刺していく。
地上でも里中が対空兵装を駆使してベース近くへの墜落を許していないようだ。
もはや、戦争というより虐殺に近いが、この機にベテランパイロットを根絶やしにすることが今後の戦況に大きく関わってくるだろう。
しつこく追撃し、1機たりとも基地に帰らせないつもりで
敵が撤退を始めたと思われた後も、一人でも多くのパイロットを殺せるように追撃する。
敢えて陸上の戦線を超えて、特別自治区の住民に見えるところでの戦闘を続ける。横濱パルチザンは強力であるとの認識を広めて貰いたいからた。
対航空機戦が始まってから40分ほどで周囲の航空機はいなくなり、俺は汐汲坂ベースに帰投する。
俺は苦い顔でベースに入る。メンバーの表情も明るいものばかりではない。
完全勝利ではあったが、実際は後味の悪い一方的な虐殺だったからだ。
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