356話 一服

「クエスト失敗じゃないか」

「相手が悪すぎる、これでも食らいついた方じゃないか?」

「ですねえ……まさか、向こうの陣営だとは」


 ボロボロになった車から出て、1人は思い切り悔しそうにして車体を何度も蹴り、1人は使ったガトリングのメンテナンスを、もう1人は手頃な新しい車を探しつつ、辺りを見回す。


「あんたのところの奴なら先に言ってくんない?」

「いいえ、僕の所とは違いますよ、虎の子のガトリングまで出したんですけど、普通に反撃してきましたし」

「顔見知りだが、あんなに強かったのは見た事ない」


 1人が車を止めると、すぐに残った2人を呼びつけてその場から発進。ずっと文句を言っているのが運転席、車を止めたのが助手席、ガトリングのメンテナンスをしていたのが後部座席へと。先程追い掛け回していた時と同じ配置だが、基本的に後ろに遠距離職を乗せるのが鉄板になる。

 当たり前だが、車をかっぱらうと共に警察が飛んでくるので、さっさとその場を後にしつつ、暫く走りながら先程の戦闘についての反省を。


「で、どうすんだよ、あいつは、メインの敵対勢力だからかち合う可能性あんだろ?」

「下手に相手しないのが良いかな、と。あの人相手にするのは厳しいです」

「でもクエスト出たら相手しなきゃならんだろ」

「俺も手を出さないってのは賛成だな、適当にあしらうか、ちゃんと詰めれる場合なら良いと思うが」

「んだよ、そんなにやべーのか」

「そりゃあ、今のガンナーがあるのはその人のおかげですし」

「そんな話を聞くのは、初めてだ」

「知ってる人は知っている、要注意人物ですよ」


 後ろから響くサイレンの音を聞きながら今までどんな事をして、どういう事を成し遂げていたかを説明していくと明らかにヤバい相手だというのを理解したのか、納得したかのようにしばしの沈黙。


「そんなに知ってるなら何で同じクランにいかねえんだ」

「憧れで真似たら、容赦なく叩きのめされたんで……」

「そりゃあ、叩かれるわ」

「ちゃんと和解してますから、いいんですよ」


 乾いた笑いをしながらガトリングの手直し、装填を終えるとがちゃがちゃと音を立てて直ぐに出せるようにするが、後部座席の狭い中でがりがりと座席に擦らせたりしつつ、攻撃準備を整える。


「おっと、次のクエストだな……さっきと同じ、追いかけて倒せって」

「何かこっちにいるとそういうのばっかだな」

「そりゃそうですよ、勢力争いのイベントなんですから」


 巻いた警察を確認してから、クエストの発生地点に向かい、急ターンで方向転換してそちらに向かい始める。


「次は頼むぞ、マジで」

「まあ、あの人のクラン員じゃなきゃ大体余裕ですよ、これでも僕も強いんで」

「ガンナーはパワープレイヤーが多いな」


 そんな車内会話をしながらクエストへ向かっていく。







「くしゅ!」

「くしゃみ何て珍しいのう」

「誰か噂してんじゃないの」


 後ろの方を警戒しながら穴ぼこになった車で暫く走りつつ、THの手入れをしながら忍者と合流しようという話になる。一旦別れてからそこまで時間が経ったわけではないのだが、1つ理解した事があるのだが、基本的にスリーマンセルで行動した方が良いというのが分かった。


「クエストする時は3人じゃないと駄目だ、手が足りん」

「そんなに大変には思わなかったがのう?」

「最初はな、問題はその後だよ」


 多分だけど、他勢力に影響するクエスト、その後報復系のクエストが攻撃した勢力側で発生すると考えると、下手に人数の減った所でさっきよりも大人数でこられると確実に詰む。


『とりあえず合流できそうな地点にマークした』

『では迎えに行くとするか』

『クエストをしなかったらクエストが発生したいみたいだしなー……うん、だったら合流しなくても?』

『いや、ダメじゃろ、じゃなかったらクエストが出来ぬ』

『それもそうか……じゃあサクッと合流するか』


 何だかんだでリアルで1時間くらいは別行動していたし、どんなものか聞きながら道中向かおうとするか。とりあえず爺には合流地点に、その間忍者の報告を聞いていく。


『複数勢力での陣取り合い、クエストを達成すればするほど相手の領土を食えるのが基本ルールだ、追いかけられたというのは、その陣取り阻止の為のクエスト……と言ったのだろう』


 忍者に言われた事を聞きながらメモを開いて書いておく。こういうのはしっかり纏めておいた方が良いしな。


『勢力ごとに名前が違うのも分かった、うちは最低の街だが、別の所は別の名称がある。どちらかと言えばアウトローよりの所だ』

『よくもそんなに情報仕入れる事出来たわね』

『うちのクランマスターがべらべらと喋ってくれたのもある』

『おしゃべり忍者らしいわ』

『そうか、クラン会話は普通に出来るのか』


 パーティ組んでてすっかり忘れていたし、何となく邪道な気がしてやらなかったのだが、出来るのなら有効活用しようか。


『ただ、同じ勢力じゃないと会話が出来ない仕様だ』

『あー、やっぱりそこはダメなんだ』

『儂の所は軒並みアウトじゃの、同じ勢力にいる事はいるがログインしておらん』

『ここの運営って結構手を回してくるわねえ……』


 葉巻を咥えて一服しながら、少し落ち着いてメモ帳に書き込んだことを整理していく。こういうイベントの情報を敢えて公開しないってのはプレイヤー同士の交流だったり、動きを見ているんだろうな。何でも間でも手厚くサポートしますってなるとゲームって言うよりも介護だしな。


『そろそろ付くぞ』

『了解』


 そうしてマップの指定地点に止まり、忍者との合流を待つ間、一旦車から降りて路肩に座って葉巻を大きく吸い、また大きく吐き出して辺りに紫煙を燻らせてゆったりとした時間を過ごす。


「さっきまで命の取り合いしてたってのに平和なもんねえ」


 道行く車を眺めつつ、ふはーっと紫煙を吐き出し、一服。


「ま、何もない時は平和じゃからな」

「それもそうねー……暫くは3人行動してクエストこなそっか」

「そうじゃのう」


 葉巻をくれって言うと思ったら、渡しておいた葉巻を咥えるので、火を付けてやる。

 爺といかついドラゴニアンが路肩で葉巻吸いながら眉間に皺寄せてるってどういう状況だよ、全く。

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