293話 強いボス程燃えるもの

 骨折の状態異常ってどうやって治すんだろうな。

 分離したボス、さっきのティラノよりも小さくなった、4足歩行の狼型のが出てきたみたいだ。勿論体は機械になっているので装甲は持ってあるわ、背中に剣やらをマウントしているわ、すげえな。


「……なあ、此処のボスってあれがデフォなのか?」

「いや、前に来たときは、ティラノまででした」


 回復魔法って何で白か緑の光になるんだろう。何かそういう規約でも存在しているんじゃないか?片手で雑に回復され、HP自体は結構戻ってきたのだが、状態異常が治らない。

 そりゃ回復魔法で状態異常まで治る奴なんてそうそうないよな、状態異常を何でも治す事が出来る魔法ってのは定番だけど。


「……あれ、状態異常ですか?」

「何か赤いウィンドウ出てきたわ」

「えーっと、骨折、ですか……治すの時間掛かりますね、これ」


 片手間回復からはいつくばっている私に両手を向けて詠唱を始める。回復している犬耳の向こうでは残った3人が固まって動き、相手の行動パターンを犬野郎が耐えているのが見える。

 メカクレの奴、弓だけど魔法を極めているだけあって回復も使えるのか……流石に本職の奴より回復の度合いが少ないけど。


「このゲーム蘇生魔法ってねーの?」


 ソロばっかりだし、パーティ組んだ時もポーション飲んでどうにかしろって言っていたからその手の魔法があるのかって知らないのよね。そもそも回復魔法絡みって4属性に結びつかないから想像も出来ない。


「基本的にないです、HP0になって転移されるまでに、HPを回復しきるってのはありますが」


 そういう回復魔法のルールまでも知らんかったなあ……縁のない事って一切頭に情報を入れないから、しょうがない。一切触りもしない所の情報ってのは対人くらいしか覚えておかないし、覚えれないって。


「で、いつ治るの私」

「状態異常の度合いで、ウィンドウの色が違うんですが……赤は一番重篤なんです」


 まあ骨折って一ヶ月以上かかるものもあるし、立てないくらいにやられているのを考えれば治るのが長いってのも納得。


『まだですか!』

『もう少しで終わるよ、兄さん』

『足の速い奴は対応が難しいな、自分らだと』

『MPも回復も、手が……』

『おー、ファイトファイトー』


 魔法の効果が出たのか赤いウィンドウが閉じると、そのまま立ち上がれるようになる。

 二度三度ぐぱぐぱと手を動かし、軽くジャンプしたりして動きを確認するが問題なし。すげえな回復魔法、リアルで欲しい。


「よーし、反撃してやろう……って思うんだけどなあ」


 CHはクールタイムがあるから、もう少し使えないし、とりあえず装填……装填?


「うっわ、マジか……銃落としたわ……」

「さっき吹っ飛ばされた所、ですかね」

「とりあえず犬野郎にヘイトを集めさせておいて、探してくるわ」


 分かりました、と返事をするとぺたぺたとボスと相対している犬野郎の所に走っていく。えーっと、あの辺だったかな、吹っ飛ばされたのは。


「銃落とすとかマジかよー……」

 

 向こうではぎゃんぎゃんと剣戟をしている音が響いている所、四つん這いになりながら地面を探る。トラッカーはアイテム感知出来ないし、どの辺で手放したか覚えてないんだよなあ……。

 ああ、でも、FWSを撃ち込んだってのを考えればティラノの抜け殻正面ってとこかな。


『アカメさん、遊んでないでさっさと戻って来てくれます!?』

『銃落としたんだからしょーがないでしょ、お、あったあった』


 それにしても戦闘になると結構犬野郎の奴、口が悪くなるな。短気は損気、タンク型なんだからもうちょっとどっしり構えておいて欲しいなあ。


「手放してもクールタイムは掛かってるか……引き金絞れないわ」


 CHを一度折り、排莢してから引き金を2度ほど引いてやるが撃鉄は動かない。すぐ使えるウサ銃はあるけど、ああいう素早い相手に対しては長物って取り回しが悪いんだよ。


 なんて銃を確認していると、私の横をドラゴン頭が吹っ飛んで転がってくる。何かあのボスって特殊な動きってのがあるのかね。


「強い?」

「かなりな……悪いが、ガヘリス呼んでくれ、動けん」

「ああ、骨折させるってのがあいつの特殊かもしらんなあ」


 とりあえず仰向けにさせてから口にポーションを突っ込んでから、犬野郎の所に合流する。




 距離を詰める時は一気に、背中の剣を器用に体を捻って剣をぶつけてくる、そして距離を取ればどこにマウントしているのか知らんが、弾を撃ちだして牽制攻撃。遠近両用で動ける上に素早いって強いボスだな。そして何よりもモデルがカッコいい。もうこれよ、カッコいいは正義。


「ドラゴン頭が骨折、回復しに行って」

「わかりました、兄さんヘイトを」

「分かっています、頼みますよ」


 地面を蹴る音に合わせて犬野郎が盾を構えると金属のこすれる音をさせ、地面に足がめり込む。ヒットアンドアウェイで、一発近接攻撃を当てて、離れて牽制射撃、また近づいて一発と言う行動ルーチンが基本か。


「動きとめたら私も攻撃する、すぐ離脱してもかち合う時は止まるし、いけるべ」

「お願いしますよ、メタリカは引き続いて回復を」

「わ、わかりました……」


 一撃を当てた後、剣を支点に飛び回ってくるんと後ろに回り込むので、着地を狙ってCHで早撃ち。キィン!と甲高い音をさせると、装甲の一枚が吹っ飛んで宙を舞う。


「悪い、外した」

「いえ、良い当たりです」


 装甲を一枚剥がされたので剣での振り抜き攻撃をやめて、バックステップしつつ牽制射撃。後ろを取られたせいで犬野郎がカバーに入れないのでメカクレを咄嗟に後ろへ下がらせてガンシールドを展開させ射撃攻撃を受ける。持ってきておいて良かったガンシールド。


「いてて、結構ダメージ貰うな」

「あ、ありがとう、ございます……」

「動きの速い相手だとどっしり構えたときの出遅れが気になりますね」


 牽制射撃を数発受けていると、犬野郎が前に出てまた盾受けしてタンクの役割を全うする。んー、障害物の一枚でもあればいいんだが、場所がだだっ広いうえにちょっと岩が転がっているような所なのでそう言うのも期待できない。


「って言うか、凄いな、連撃してきたと思ったらすぐに下がるわ、立ち回りが単純に強い」

「オーラ付きのイベントボスだと思いたいくらいに良い動きですね」

「な、なんでこんな時に笑って、いられる……?」


 犬野郎も私もにんまりと笑って相手を見据えている。

 そりゃあ、強敵と戦う方が楽しいに決まってる。そしてその上で勝つのが最高なんだよ。

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