417話 一撃必殺

「そういや久々に使うわ」


 FWSの砲身にアデレラをかましてチャージを開始……したい所なんだが、まー、ビームが飛んでくるわ。どうにかこうにか探知されないレベルのゆっくりとした動きで準備するのが難しすぎる。それでも砲身出して狙いを付けてチャージ開始の所でカットインしてくるんだから優秀だよ、あのゴーレムは。


『やっぱり1分近く待つのきついわ、これ』


 直撃しかけるビームを砲身を手放し、無理くり体を捻ってそれを回避。さっきからこんなのばっかりでまともに攻撃を仕掛ける事が出来ない。あの弾幕の中、1分間静止したまま微動だにせずに発射体勢を維持するのは難度が高いが……出来なくはないか。


『今から1分間、微動だにしないから必死こいて耐えろ』

『そんな事出来るんですかね!』

『分かってないな…・…出来る出来ないじゃなくてやるんだよ』


 サンダースの素早いツッコミに返事をしてからタワーシールドの裏で大きく深呼吸。感知されないレベルにゆっくりゆっくりと動き、攻撃を貰おうが妨害されようが動じずに発射までの時間、耐えるだけ。タワーシールドは遮蔽として置いてあるから、撃った後にすぐに避難は出来るようにしているし、後はまあなるようになるだろう。


「ふー……集中するだけ、集中するだけ」


 自分に言い聞かせつつ、タワーシールドの裏で集中力を高めてからゆっくりとタワーシールドから身を乗り出して攻撃が飛んでくる中、FWSを撃つだけのために出ていく。

 タワーシールドからそのまま砲身だけ出してチャージ開始すればいいだけだろと思ってたら、周りに障害物があるとそもそもスキル発動が出来なかった。FWSって思った以上に制約が多い上に障害物云々はスキルにすら書いてなかったって言うクッソ使いにくい。チャージ不可だけは両手を離して無理やり離脱するって方法を編み出したけどそれ以外は相変わらずスキルの癖がえぐい。


『よし、射撃体勢に入る』


 砲身に差し込んだアデレラと砲身から出てくるグリップを握って一呼吸。此処から相手の攻撃を貰っても何しても微動だにせずに1発撃つだけだ。なーに簡単よ、簡単。


 ぐっとグリップを握って射撃体勢に入ると共に砲身から固定用のアンカーが出現。がしゃんと爪が地面に刺さると共に小型ゴーレムの射撃がこっちに向かって撃たれる。当たり前だが此処まで来たら移動できないし、もろ直撃する事になるが攻撃の反動で動くわけも行かずに我慢するだけ。


「やられる前にやれたらいいんだけどなあ……」


 攻撃を貰ったが特に動かず、爆炎が収まり、追撃が来ないのを確かめてからチャージ開始。

 今まで特に気にしていなかったが、これ砲身内にタービン見たいなの入ってるんだな。チャージ開始と共にびりびりとグリップが振動しているのが分かる。なるほど、これも制御しなきゃ銃口がぶれて攻撃を貰うと……これ静止して撃つ難度が高すぎる。

 ぐだぐだ考えていてもしょうがない、大きく息を吐き出すと共に、砲身のアンカー部分に体重を掛け、自分の腕と体重で砲身のブレを抑えつけながらチャージ待ち。


『ベギー、射線を開けろ』

『盾役は?』

『いい、目の前でちらつかれると鬱陶しい』


 ある程度小型ゴーレムの攻撃をベギーがシールドで受けたりしていたが、集中している所でうろつかれるとただただ邪魔になる。パーティ会話を飛ばして軸をずれろと言えば、素直に応じ、ついでにシャール、アオメ、サンダースも私の射線上に入らない様に立ち回る。

 

「それにしたって、こんな扱いにくいスキルをよくもまあ実装したもんだ」


 浪漫砲ってのが大事なのはわかるが、やりすぎってのも考え物だな。

 そのくせこうして動かずにってのを考えると、チャージが進むごとに振動が大きくなって、かなり銃口がぶれる。そしてそのブレた銃口に目がけて小型ゴーレムの細かいビームが飛んできて爆発、更に銃口がぶれるのをひたすら耐え抑え込む。


『くそ、シールド割れた!』

『サンダースさん、シャールのカバーに入ります!』

 

 前線張ってる2人もギリギリで避け続けているが、そろそろ限界だが……それは今は関係ない。

 1つずつ撃つまでの間に不要な情報を切っていき、たった1発、されど1発の一撃を当てる為だけに集中。当たり前だが完璧に制御できるわけもなく、ビーム攻撃が掠め、当たり、HP減少の警告音や表示が出ようがただひたすらに集中し、短いようで長いチャージ開始から発射までの1分間を待ち続ける。


 そして目の前でパーティメンバーが吹っ飛ばされボロボロになろうが何をしようが微動だにせず、その時を迎える。


『撃つぞ』


 ぽつりと零した一言にパーティが反応。

 私の視界に『撃てます』と表示されいつでも撃てる状態になり、後はタイミング次第と言うのを察してか否か、派手に大きく動いて4人が私の射線からさらに横に分かれて狙いやすいように動いてくれる。うん、良い奴らだわ。後でわしゃついてやるかな。


 そうして引き金を絞り、一旦の収束の後発射……。


「出遅れましたが、ここで取り返しますよ!」


 私の少し横、後方の辺りから声が。どこぞのアホ丸出しの奴の声が聞こえる。このボス、そういえば今までと違ってレイドボス扱いになるので、途中参戦が可能ってのを忘れてた。

 いきなり数人が固まったのがわっと動いて来ればそれに対して攻撃をしてくるのがボスゴーレムの習性であって、いきなり戦闘中に突っ込んできた奴がそれを分かるわけがない。

 

 引き金を絞り切る少し前にこの出来事が起こったのもあり、さっきまで食らっていた細かいビームではなく、本腰を入れたビーム攻撃が飛んできて、後ろもまとめて巻き添えを食らう。


「これだから愚図は」


 横から流れてくる爆風や、私の後ろを狙ったビームによって右半身にそれが直撃。こんな所で左利きなのが助かるとは思わなかった。砲身を左に据えて構えてたおかげでチャージが無駄にならなかったのは良しとしよう。右半身の操作が全くもって利かなくなる感じを受け、がくんと体が落ち込む前に、引き金を絞り切る。


 中心にコアゴーレムがいると思って狙いを付けていたが、余計な事をしてくれたおかげで狙いがぶれた。


『外した上に暫く動けんわ』


 砲身から銃弾が吐き出されると共に雷鳴のような音と衝撃が放たれると、ボスゴーレムの左腕を吹っ飛ばしてポリゴン状に消し飛ばす。その代わりに後ろにいたアホ共に向いていた照準が、自分が撃った音と衝撃、跳ね上がりのおかげでこっちに向いてくる。


「いっつも締まらんな」


 小型ゴーレムじゃなく中型ゴーレムが飛ばす威力の高くなったビームが頭にもろに直撃。うっわ、画面右側も見えなくなった。ああ、そういえば、ダメージの度合いで欠損判定されるんだったっけか。治すまでこのままってのはきつい。

 そんな事を考えていたらぐらりと視点が上にいき、仰向けに倒れてダウン。HP自体はぎりぎり残っているけど画面右が見えなくなり、と右半身が動かなくなるけど、まあいいダメージは入れたろ。


『どうなった?』

『左腕は吹っ飛びましたね!』

『左に回り込め!弾幕の薄い方から攻撃するぞ!』

『アカメさんはどうするんですか!』

『倒すのが先』


 ベギーの奴はよくわかってるな。

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