第60話 超新星ヒーロー(妹)×最強の怪人(兄)

「ダマーラさん、偽者討伐おめでとうございまーす!」


 パカパカパーンッ!

 翌日、出社した俺が席につくなり、複数のクラッカーが鳴らされた。

 それと同時に小さなカップケーキが目の前に運ばれてくる。


「いやー、ダマーラさん流石っすね。やる時はやるというか」

「ダマーラの旦那の強さには男として憧れます! 俺もまだまだ強くならないと」

「今回は非戦闘員部隊全員でお金を出し合ってケーキを用意させていただきました。日頃の感謝だと思って受け取って下さい。こういう機会でなければ中々お礼できませんから」


 ハイエナ、タイガー、禿鷲がそれぞれ労いの言葉をくれた。


「ふーむ」

 三人の優しい笑顔に見守られ、まじまじとカップケーキを眺める。

 一切デコレーションの施されていない手のひらサイズのケーキだ。


(いや、日頃の感謝小せぇ……こういう時って普通ホールケーキじゃないのか?)

 90円と書かれた値札ごと包装紙を剥がし、大口で齧り付いた。


 そのまま、ムシャムシャと咀嚼すると、天井を仰ぐ。


「うんめぇ」

 その様子を見て三人がフッと得意げに笑った。


 一人30円しか出してない分際で。


(今度からこいつらのボーナスもカップケーキで良さそうだな)

 そう思った俺がバクバク食べ進めていると、


「ほう。こいつが悪魔メフィストを倒した女ヒーローか」

「また厄介なのが現れたな」

俄かに事務所の一部が騒がしくなった。


(なんだなんだ?)

 煩い声に釣られてそちらを見ると、屈強な戦闘員達が小さなテレビの周りに集まっている。


 その画面内では深紅のバトルスーツを纏った女性ヒーローが記者のインタビューに答えていた。


『ずばり! メフィストに勝てた一番の要因は何でしょうか?』

『うーん。やはり、ヒーロータイムに入れたことですね。無敵になれた気がしました』


(げっ、サツキ!?)

 聞き覚えのある声に思わず動きを止める。


 因みにメフィストというのは、ケイソウさんの事だ。

 なんでも、クラウンによる報告で反英雄とは別者である事が発覚し、呼び名が改められたのだとか。


 噂では、怪人危険度もS級からA-級に見直されたらしい。


(それにしても、メフィストはカッコよすぎだろ。あれ、ただのふやけたオッサンだぞ?)

 いまいち腑に落ちない俺を他所に、


「無敵になれただと? 生意気な」

「実際に会ったら八つ裂きにしてやる!」

戦闘員達が未だに息巻いていた。


(今さら俺の妹だなんて言える雰囲気じゃねーなこりゃ……)

 やれやれと首を振りつつも、楽観的に呟く。


「まっ、すぐに世間も忘れるだろ!」



☆☆☆☆☆



 コンコン。

 病室の扉をノックすると、


「はーい、どうぞ」

中から明るい声が聞こえてきた。


 それに合わせて部屋へ足を踏み入れる。

 すると、ベッドの上で上体を起こしたサツキが備え付けのテレビを見ていた。


『ずばり! メフィストに勝てた一番の要因は何でしょうか?』

『うーん。やはり、ヒーロータイムに入れたことですね。無敵になれた気がしました』


(なんでこいつもこれ見てんだよ……)

 聞き覚えのあるインタビューにゲンナリする。


「お前、もう起き上がって大丈夫なのか?」

「うん、全然平気だよ。お医者さんももう心配ないって」

「そうか。それは良かったな」


 一時はバトルスーツの無理な行使で、かなり体にガタがきていたようだが、既に殆ど治ってしまったらしい。

 僅か一晩でこの回復力。

 ハイスペックの身体機能恐るべしと言ったところ

か。


「そんなお前に見舞いの品を持ってきてやったぞ」

「え、なになに?」

 興味津々といった様子で身を乗り出すサツキの手のひらの上にそっとカップケーキを置いてやる。


「日頃の感謝も込めて買ってきたから大事に食べろよ?」

「わーお、お兄ちゃんがそんなこと言うなんて明日は雪だね」


「失礼な! 俺は思いやりの塊みたいな人間だぞ?」

「はいはい。いつも感謝してるよ」

 苦笑いを浮かべたサツキがパクリと手元のカップケーキに食いついた。


 直後に、

「わー、なにこれー! 世界一美味しいかも〜!」

頬を押さえて悶絶する。


(90円のカップケーキでここまで喜べるとは、幸せなやつめ)

 笑顔の妹から視線を逸らし、テレビ画面を見ると、未だに拙いインタビューが続いていた。


『ヒーロータイム……ああ、一流のヒーロー達が揃って「敵の動きがスローモーションに見えた」というあれですね?』

『へへ、まぁ、そうですね』


『ということは、あなたも時の流れがゆっくり見えたということですか?』

 手元の資料を見ながら尋ねる記者の質問に、サツキが静かに首を振る。

 そのまま、真っ直ぐカメラを見ると、言い切るようにして答えた。


『いえ――時が見えました』

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