375話 レース場で

「ふーむ……運営にレース場のテコ入れをして貰わんとのう」

「フィールドで使えるようになったから、レース場まで来て動かすのがいないだけじゃ」

「折角実装したんだから、特典の1つや2つ付ければいいのに……闘技場はあるんじゃろ」

「斎藤さんは戦車乗り回せれば満足してるじゃないですか」

「まあのう……お、マイカじゃないか」

「やっほぉ、たむろしてどうしたん?」

「レース場にテコ入れしてほしいって話じゃ」


 やってきたマイカが自分のローラーブレード……と言うか、搭乗機なのだが、あれはちょっとずるい気もする。出しておいても問題ないからと言って、小さい物から大きい物まで何でかんでも実装しすぎじゃないのかね、運営は。


「そういや、最近よくレース場に来てる人いるよねぇ……アカメちゃんっぽいんだけど」

「あのイベント以来連絡がないからのう……ログインはしているから大丈夫じゃろう」

「その来てる人が出てるのが丁度今やってるレースじゃないですかね、長距離一本道のこのレース」


 うちのタンククランのメンバーが待合室上に設置されているモニターを指差してこいつ?と言う様に指し示すのでそれを一緒になって眺める。

 レース場のレースには色々レギュレーションが存在している上に、レースのバリエーションも多い。変な所に運営のこだわりがあるのか、下手なゲームのレースよりもしっかりバリエーションが多い。その中の1つが今流れているこれ。

 ルールは長距離2輪車限定の一本道。戦闘含めて何でもあり。乗る機体は選択式で、武器や機体の調節に関してはレース開始前に全部決めて、そこから出走と言う形になる。儂は自分の機体大好きっこなのでこういうレギュレーションばっきばきに決まっているレースは出ないが、レートを上げるためにはでなきゃならない物でもある。


「武器無し装飾無しとにかく、速度特化のバイクですね」

「特に変わった所もないねぇ、ドラゴニアンのガンナーも今じゃ珍しくないしそういうタイプなんじゃないのぉ?」

「速度にのみ特化したタイプか、スピード狂ってのは恐ろしいのう」


 そんな事を言っている間にするりするりと前に出て、あっという間に先頭に。


「スピード狂ってスリルを楽しむタイプだからねぇ」

「長距離レースは速度を出しやすいからのう、勝てる戦い方と言えば勝てるカスタムじゃの」

「コーナーリングがきわっきわ過ぎて頭おかしい」

「確かに今までいなかったタイプじゃの、ある程度遊びを残すのが定石じゃったし」


 そういう解説を挟んでいる間にあっと言う間にゴール。やはり速度特化と言うのは浪漫じゃ。


「して、今の人がどうしたって?」

「いやー、アカメちゃんかなーって思ったんだけど違うなぁって」

「闘技場、フィールド、レース場、色んな所でアカメっぽいのがいると言っていたのう」

「あー、斎藤さんの所に戦車用の砲弾持ってきた人ですね」

「でもどの目撃情報もアカメちゃんの特徴と一致しなさすぎるんだよねぇ……何やってるのやら」

 

 一致しなさすぎる目撃情報に、何処で見ても何かしらの戦績を残している同名のドラゴニアン。どう考えてもアカメだと思うのだが。


「昔と違って重複ネームでも問題ないしのう」

「名前の前と後ろに『ダガー』って付けてどうにかこうにか同じ名前を使うってありましたね」

「今はID管理だからねぇ……うーん、ここに来てイベントやガンナーとして有名な所が良い隠れ蓑になってるとはねぇ」

「別にそんな探さなくても良いと思うんじゃが、どうしても見つけないといかんか?」


 みんなして探しているというのは分かるんだが、こういう時はそっとしておいてやった方が良いと思うんじゃが、何でか探し回っている気がするのう。


「まー、そう言われればそうなんだけど……アカメちゃんいないとなーんか、寂しいんだよねぇ」

「話題の中心がいないと空中分解するクランいっぱいいますし?」

「そうじゃの……そう言われるとやばいかもしれんが、ああいうタイプは暫く隠しておきたいんじゃないのか」

「まー、驚く顔が見たいってだけで色々やるタイプだしねぇ……ほぼ丸投げでクラン譲渡してるから色々立ちいかない所が出るからその点だけ聞きたいらしいんだけどねぇ、ニーナちゃんが」


 なるほど、丸投げの問題点が露呈してきたから、分かっているアカメを呼び戻したいって事か。


「まあ、暫くはいいんじゃなかろうか……大きい問題は出てないんじゃろ」

「まーねぇー……イベントでもあれば来ると思うけど」

「そういえば次のイベントって言うか、定期開催の闘技大会レース大会は明後日からですね」

「じゃあそこに合わせてる可能性もあるのう?」

「そうなると目撃情報は全部準備をしているアカメちゃんって事かぁ」

「まあ、蓋を開けてみないと分からんからの」


 そんな事を言っていれば自分たちのレースが始まる時間になるのでいそいそと準備をするわけだが、3人共同じレースに出るとは。


「何でもありのレースじゃ負けんぞ」

「斎藤さん戦車砲使うの無しってハンデで」

「あー、いいね、避けにくいからやなんだよね」

「じゃかわしい、悔しかったら自分達で用意せえ」


 そんな事いい、次のレースに入る時ちらりとみたモニター、アカメらしき人物がやけに目についた……気がする。

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