15章

370話 メインタンクの日常

「最近呼ばれないですが、アカメさんは元気にしてるんですか?」

「いや、アカメさん、クランやめたから」


 いつものティータイム、我が弟とまったりとクランハウスの一室で味わっていた所でちょっとした右ストレートが飛んでくる。「レアメタルが手に入るようになったけど道中がきついから貸せ」なんて雑に引き抜いてから返してくるなんて事をしていたのがぱったりと無くなり、気になって聞いてみたらそんな事になっているとは。


「ふむ……そんな事になっているとは知らなかったですね」

「ログインはしているみたいだけど……連絡は取れないって」


 そう言われるので自分のフレンド一覧を開いて上から順番に見ていき、アカメさんの欄に。確かにログインはしているようだし、クランはやめたがゲームは続けているって事なのだろう。

 それにしてもまさかあそこのクランハウスを手放して何かやるだろうか?ざっと見ただけでも500万はつぎ込んでいるし、下手なショップや施設に行くよりも充実しているのに、アカメさんがそんな事するだろうか。


「ちなみにいつやめたって言ってました?」

「前回の勢力争いイベント直後だって……それから皆連絡取れてないみたい」

「黒髪赤目の四白眼でスーツを着たドラゴニアン、なら目撃情報位はあると思いますがね」

「それがさっぱり、赤目のドラゴニアン結構いますけど、あんな特徴のある人が見つからないのは……」


 なるほど、あまりにも目立った装備をしていたから別の装備をしていたら誰か分からんって奴だろう。少し前にしばらく宇宙猫Tシャツのカジュアルな恰好だったがぱっとみて誰か分からなかったので、そういう事だ。確かに所在は気になるところだが、恋人でもなければ家族でもない、ゲーム仲と言うだけで根掘り葉掘り聞くというのも違うし、アカメさんの事だから何かしら考えがあってだろう。


「じゃあ当分は見つからないでしょう、今まで散々目立っていた人が普通の恰好をしたら分かりませんよ」

「前はあれだけクランに引き込もうとしてたのに……何か悪いもんでも食べた?」

「失礼な……あの人に首輪なんて付けれる人がいたら見てみたいだけですよ」


 決して本人には言わないが、私の評価としてはこれが正しい。ああいう手合い、下手にこっちからあれこれ指示すると、指示側の能力がよっぽど高くないと下に見られるし上に、噛みつかれるとぐうの音も出ない程に正論をぶつけてくる。そもそもがソロで何でもやろうとする上に、それを成立させるだけの強さがあるというのも理由だが。


「どっちにしろ、何かあれば向こうから連絡が来ますよ、自分の利益の為に他人を動かすのが好きな人ですし……それとも向こうのクランに行きたかったですか?」

「いやいや、ひたすら回復魔法を撃って、リロード中に盾にされないこっちの方が全然良いよ」

「随分信頼されてるじゃないですか、アカメさんが盾役にするのはよっぽど信用してる証ですよ」


 ティーカップの中を煽ってから茶菓子のクッキーをもしゃもしゃ食べつつふふんと満足気に。理想が非常に高い人に認められるというのは悪い事じゃない、何だったら誇ってもいい。これが能力も実力も無い相手だったら何の意味も無いが、アカメさんなら私も認める。


「まあ、元気にゲームしてますから、心配する程じゃないですよ」

「なのかなあ……」


 僕にもと言うので、新しいティーセットを出して弟に茶菓子と一緒に差し出して、お替りを自分で注ぐ。こういうのはちょっと離れた所で気にする程度で良いんですよ。






「最近呼出が無い」

「そりゃアカメちゃん、今クランやめてソロだしねぇ」


 ボス戦の最中、一つ目の盾で攻撃を受け流し、自分を踏み台にしてマイカさんを打ちあげて追撃させる。その間に二つ目の盾の持ち手をしっかり握って、マイカさんが蹴り飛ばして体勢が崩れたボスにシールドアタックと共に内蔵武器のパイルバンカーで爆発音をさせて一発かます。とは言え、全然相手はぴんぴんしてるので一度距離を取ってマイカさんと横並びに。


「そういうの教えてくれないんですね」

「だってそうだよぉ、アカメちゃん抜けたのはチェルちゃんが原因の一つだし」

「負かせたのが、かな」


 正解と言う様に○を腕で作りながらボスの攻撃を片足一本で受け止めると共に、その攻撃の反動で回転蹴りをかましてカウンター。うーん、マイカさんの動き方って毎度のことながら頭おかしい。


「ん-まあ、アカメちゃん、かなりプライド高いからねぇ……うちのクランの皆にも結構負け越してたからそれもあるかなぁ」

「そんな状態だったんですか……アカメさんが『折れる』何て珍しい」

「連絡も取れないし、今どこで何してるのやらわかんないけどねぇ……ただ、気持ちは分かるかな」


 相手の攻撃を盾で受け止め、いつものように金属が擦れる音をさせつつ、一息入れてボスが攻撃を引く瞬間にその手を押し返して弾く様にすると、少し大きくのけぞって体勢をぐらつかせる。


「戦うのが楽しいから戦うけど、楽しくない戦いって、明らかにあたしが弱いって感じる時なんだよね」


 ぐらついたボスに一気に走って飛んで、蹴り飛ばして青天井。それに合わせて十字盾を展開してチャージ開始。


「言ってたよ、満足して停滞してなあなあになっている現状じゃ面白くないし、自分自身が許せないって」


 珍しく語尾を伸ばさないで、はっきり言ってくるのを聞きながら起き上がりに合わせてグランドクロスを放ち、十字型のビームと言うか閃光がボスを焼き、ダメージを与える。アカメさんに止めを刺したスキルだけど、まさかこれが原因になるとは思わなかったよ。


「向上心がえぐい」

「本気でゲームをやってたのに、いつからか手を抜いてたって気が付いた、とも言ってたね」

「アカメさんらしい」

「また最初のイベントの時みたいに3人で戦えると良いんだけど、どうなるかなぁ」

「それはイベント次第じゃないですか?」


 まだ立ち上がるボスに攻撃してくれと言う様にマイカさんにアイコンタクト、それを見てから飛び上がると共に体を回転させ、空中で後ろ回し蹴りをかましてもう一度青天井から、両足揃えてのスタンプ。相変わらずどうやったらあんな風に攻撃を続けて出せて、えげつない攻撃を出来るのか、このゲームにおける不思議の1つ。


「っと、げーきは……流石に適正レべルが低い相手だから2人でも余裕だねぇ」

「ソロでも倒せたんじゃないんですか、これくらいなら」

「パーティ組んでるとボスの強さが上がるって言うから、手頃なチェルちゃんを呼んだんだけどねー」

「僕だって忙しいんですけど……」

「まあまあ」


 ポリゴン状に消失していくボスを眺めつつドロップ品を確認してからさくっとダンジョンから脱出。そのままの足でさらに転移でエルスタンに戻る。


「あんがとねぇ、今度はもうちょっと強い所頼むわぁ」

「ちゃんとしたパーティ組んで行きたいんですけど?」

「あたしの動き知ってる人じゃないと動きにくくてしゃーないからさぁ……ももちゃんも抜けたのもあってバイオレットちゃんとの連携も組み直しだからねぇ」

「そもそも僕と共闘したのは最初だけじゃないですか!」

「その最初ってのが大事だからさぁ、んじゃあ、またよろしくぅー」


 ぷらぷらと手とうさ耳を振ってからあっという間に向こう側、クランハウスの方へと走り去っていくマイカさんを見送ってからふと考える。


「うーん、原因の一端だと言われるとやっぱり心配になるよ」

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