341話 暇つぶしからの進展

 エンジンなのかモーターなのかは分からないが、駆動音を聞きながらしばらく雪原の走行を続けている。猫耳から貰った道具はインベントリに放り込み、雪迷彩の外装に関しては4脚戦車の搭乗部分に掛けた状態にして、降りる時にそのまま装備できるようにちょっとした改造をしておいた。

 

「走ってる時はすげえ快適」


 一応ポッドのような所に乗るので外気に晒されたりはしないので凍結の状態異常が進むことはないのだが、モンスターに攻撃を貰うと停止、すぐに出ていかないと機体ごと殴られてがんがんHPを削られるので、ぶっちゃけたところ走る棺桶状態。それでも自分の力で歩き回るよりはぜんぜん楽だし快適なので、さっさとこれ貰っておけばよかった。


「……私だけファンタジー世界じゃなくてSFに足突っ込んでるな」


 そんな風に思いながら駆動音が響く操縦席の中、南西エリア3-1の雪原を走り抜ける。

 あと走っていて気が付いたのもあるのだが、よっぽど移動速度が速い相手じゃないと追いつけないので、基本的に絡まれることがないってのもメリットだったわ。


「だからって突っ込んで行ってもしゃーないからなあ……」


 操縦席のポッドから一度離れ、機体の本体に乗ったままトラッカーを使って双眼鏡で辺りをぐるっと見渡して敵の居場所を把握してから、また操縦席のポッドに入り、エンジン始動まで少し待ってから位置把握した所を避けながら3-2へと向かう。

 このゲーム、何だかんだで便利な物やシステムが実装してるんだけど、それに対してデメリットがしっかりあるので、その辺でバランスを取っているのがよくわかるわ。

 今だって平気で雪原を走っているが、乗り降りする時には絶対的に何もできない時間が出てくるし、乗ってすぐに動かないってのもデメリット。ついでに言えば今は平気だが、結構足を取られて滑ったり、氷が張っていると一気に制御不能になるのは夏タイヤだからだろうな、スタッドレス欲しい。

 まあ、何にせよ一回滑らず進めば足を取られることはないので後は勢いで、轍さえ出来ていれば無理やり後ろに下がってから前進する際に加速出来れば足を取られることも無い。


「こういう足回りもやっぱ改造出来るんだろうなあ、戦車クランの連中が弄りたくなる気持ちも分かる」


 やっぱりクランハウスに車庫を作って弄れる様にしようかな、あるとは思うけど、幾らかは知らないが。





 そんなこんなで晴天時は特に問題なく、吹雪始めるとやっぱり足周りが良くないので降りてカマクラ待機はするのだが、入口の近くには機体を置いてすぐに発進できるようにはしておく。

 天候の変動が時間で定期的になっているというのなら楽ではあるんだが、どうもランダム要素の一つのせいでそこそこ足止めされるのが痛い。

 ただでさえログイン時間が減っているというのに、準備に数日、攻略に数日なんて掛けていたらいつまでたってもゲームが進まない。だからある程度は無理やりにでも先に進んでエリアを進みたいんだが、それが難しい状況だ。


「ゲーム自体はスピードクリアしたい訳じゃないけど、やりたい事の為にスピードクリアしたいってのはどういう事なんだろうなあ」


 カマクラの中、葉巻を堪能しつつ、ふいーっと大きめに紫煙を吐きだして一息、足止めの時間が長いとどうしてもやる事がないってのがネックになるな……・


『誰かいない?』


 あまりにもやる事が無いのでクランチャットで呼びかけるなんて事をするとは。


『アカメちゃんどーしたのぉー?』

『あまりにも暇だから暇つぶし出来る相手を探してたってとこかな』

『暇してるなんて珍しいねぇ』

『モンスターしばいて先に進めば良かったのから、フィールド攻略になった途端にな』

『でもアカメちゃん、そういうの得意じゃん、最初のゾンビ屋敷の時もそうだったしぃ』


 そういやあの時もフィールド攻略と言えばそうだな、足跡辿って森の中進んで得意でもない他人を誘うって事をして今があると言えばあるんだし。


『嫌いじゃないけど、やっぱ時間食われるからな、進展しないって苦痛よ』

『あたしは倒せればいいからなぁ……どこ行ってるのぉ?』

『南西の雪原、天候の回復待ち』

『あそこは戦いがいがないから言った事ないなぁ……楽しい?』

『アウトドア好きなら楽しめるんじゃないかね、ここは』


 凍結の状態異常が付いたので焚火を起こして暖を取り、状態異常を解除。

 そういえばこんなゲームがあったな、適度に温まりのポイントに行かないとスタミナがどんどん削られて行って結果ゲームオーバーになるって言うの。まあ、それに近いと言えばそれに近い状態異常って感じもする。


『戦えないマップは好きじゃないからなぁ』

『あんたはずーっとぶれないでゲームしてるわね』

『でしょー♪』


 目の前にいたらきっとあのうさ耳をぴこぴこ動かして楽しそうにしているんだろう。兎と雪ってのも風情があっていいかもしれんが、その兎がバトルジャンキーだから辺り一面血塗れになるイメージしか浮かばん。


『って言うかそんなにやる事ないのぉ?』

『無理やり動けはするけど、移動するのに時間掛かるし、事故率高いのを考えると待機した方が良いのよ』

『じっとできないからきついなぁ……よっぽどじゃなきゃ行かないと思うねぇ』

『マグロみたいな発想してんな』


 そこから少しちょっとした思い出話やらゲームの話を続けていると、天候が回復する。

 カマクラの入口からちらりと外を見て、周りにモンスターがいないのを確認。


『天候良くなったからそろそろ行くわ』

『はーい、頑張ってぇ』


 カマクラから出て、外に待機しておいた機体の雪を払い落としてから操縦席に乗り込んで4脚を動かしその場を移動するのだが……なるほど吹雪の後は轍も無くなるし、雪原の足跡や移動した後は全部まっさらになる。

 それに当たり前だが他のプレイヤーもちらほらとは見かけるマップだが、人数でもないとなると何が原因で吹雪になるのやら。

 

「あんまし気にしていてもしょうがないと言えばしょうがないんだろうけど」


 4脚で器用にその場を慣らし、ある程度のグリップと走行が出来るにしてから勢いを付けて発進。こういう雪道は勢いを付ければ後はそのまま走り続ける。無駄にこんな所で雪国育ちのちょっとした小技が出てくるとは思わなんだ。


 ついでに思いついた吹雪の原因だが、雪が一定量踏みしめられたり、なくなったりしたらフィールドをリセットするために吹雪かせるって事もあるかな。


「ま、さっさと突破しないとな」






 また暫く走りつつさくっと南西エリア3-2に到達。

 エリア境のところで一旦操縦席のポッドから上体だけ出して視界内をぐるりと見渡す。もう暫くは雪原が続いて、途中からは山道に入るって流れのマップになる。


「途中までは行けると思うし、そのまま先に進んでいくか」


 駆動音をBGMに暫く走行し、あっという間に雪山の入口に来るので流れのまま機体で乗り込んでごりごりと雪山を進む。こうやって前に進んでいくのを身に染みて感じているが、レースイベントやったのはやっぱりフィールドでこういう移動を踏まえての実装と合わせてかな。と、言っても結構早い段階でイベントやって新しい事を実装しまくってるけど。


「まー、楽になるのは良いんだけど」


 何て事を思いつつ雪山に入ってから少しすると一気に移動速度が落ち込む。

 落ち込むというよりも上手い事進めなくなっていくので一旦降りてると、そのまま滑って転倒。


「もう滑るんかい……」


 尻餅をついたままでインベントリを開いて猫耳から貰ったアイゼンを履いてから立ち上がり、何度か足の具合を確かめ、機体を戻してから自分の足で進み始める。


「ここからが本番だなあ」


 ざくざくと雪を踏みしめる音を聞きながらさらに先に進んでいく。

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