433話 全部終わって

「あー……疲れた」


 襲撃も終わり機体を走らせている途中、ばすっと音を立てると共に機体の前足2本が折れ前のめりになって停止。上部に乗っていたのもあってそのまま放り出されて転がっていく。勢いを押さえる事も出来ず、暫く転がり仰向けに。そのまま空を見上げた状態で葉巻を咥えて火を付け一服してから大きくため息1つ。

 あれから持ってきた弾、グレネード、出せる攻撃手段を全て使い切り、幾ら復活するとはいえ完全に潰れた機体に、折角仕立てた防具もボロボロ、ガンシールドなんて跡形もなくなっている。

 いつもと言うか、今までだったら私の知り合いが「ボス」なんて言いながらこっちに寄って来るんだろうけど、完全ソロで孤立無援、これでよう立ち回ったもんだ。今思えば私ってかなり自分勝手だわ。自分の為にクラン立ち上げて、自分の為に抜けて全部ほっぽり出して、必要な時だけ呼びつけたり振り回したり、ずーっと自分勝手にやりまくっておいてこれよ。こんだけやって負けてたらマジで恥だな。


「……ほんと、疲れた」


 ふいーっと吐き出した紫煙が空で揺れ、それが消えていく光景を眺めてからがばっと起き上がる。このまま寝転がっていても仕方がないし、全部終わったら順位変動はなくなるので結果を見に行こう。

 伸びたり捻ったり体の具合を確かめつつ、潰れた機体にマウントしていたガトリング1門を外してインベントリに。もう1門はビーム攻撃の直撃が止めになったが、そのまえにオーガを倒したときに銃身に歪みがでて、その上で連射していたのも原因っぽい。


「破損や故障はあったけど修復不能ってのもあんだな」


 改めてボロボロになっているスーツ、グローブ、半分レンズが割れたサングラス、銃口から排莢口までがっつり裂けて使い物にならなくなったアデレラ1丁、中心部からへし折れて文字通り「へ」の字になっているPウサ銃、根元からぽっきり折れた忍者刀、弾倉部分丸まるなくなったペッパーボックス。こうしてみると半分くらいやられてる。

 ため息を大きく吐き出してその場にぽいぽいと捨てて、上がコンプレッションシャツ1枚にパンツスーツの下だけに。って言うかガンベルトも駄目になってるな。気が付いたけど肩に掛けてる所は引きちぎれてるわ。


「装備も一新するいい機会だな」


 おっと、忘れてた潰れた機体を戻して状態もチェック。リアル半日使えないので徒歩で戻る……必要はないわ、さくっと帰還アイテム使って拠点に戻ろう。






 して、拠点に戻ったら戻ったで絶句だわ。

 がっつり半壊しているから職別での上位は無理だ。此処以上にやられているってなら話は別になるんだろうけど、まー、無理だろうな。って言うかこの手の全体協力系の勝てる勝てないはプレイヤーの練度に左右されるから私1人でどうにかなるもんじゃないわな。


「葉巻……も、無くなってるわ」


 新しいのを吸おうかなって思ったら葉巻も無くなってる。ちなみにだけどポーション類もすっからかん。このイベントにどんだけ投資してんだ私は。


「あーっと……まだパーティは組んだままだったか」


 こういう時に便利なのが組みっぱなしのメリットなのよね。

 とりあえずももえの奴を呼びだし。あいつ煙草持ってはずだし。




「こうしてパシらせてくる辺りがボスだよね……って言うか、その恰好目に悪いんだけど……」


 明らかにこっちから視線を外してうー、あーと言いながら煙草を出してくるので、それを受け取ったらすぐに火を付けて一服。その間もこっちの方を向かないし何かやましいことでもあるんかい。

 

「ボス、上着って言うか装備は」

「ビーム食らってぼろきれになった」


 半壊した砦なので散らかっているわけだが、その瓦礫の1つに座ってゆったりとする。順位の見れるところはまだまだ人がいるから落ち着くまでは此処で待ってていいだろう。そんな事を思いつつぽぁっと煙の輪を出していると、あいんつ、アルバスも合流。で、私の恰好を見るなりやっぱり視線を合わせない。


「……やっぱボス上着きよ?その恰好、刺激強すぎるって」

「お前なあ、こんなのジム行ったら一杯いるだろ」

「そういう趣味なん?」

「装備全部だめになったんだって」

「そんなにボロボロになる戦闘はなかっただろ……」


 っと、その言い草はちょっとカチンと来たので顔に向かって紫煙を吐きだしてやる。


「温い所で戦ってる奴にはわかんねーって」


 はーっと大きくため息をまた吐きながら灰を落とし、そこからは他愛のない話や、最後の襲撃どう立ち回っていたかなんて事を話していく。あいんつはガンスミスとしての本業をこなし、アルバスは何か適当に、驚いたのはももえだが、砦の陣頭指揮をしてしっかり立ち回っていたとか。やっぱ知らん所で成長しているわ……って思ったけど、こいつ配信者として成功しているからそれくらい出来て当たり前か。


「さて、そろそろ結果を見に行くか」


 暫く話し込んだ後、煙草を吸い切ったくらいで人が流れてきたのを見て結果を確認しに行く。


「それじゃあボス、またねー」

「私らはもうみたんで」

「じゃあな」


 と、ここで分かれるのでパーティを解散。通常マップであれこれすることは、あいんつくらいか。アルバスの野郎は私の事を好いてないから良いとして、あいんつにはフレンド送っておこう。



 

「さて、と……これで良い所までいってれば良いんだが」


 3人と別れて順位を出しているNPCの所に。

 イベントも終わりなので、結果をでかでかと表示しているのはちょっと面白い。勿論だけど手元でも見れるからあくまでも「こいつらが強かったぞ」って感じのランキングだけど。で、順位NPCの所に行って確認をしていると、やっぱり周りから視線を感じる。ちょっとでかい胸が強調された服で興奮してんじゃねえぞ、ったく。


「で、肝心の順位はっと……」


 職別、個人総合、職内個人の3枚のランキングボードがあるわけだが、勝ち目の薄い職別は何とも中途半端。何だったら生産職に負けている。生産連中、戦闘が出来ないって思われがちだけど、自力であっちこっちいける位には強いんだよな。刃物、鈍器扱う系はやばいとかきいたっけか。

 して、次に個人総合。上から見ていく訳だけど1位ではない。とりあえず上から見知った名前を見ていくと、マイカが5位に。あのバトルジャンキーっぷりからしたら妥当なんだけど、それ以上がいるって恐ろしいわ。肝心の私の名前はランク外だったので、詳細をチェック。12位となんとも微妙な位置にいた。途中抜けして上位陣から抜けた割には上の方か。あれだけ啖呵切っておいて中途半端なのは恥ずかしいわ。


「で、個人成績は……と」

「お、アカメ」

「お疲れ様です」

「あと、おめでとう?」


 ベギーのやつ、ネタバレしやがったな。

 軽く手を上げて返事をしてから順位を確認すれば堂々の1位。他に何かあるかと思い見ていけば軽く下の方にももえ、シャールがランクインしている。戦闘力はしっかり高いから、ひたすら倒しまくってたんかね。


「……ま、及第点か」


 個人1位総合12位職別は論外。

 やはり途中でログアウトした分が響いて総合順位が落ちたのだけは勿体ないか。


「んだよ、納得いってねえのか?」


 シャールが後ろから肩を抱くようにしてくっついてくる。

 その感じを生返事で返し、詳しい順位表を消し、その場を後に。


「ドライですね……嬉しくないんですか?」

「アカメは、ガチ勢だから」

「ガンナー全体の質が悪いってのと、途中腑抜けてログアウトした自分が情けないのよ」


 人口が増えれば増えるほど、ピンキリになっていくのは仕方がない事だし、私がどうこうできる問題じゃないのはよくわかっている。


「装備も殆どダメになったし、再スタートするにはいい機会だわ」

「……殆ど無いのか?」

「ガトリングとアデレラ1本くらいかしらねぇ……欲しかったらやるぞ」


 残っていたアデレラをくるりと回しながら取り出し、グリップ部分をシャールに向けて差し出す。


「アカメさん、執着するのが勝敗だけなんじゃ」

「そうとも言う、ガトリングも使わんからやるよ」


 ついでにインベントリからガトリングを取り出してごしゃっと置いてやる。


「じゃ、これは貰うかな」


 ガトリングはベギーがさっさと回収してにんまりと。シャールはアデレラを持って、何かを言いたげな顔をしているので、人差し指で唇を押さえてから一息。


「なに、改めて初心に帰るだけさ」


 そう言うと3人共、こっちを真面目な顔をして見てから軽く頷く。

 物わかりの良い奴らってのは気分が良い。


「……ところで、この格好、そんなにエロかったりするか?」


 それも3人頷いてくる。

 思春期ばっかりか、このゲーム。

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