541話 桃色から青色

「思っている以上に充実してんなあ」

「そう言って貰えると嬉しいですね」


 クランハウスの案内を受けながらそんな事をぽつりと零す。ポンコツピンクの所はあまりにも面白みがなかったので、さっさと抜けてしまったのもあって、元々来訪する予定を繰り上げてここにきている。


「それにしても、此処までガンナー寄りにしているとは……偽物だったわりに頑張ってるわねえ」

「憧れてた人なのは今も変わりませんから、それにしても本当に暫く此処にいるんですか」

「おーう、いるいる、何だったらあれこれ手伝いもするし」


 偽物、アオメのクランに来てまだ十分程度だけど、あちこち詳しく案内してくれる。ざっと見た感じで言えばヴェンガンズよりもしっかり金を掛けて、ガンナー向けの施設に仕上がっている。アルコールの精製に硝石丘、射撃場、銃と銃弾の製造場所、鍛冶用の炉。同じような施設はあるけど規模と質が高いのは評価ポイント。


「ちなみに銃器の製造開発って何処までやってんの?」

「そうですね、現代銃の再現まではやれてます」

「近未来だったり、架空銃は?」

「あんまり作ってないですね」


 架空銃って言うけど、実際は好きなようにデザインした独自銃よね。こう、良い感じにバランスの取れた物や、尖った性能の物を作るのは楽しいっちゃ楽しいけど、それがちゃんと形になるかは別のお話。


「ま、そういうもんか……それで、具体的に何やってるん」

「特にこれと言った方針はないです、そもそもガンナーを集める目的で立ち上げたんで」

「ふむー……まあ、数日どんなものか見て別のクランかな」

「お早いお帰りで」

「私って何かしらの事をやってないと退屈で死んじゃうタイプだからさあ」


 やっぱりこういうゲームって自分で何かしらの目的が無いとあっという間に飽きるわけだけど、今の私は色んなクランの所でそこの方針に従ってあっちこっち仕事と言うか、頼みごとをやったり準じたりする気だったので、何にもないとちょっと退屈過ぎる。


「一応アタッチメントと銃器の開発はしていますけど」

「じゃあ、それをやるか、丁度私も手詰まり感出てきたし」

「と、言うと?」

「頭の中にはやりたいことがあるけど、それを出力するにはちょっと大変って感じ」


 一人であれこれやるよりは誰かの知恵を借りたほうが良いし、施設も揃っている所で研究開発の方がはかどるってもんよ。


「でも、私が指示してあれこれしたら、クランのメンバーとしてはちょっと問題あると思うのよね」


 一応転がり込んできたとは言え、上下の区別はきっちりとしておくべきってのは良ーくわかっている。わざわざ別の人のクランに行ってでかい顔して指示したり、ふんぞり返っているってなかなかのアホだと思うわ。実際こういうのがいてクランなりギルドなりの崩壊が起きた例もあるわけだし。


「あくまでもあんたがボスって事なのは変わりないわけよ」


 ぴっとアオメに指を差してにんまり。流石にパチモンやら偽物って言い続けるのもやめにしないと、ダメそうだな。

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