12章

304話 強さ×人数=制圧力

「オーラ付きだけど、イベント用に調整されてるみたいねー」

「の、ようだな」

「俺は向こうで試し撃ちしてくるわ」


 地面に座って肘をついて葉巻の煙をぷかぷかと出しつつ、試し撃ちに言ったトカゲを見送りながら髭親父とのんびり談笑しつつ、目の前で繰り広げられている光景を眺める。

 

「そーいや、酒造クランの余剰分買うようにしたわ」

「聞いた、大口の取引先が出来て処分に困らなくなったとな」

「いい酒流さなくてもいいでしょ?」

「……気使わせて悪いな」

「代わりに沢山酒売って取引分くらいは稼いでちょーだい?」


 ふふんと得意げな顔をしつつ、気にするなと葉巻を揺らしつつその場でまったりと状況を確認し続ける。

 今はゼイテの南側で上陸してくる海産物相手に攻防を繰り広げている所になる。南は海エリアなので2-2で防衛線を築いてどんちゃんやっているって状況になるのだが、うじゃうじゃと出てくるのはもう気持ち悪さ爆発ではある。


「して戦況はー?」

「このままなら問題ない、うちのクランも大した被害が出ないし、このまま転戦するか?」

「マフィアから戦争屋になるとは思わなかったわねー……どこが良いと思う?」

「お前さんがいない間に何度か遭遇したが、やはり時計回りで難易度が高くなるから狙いは西だな、相手とこっちの平均レベル的に人数が少ない」


 やっぱりキーポイントは西だな。モンスターのレベルの高さと対抗できるレベルを持っているプレイヤーが古参に多いってのも原因なんだろうけど、ここはしょうがない。


 で、今回のイベント、イベント開始の第一回襲撃はあっさりと防衛成功で、なおかつうちのクラン連中が西エリアでがんがんやりあったのもあってか大体の要領は掴んだし、どんな流れかも把握済み。

 まず東西南北全部の方向からオーラモンスターが4割通常モンスターが6割くらいの割合でラッシュを掛けてくるのでそれを必死こいて倒すってだけの簡単なルールではある。後は細かい所で言えば、一定数を倒せばラッシュが終わる仕様で、倒せなければ各街に侵攻されて、街の機能が一時的に封印される。

 後は色々となんか細かいことはあるけど、とにかくやってくるモンスターを倒して防げば良し、なんて簡単なルールなんだろうか。

 そしてこのルールの関係上4方向全部を防がないと襲撃が終わらないので、片付いた方向から援軍に行ってまた暴れ倒す流れが基本になる。イベントガチ勢は弱い北側の方でさっさとケリをつけて時計回りに転戦するらしい。


「まあ、うちのバトルジャンキー組次第じゃないかしらねー……」


 寄ってきた海産物モンスターに向けて火炎瓶1つ投げ付けて炎上、えらい高い鳴き声を発しつつ良い匂いを漂わせてくるので手でそれを仰いで避けつつ、葉巻を揺らす。投擲覚えたおかげで速く遠くに正確に投げられるようになったので火炎瓶の有効性がさらに上がったってのは中々に良い誤算だった。

 あれから何度か死霊相手に火炎瓶を持ち出してぶち込んでやったら数発で倒せたってくらいには強かったのでもっと早い段階で思いついておけばよかった。


「あらかた片付きそうだし、西にでも出向くか?」

「どうしようかしらねー今日のやりたい事もまだやってないし、そっちを済ませたいのもあるけど」

「ギルドのレベルを上げるの終わってなかったのか」

「タイミング見逃しちゃってさ」


 また一匹向かってくる通常モンスターに向けてCHを抜き一発。相変わらず大型銃の固定ダメージは強いけど、単発式なのがネックになってきた。


「この辺ならまだ一発で落とせるけど、数で来られるときっついわ」


 じゃこっと音を立てて中折し排莢からの装填、元に戻してふいーっと一息。

 当たり前だけど、他のプレイヤーもクラン単位、パーティー単位でしっかり団体戦で殴り合いをしているからよっぽどじゃない限りは前線の崩壊も起きないし安定している。


「今の所ゆるーい、イベントよね」

「経験値だったりドロップはしっかり出てくるしな、今後熾烈になるかもしれんが」

「やる事やりつつ、襲撃で稼ぎつつ、かしらね……うちは規模が小さいから順位も上がらないだろうしね」


 参加回数、防衛成功数、個人の撃破数、全体の撃破数と、結構色々と順位付けされるものは多いのだが、人数が少ないとどうしても順位は狙えない。

 私の知ってる大きい所で言えば、犬野郎、ちんちくりん、各種生産クランで戦えるような所は派手にやってるらしい。後は当たり前だが私も知らない大きいクランも存在しているし、出来上がっているのでその辺は転戦しまくってると言っていたな。

 イベント開始から2日たったが、このイベントで共闘したうえで大きいクランってのが、剣士系と魔法系、初心者向けのお試しクランだったな。それぞれクランの人員が1000人くらいでハウスも3件くらい持っている所らしい。よくもまあそんなに人数抱えて内部崩壊しないもんだと感心したわ。


「……って言うか順位上げたいって思う?」

「報酬も良くなるし、名前が売れれば物も売れるからな」

「ひっくり返す策の1つや2つあんだろ?さっさと言えよ」


 遅れて到着してきた猫耳も会話に参加するわけだが、別に策って言うほどの策はないんだけどなあ。

 

「参加回数、防衛成功数、全体の撃破数は一律だから良いとして、クランとしての順位を狙うならやっぱ撃破数だけど……今回のイベントとうちのクランのかみ合わせが悪すぎるのよ」


 葉巻を揺らしながら近づいてきたモンスターにまた1発ぶち込むと、追撃で猫耳が斧を振るって吹っ飛ばす。本当に何で木工やってんだろうな、こいつは。


「数を稼がないと行けないのにタイマン性能に特化しすぎてるんだよ、うちのバトルジャンキー含めて。猫耳も髭親父もそうだし、纏めて吹っ飛ばせるって事が出来るのが私とトカゲ、しかも私はボマー前提だし、トカゲはガト前提、消費リソースが高めで人数的にもねぇ」

「じゃあ、爆弾や火炎瓶を揃えて全員で投げるのはどうなんだ?」

「良くはない、範囲で吹っ飛ばしたところで有限リソースだし、昨日あたりにぶつかった魔法職のクランも見ただろ、範囲魔法で一気に吹っ飛ばせるあいつらの方が回転率が高い」


 威力の高さで言えば負ける要素は無いんだけど、手数の要素で負けてるから結局ダメって事になる。運営的に人数が多くて範囲魔法が使える所に優遇するランキングってのはどうなんだろうかって思うわ。


「そういう訳だから、手軽に立ち回り、そこそこの順位を狙って動くのが今回は建設的なイベントなのよ」

「1位や勝ちってのが好きとあれだけ言っていたのに、消極的だな」

「逆転の目があるならそっちに全力は出すけど、ないならねー……それにそんなにこのゲームで目くじら立てて動くもんでもないし」


 なーんて言うけど、人数的に勝てないってのを理解しているから諦めているだけなんだよ。私だって出来る事ならガッチガチに指示出してやりたいけど、日中はログイン出来ないし、勝てる要素ってのが見当たらないからしょうがないんだ。出来る事なら全員ぶちのめしていきたいけど。


「だからとりあえずはしっかり防衛を成功させて参加していくってので良い報酬を貰うって方向にシフトしてんのよ」

「んだよ、つまんねーなあ……爺さんもそうなのか?」

「まあ、アカメがこう言っているからな。やれって言われたら出来る範囲でやってはやるが」


 そう言う事を言ってくれるのは嬉しいんだけど、手が思いつかないのでお手上げである。


「ただ、巻き返せるなら巻き返したいってのは忘れないで欲しいわ」

「……ったく、しゃあねえボスだなぁ、俺様も前いってくらぁ」


 相変わらずの大きい獲物をぶんぶんと振り回しながら前線に向かう猫耳に手を振りつつ紫煙を吐きだす。


「の、わりに動かない理由ってのは?」

「まだまだイベント序盤だし、ある程度温存って大事でしょ」


 序盤で力入れすぎると途中で飽きちゃうのよ。

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