479話 巨人

「イベント用のクランだって説明したっけ?」

「してないっす」

「ふざけてる名前で優勝して、すぐに解散したら伝説ってか、ネタとしては完璧でしょ」


 にぃーっとギザ歯を見せてから煙草を咥える。

 すっかりトレードマークになった煙草、何かしらアイテム効果を付けられないかと試すのもずーっと思っていたまま、やれてないっけか。


「問題は面子っす、アカメさん……黒髪赤インナーで、ドラゴニアン、スーツで煙草を咥えてるガンナー、有名税って事で、おこぼれ狙いが多いっす、自分みたいに」

「私は使える手駒が欲しいだけなのに、苦労するなあ」

「ID管理なんで同名の人もいますが、特徴がありすぎっす」


 確かにスーツ着て、煙草咥えているのを私以外見た事がない。仕方ない、余ってたスキン券でいい感じのスキン購入して変装するかな。目立ってなんぼの事を散々っぱらしたり、目立つの抑えたり忙しくない?有名税ってホントこういう時に大変だわ。


「それで、めぼしいのは?」

「大体何かしらの問題があってソロをやっている人が多いっす、其れでも良かったらっす」

「BANされてなきゃセーフだって、それにしても知らん間にスキン増えてるわねえ」


 海外俳優の顔がTシャツいっぱいに張ってある奴やメジャーリーガー愛用の一言Tシャツも結構魅力的。ヤス……なんかいいあだ名思いつかないくらいシンプルだな、こいつ。とにかく見せてみたら逆に目立つっすってあっさり言われたので渋々やめておく。


「自分、中々に情報通っす、欲しい人材は何がいいっす?」

「あんたにも戦ってもらう気だけど、戦闘出来なさそうねえ……」

「からっきしっす、不意打ち系ばっかりっす」

「だったら、私ともう2人くらいが主力として……最低7人、5人は集めるとして、前3、後2で集まればいいけど」


 ちょっと高望みではある。それでも、最低限5人は欲しい。

 特に前衛、ヤスの奴は遊撃って扱いになるから前も後ろも任せないで戦況を報告してもらう気なので戦力としては数えない。それを踏まえて足りないと思われる部分を集める事で、前3、私を入れての後3が最低ラインの戦力になる。

 

「ちなみに聞くっす、一般的にそこそこ強い奴と、扱いにくいけどやたらと強いの、どっちがいいっす?」

「それを聞くあたり、まだまだ私の事がわかっちゃーいないな」

「後者っすか、ちょっと時間を欲しいっす、今アポとるっす」


 そういうや否や、自分のメニューを開いて何かのリストを見始めている。こういう手際が良いのは情報クランに行っていたおかげかね。

 こっちはこっちでバリエーション豊かなスキンを眺めて良い感じのを探していく。まー、あるわあるわ、パロ、オマージュ、パクリ……言い方は色々あるけど、モチーフ有りの「それっぽい」衣装が結構目につく。世界観としてファンタジーがメインだけど、SF系衣装も揃っているのは珍しいかな。あー、これいいな、チーフ何て言われてるキャラのスーツや、悪魔を撃ち殺しまくるキャラのスーツ。こういうコンバット系アーマーは普通に銃と映える……けど、SF銃じゃないとそこまでか。


「素直に現代風衣装を選ぶのが妥当なんだろうけど、それはそれでなあ」


 折角あるものを使わないってのもあるし、あんまり着ないような、着れないようなものを選んでおくか。そんなわけでぽちぽちっと選択、アイテム付きメッセージがすぐに飛んできて購入完了。スキン券くらいならもうちょっとばら撒いてもいいのに。


「連絡ついたっす、闘技場にいるみたいっす」

「他にめぼしいのいるなら連絡しといて、それじゃ、向かおうか」

「容姿を隠すのはいいっす、ただそれでいいんすか?」

「かっこいいっしょ、コーホーするのも考えたけど、あっちは世代じゃないのよね」


 設定的に言えば常人が着たらスーパーボールみたいに跳ねまわって骨折しまくるってスーツだけど、そういうのはないので、がっちりしたコンバットアーマーって感じ。こうなったら武器スキンも欲しくなるけど、それは今度でいいや。


「流石名作FPSっす、良いアーマーっす……スキンだけですけど」

「フルフェイスだし、これなら私って分からんだろ」


 地味にHUDもアーマーを着ているから専用の表示が出るのだが、ゲームプレイにはあまり影響がないから、運営の拘りって奴だな。そんなわけで新しいスキンも装備したし、闘技場に。






「アカメさん……いや、姉御、逆に目立つっす」

「いいじゃん、こういうコスプレを楽しむのもゲームよ」


 流石にフルフェイスでアーマー着てると目立つか。いや、逆に言えばスキンで目くらましになっているとも言える。そんな事よりも連絡を入れた奴がどこにいるかを聞いて、集合する場所に向かう。


「お、いたっす……おーい」


 ヤスが手を振っている視線の先、身長3mくらいのでかい、オーガ?オーク?どっちにしろ巨体系の種族の奴が、声に振り向いてのしのしと近づいてくる。


「なあ、でかいと不利じゃないのか?」

「一定サイズを超えると防御面に補正が掛かるっす、しかも結構強力な奴がっす」


 そりゃ、でかいのにダメージが小さい奴と一緒だったら選択する意味がないわな。ガチ勢なら最小単位のキャラモデルを選ばない時点でガチじゃない、そんな風になるのは末期な話。


「……」

「おい、喋らんぞ」

「そうっす、喋らないんっす。あ、でも意思の疎通は大丈夫っす」


 何て言うかファンタジーでよくある意思疎通が意識だけの優しい巨人みたいな感じだ。


「で、何が出来んだ、こいつは」


 私自体も結構でかいけど、かなり見上げないと顔が見えないのは初めて。じろじろと上から下まで眺めていると持っていた盾を構えて私の視線を遮る。何だろう、喋れないって言うか、ただただ人に慣れていないような感じがある。秘境にいる他の人を見たことない人類みてーな反応だな、おい。


「あんましイジメちゃダメっす、でかいけど優しい人っす」

「優しい巨人ってまんまかい!」


 びしっとツッコミが入った所で大きく息を吐き出して一旦落ち着く。こういう時に感情的になったら元も子も無い。私の売りは少ない手札を使う事と、感情的にならない事だろう。


「分かった、とりあえず実力を見よう、良いわね?」


 そう言うと盾の裏から小さく頷くのが見えるので、ヤスを使って対戦用の部屋を立てさせてから早速3人で対戦開始。



「して、あいつはどんな奴なの?」

「言うなれば……完璧なタンクっす、幾ら戦っても絶対に膝を折らない最強のタンクっす」

「……ガウェインやチェルシーみたいなのじゃないの?」

「お、通っすね。前者は物理魔法への防御力が高く攻撃も出来る、後者は素の物理防御を高めてある程度の機動力と攻撃力を持つ系統のタンクっす」


 メニューを開いて自分のお手製メモを読み上げなら私にタンクの種類について説明を始める。要約と言うか、あれこれ聞いて私なりに纏めてみると、タンク型の前衛職には結構種類がいる。

 物理魔法の防御を高めてかつ攻撃をする万能型、物理魔法どちらか一方の防御力を高めた上で攻撃能力を維持する片重型。これが基本で、派生するものとして被弾しない前提の回避型、魔法を駆使して防御やら攻撃をする魔法型、ステータス重視じゃなくスキルでカバーするスキル型。

 と、まあ、こんな風に色々あるわけだが、目の前に山のようになって盾を構えている奴は話が違った。


「高耐久高防御……だけっす」

「……攻撃だったり、その他は?」

「ないっす、文字通り『壁』っす」


 のしのしと歩き始めてこっちに来ている巨人を見ながら銃を構える。なんかやけに足が遅いのも気になるんだよなあ。とりあえず何発か撃ち込んでみると、金属同士がぶつかるいつもの甲高い音をさせて銃弾を弾かれる。


「確かに硬いけど、足遅すぎじゃね?」

「そこはスキルのデメリットっす、原因は『装備ステータス無視』って強力なスキルのっす」


 流石情報通と思いながらじゃこんっとマガジンを新しい物にしながら軽い射撃を繰り返しつつ様子を見る。


「足りない分のステータスが全部Agiのマイナスになるっす、マイナス1で移動速度がマイナス1%になるっす、そのおかげで足が遅いっす」

「代わりに強力かつ硬い防具を揃えてるって事か」

「そうっす、しかも並の攻撃力だと自動回復で済むっす、だから文字通り完璧なタンクっす」

「……その代わり、足が遅くて周りと合わせられないって事か」


 そこそこの距離から戦闘を開始、ベタ足のままで攻撃をしているのだが、そこまで距離が縮まっていないのが足の遅さからも理解できる。が、こっちの攻撃をしっかり防御して全然平気って顔をして移動しているのは中々に恐ろしい。


「パーティにいてほしいが、使いにくくてパーティ向きじゃないって事か」


 インベントリからずるっとFWS砲身を取り出して、買って置いた大型銃をセットし、チャージ開始。


「いやいやいや、それはずるっす!」

「絶対にやられないタンクって言うならこれくらい耐えるだろ」


 対人用で固定ダメージに上限は付いているけど火力は私の中で最強だ。防御特化と言われているならこれくらい耐えてくるだろうって踏んでいる。


「もうちょっと焦って攻撃を止めてくるなんて思ったけど、そういうのも出来んか」


 あんまりに移動速度が遅いので撃てる頃になってようやく私が少し走り出して銃剣で殴れる位置に接近される。だからってトリガーを引かない訳にもないし、そもそもこれってキャンセル出来ないんだわ。そういう訳でほぼ距離が詰まっている状態で発射。収束音が一旦途切れると共に光弾が発射されて相手の盾を一気に貫いていく。


「……なるほどねぇ」


 にぃーっと口角を上げてギザ歯を見せる笑みをヤスの奴に見せながら、煙の中から新しい盾を取り出しながら前進してくる巨人を眺める。


「私好みの奴をよう知ってる」

「どうっす?」

「良いね」


 砲身から大型銃を外して煙草を咥えて火を付ける。

 紫煙を燻らせいる所、私の目の前、1歩先くらいまでに巨人の奴が寄ってくるので見上げ。


「名前は」

「……」

「照れ屋なのか意地っ張りなのかよくわからんな」


 右手を差し出し。


「私はアカメだ」


 差し出して暫くそうしていると、大きい手で私の手を握り返す。


「……そういや、何やるか言ったっけ?」

「ぬかりないっす」


 いい仕事をするわ。

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