306話 マフィア≠戦争屋

「おねーさん、火炎瓶ちょーだい?」

「高いわよ」

「んじゃ、出世払いね」


 1ダース分の火炎瓶をとりあえず渡し、ほくほく顔でその火炎瓶を楽しそうに眺める紫髪を見送る。

 今日の戦場はドルイテンの東側、仕事終わりにしか参戦出来ないからどうしても夜の第三第四の街とぶつかる事が多い。頻度的にはリアル時間で最大4時間ごと、ログイン人数と平均レベルから襲撃される街を決めているらしい。

 一度だけヴィエの襲撃があり、そっちまでは行けていないのでスルーしたが、私以外のクラン員は普通に到達してるって事実が発覚したのは昨日の話。案外やる事やってんだな、こいつら。


「剣を周囲に展開して切り刻んでるようなスキルあったけど、あれじゃダメなの?」

「消耗しないで使える道具って便利だしさ」

「どう火付けるんだ?」

「生活魔法は覚えてるからへーき」


 そういえば生活魔法って何種類あるのやら。4属性あるとしても風ってなんだ、扇風機みたいに使えるって事なんだろうかね。生活水魔法なんてあったらあのMREももう少し食べやすくなるかもしれん。


「よくよく考えればクラン員の能力ってそんなに把握してないのよね」

「それでよく戦争屋してるなあ」

「うちはマフィアでも戦争屋でもねえって」


 近づいてきたモンスターにCHをかましてやるが、倒せないので空いている指で紫髪に指示を出す。目線でそのモンスターを確認すると素早く刀を投げて追撃。ポリゴン状に消失していくのを確かめてから一息入れる。


『抜けてこられると対処が大変なんだけど』

『ボスの銃だったら余裕じゃんー』

『あんたの銃撃はもうちょっと火力を出してほしいんだけど?』


 今日はバトルジャンキー組と一緒になって戦闘しているのでいつもよりもやかましい。とは言え、口ばかり動かしているポンコツと一心不乱に倒しまくっているジャンキー、私の近くでのんびりやっている紫髪。他の連中はやる事やってから参戦すると言っているが別のエリアに行くかもと言っていたな。


「なんか、美味い事やればかなり稼げるような気がするんだけどなあ」

「何を売るかにもよると思うけど?」

「そうだなぁ……火炎瓶でも流してあちこち炎上させるのを促すってのも面白そうだが」


 そうなってくると派手に使ってるのを見せつけて売ってるのをアピールか。うちのクランでやった所でクラン員に配ってるだけだし、どうにかいい宣伝方法を見つけりゃいいか。

 

「ふーむ、それじゃあ今日は火炎瓶の売り込みをしに行くか」

「お、稼ぐ感じ?」

「暫く歩き回るから護衛は任せるわよ」

「近接用のトレーニングルーム欲しいな」

「私の家に行け、私の家に」


 とは言え消耗はするからあんまりよろしくはないんだろうな。樽人形は置いてあるけど、あれ壊れるから作り直したり修理しないといけないのが問題だったりする。そう言うのを考えていくとスキル撃ち放題、消耗無しで遊べるところってのは結構大事なんだよな。射撃場が無かったらトカゲのガトリングは完成しなかったって実績もあるか。


「庭が出来りゃいいけど、また地下の増設か……全く、金の掛かるクラン員共だ」

「可愛いでしょ?」


 抜かせ、と言いながら前線を2人に任せて別の大きいクランの所へと向かう。





「火炎瓶はいらんかねー」


 私達が陣を張っていたところからしばらく歩いて離れ、大きめのクランの所にやってきてから売り込みを開始する。まあ、傍から見たら「お前何言ってんだ」って顔をされているのだが。


「使えるのか、それ」

「そりゃあ、もう?ちょっと投げてきて」


 紫髪にまた指示を出すと楽しそうに前線に行き、最初に渡していた火炎瓶と合わせて2つ投げ込むとごうごうと音を立てて辺りが火の海……って程じゃないけど、中々に炎上しているのが目に見える。

 やっぱりボマーがある分、私が投げた方がいいかと思ったが、普通に投げてもあれだけ効果がありますって見せるほうが効果的か。


「そういえば前のイベントでも使ってたのを見たけど、それか?」

「うちはうちで作ってから分からないわねぇ、威力もそんなに出てないだろうけど、あんな風に使えるのは事実よ」


 ちなみに今相手しているクランは、全員が同じ職ってわけではなく、手頃に人数が多かったクランになる。


「火を付ける手間はあるけど、投擲使わなくてもあれで、使えばこんな事も出来るわよ」


 まだ炎上していない所を見つけて次は私が投擲スキルを使って思い切り投げ付ける。

 この火炎瓶、今まで散々使いこんできて分かった事がもう1つ、割れるまでは効果が発揮されないって事だ。プレイヤーにぶつけても割れる事は無いが、そのまま地面に落ちるとすぐに割れてぶつけられたプレイヤーも丸ごと燃やされるって事になったが。

 で、私の投げた火炎瓶は火の輪を描きながら真っすぐ速く飛んでいって、着弾すると共に強く炎上する。やっべ、ボマーついてたの忘れてたわ。


「それにモンスターも賢いから、一回炎上させたところは暫く立ち入ってこないわよ」

「なるほど……簡易的な障壁にもなるし、炎上効果も狙えるアイテムか……1本幾らだ?」

「いきなり金取ってってのも悪いから、1ダースお試しで良いわ」

「足りなかったら買ってくれって催促って事か」

「うちはかなり優良店だから」


 1ダース12本の火炎瓶を渡しながら「毎度」と一言。こういうのは地道な草の根活動ってが大事なのよ。ついでに連絡先と1本の価格を大体算出したのをメッセージで送ってからその場を後にする。





「あんなんで良いの?」

「良いのよ、酒造クランの余剰品で大量にアルコール作れるようになったし、順位を上げられないなら順位狙いの所から絞ればいいじゃない?」

「おねーさん、あくどーい」

「うんうん、もっと褒めるがいい」


 次の大きめのクランを探しながら襲撃エリアを渡り歩く。

 継戦能力ってが大事になる物量で押してくるイベントなので大クランの大半は前と後ろでスイッチするような陣形を取っている。その上で基本的にはリーダーを取っているというのもあって後ろにいる。

 なのでその待機している数が多いクランを見つけては売り込んでいく飛込営業だ。

 勿論移動している最中に襲われるので、反撃や火炎瓶を投げてアピールも忘れない。


 そしてこの営業回り、何が良いって襲撃イベント以外の所でも使い道があるって事が分かればコンスタントに売れる消耗品って事だな。そのうちもっと良い物だったり、アルコール製造しているガンナー連中も真似しそうだけど、それはそれでいい。

 

「それにこういうのってやっぱ口コミなのよ口コミ」

「使ってる所を見てどこで手に入れるか聞いてくるって事ねー」

「そう言う事、しかも向こうには初回サービスであげてるから、何のデメリットも無し。まあ、説明と実演する間の時間ってのは貰ってるけど」

「おねーさん、マフィアのボスじゃなくて商人にでもなったら?」

「その商人になったとしても、死の商人って言われそうな感じはあるけどな」


 それはそれで面白そうだけど。


「しっかり稼いでくれればあんた専用の地下室を作る事もできるからきりきり働いて頂戴」

「ははー、しっかり商品宣伝致します」


 うちのクラン員はノリが良くて助かるわ。

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