285話 タラバはクモじゃなくてヤドカリ

 相手が強いからって委縮してたら何にもできないって話よ。

 つまりどういうことかって言うと、強い相手ならそれ相応に楽しんで出し惜しみせずに戦えって事。


 北エリア3-1だが、珍しくアクティブが少なめ、但しレベルは高く、と言った完全に此処からまた新しくスタートしろって運営からのお達しの様なもんだ。40レベルってキリが良いのかって言われたら微妙だけど、二次職取って奥義も取ったし、戦いの幅が広がった所で一段階強い奴をぶつける……って流れで行けば、第三の街からどう進むかってのがポイントになるって事か。


「だとしても一戦ごとが結構きっついわ」


 ふいーっと葉巻で一服しながらポリゴン状に消失していくモンスターを眺める。

 特殊な攻撃ってのも結構増えてきたし、やっぱりちゃんとした装備を揃えるって大事。


「一通り倒して、レベルも上がったし、そろそろ打剣来てもらわないと困るっての」


 流石に相手のレベルも高いし、習熟度関連も良い感じに進んでくれていると良いんだが、今の所は兆しなし。って言うかいきなりモンスターのランクが上がっているせいで苦戦しまくってるんだから、それくらいおまけしてほしいわ。

 とりあえずモンスターを一通り倒したのでその情報を纏めておく。



北エリア3-1

Lv40 ゼラチン

Lv41 パララット

Lv42 ナージャ

Lv42 土蜘蛛



 分布はこんな感じ。

 この中で言えば一番ヤバいのはゼラチンってスライムの出来損ないの様な相手がぶっちぎりになる。

 しずく状の青い奴や、美味しいデザートの名前が付いているのにやたらと属性魔法を飛ばしてくるような奴がぷるぷるしてるモンスターとして有名だが、ああいう可愛い系じゃない、ガチの奴。

 昨今のファンタジー系小説やラノベによく出てくる、ぷるぷるしてて可愛いけど強くて頼り、ついでに女の子にかかったら服が溶けて主人公に見られるってのがパターンだが、そんなあまっちょろい奴じゃない。

 攻撃を貰えば服と言うか、生身まで溶かしてくるので、可愛いあの子の骨格まで丸見えになるので、セクシーを通り越してスプラッタよ。


 かく言う私も、内蔵丸見えのセクシー姿を見せてしまったからこそ分かったんだけどな。ゲーム自体が全年齢って事だから一応モザイク処理されてぼかされたが、あれは完全に見えてたわ……ポーション飲んだら元に戻ったので、問題無しだったが。

 決して可愛いとか言ってそいつにダイブしたわけではなく、爆裂手裏剣で吹っ飛ばしたら、溶解液が辺りに飛び散り、それをもろに被ったのが原因になる。

 結局安全に処理する方法が魔法を使わないと行けないと言う事が分かったので、4体の中じゃ処理に一番困る。しかもやらしいのがノンアクティブ潜伏系なせいで、気が付かずに踏んだらそれだけでダメージ、他の奴と交戦しているときだとそっちへの対応しないと行けないので苦労倍増。


 その次にきついのは土蜘蛛。

 単純に大きい蜘蛛なのだが、糸玉を飛ばしてきて、こっちの動きを封じるって言うんだから、やりにくい。ついでに普通に強いから苦戦するが、行動阻害をしてくるってのが大きいな。ただ、近接攻撃メインなのでそこまで苦労はしない。行動阻害で手を封じられたら完全にアウトだけど、今の所、2,3回食らっただけなのでセーフ。


 ナージャは完全に近接攻撃で数回攻撃してくるってだけなので距離を取りつつ攻撃すれば良し。

 下半身蛇で上半身が人間でナージャ、ナーガラージャがモデル何だろうってのは分かる。こういう異形が性癖の奴には刺さるんだろうな、こういうモデルのモンスターって。モンスター的には近接攻撃さえ気を付ければ良し。


 最後のパララットは、結構ふざけた名前のくせに魔法主体ってのが嫌らしい。

 プレイヤーでも珍しい雷属性を使ってくるのと、麻痺系の攻撃をしてくるので、ずっと痺れるようになる。麻痺すると完全に動けなくなるわけじゃないが、武器がうまく握れなくなったり、思った通りに動けなくなる。

 流石に完全に動けなくなる奴だと麻痺耐性があるものを用意するのが必須になるし、MMOで確定死亡のハメ技ってなかなか叩かれる要素よな。


 状態異常だったり特殊攻撃がまだあるみたいだが、それが強いと言うわけではなく、そもそもの強さがあるので、プラスアルファで苦戦するって話よ。


「レベルは上がるが、打剣は取れず…立ち回りしか上達せず」


 今のところナージャが一番楽だな。

 余計なことしないで走って近づいて右ストレートってくらいにはシンプルな相手だし、そればっかり相手できればいいに越したことはない。

 が、ここで問題になるのがオーラ付きってことになる。


 土蜘蛛のオーラ付きと当たったのだが、もうカサカサ動く速度も上がるし、近接攻撃は鋭いし、糸玉だと思ったら毒弾吐いてくるしで、えげつない相手に変貌よ。


「インフォ見たけど特には記載されてないし、一番新しいアプデ内容も、生産スキルと使うときに必要だったアイテム類が不要になるってやつくらいしかないし」


 乱雑に色々と書き記したメモ帳も画面を消し、ため息と共に葉巻の紫煙を吐き出してから立ち上がる。足元にも注意を払わないとゼラチン踏んで死にかけるってパターンもあるのがこのエリアの難しい所。結構な頻度で他プレイヤーが騒いでいるのが聞こえるのだが、大体はゼラチン踏み抜いての怒り声だったりする。


「下手に踏んだら痛いダメージってのがやっぱネックだけど、こういう時はガンナーで良かったって思うのよねぇ」


 なんでも使えるトラッカーが便利で優秀。

 視認できる範囲での索敵で言ったらぶっちぎりの使いやすさと範囲、そろそろ視覚系のスキルも欲しいが、まだまだ手に入らないだろうな。


「そんな事よりも暫くは此処でレベリングして、打剣が取れ次第ガンナーに切り替えて進行ってとこか」


 葉巻を揺らしつつ、辺りにいるモンスターをトラッカーで探し、見つけ次第不意打ちで攻撃して戦闘開始。今回の獲物は土蜘蛛だな。

 さっきまとめたのもあって、相手の口元に注意して糸玉の攻撃をしっかりと警戒し、中距離での立ち回りを意識したら負ける要素は無い、はず。

 基本戦術は既に固まっているので、基本は手裏剣投げでダメージを与え、ぐらついた時や攻勢に出れるときに忍者刀で斬りつけ、深追いしないですぐに引く。で、飛ばしてくるであろう糸玉を避けて、の繰り返しで行ける。


「一人だけソウルライクなゲームをしている気がするわね」


 あの手のゲームは嫌いじゃないんだが、同じようなコンセプトのゲームが多くなったというのは単純にうんざりしたなあ……何て事を考えていたら糸玉を胴体に貰って声が漏れる。

 

「やっべ、やらかしたわ」


 胴体に貰った時に手をポーチや、銃に掛けてなくてまだ助かった。

 完全に自分の投げ物やガンベルトにべったりと糸が絡んでいるので手裏剣や銃を抜けなくなっているのが弊害になるのだが、これを取るのはちょっと面倒くさいと言うか、手間と言うか。


「ああ、もう、余計な手間を……!」


 糸玉吐いた後は少し間を置いてからこっちに接近してくるので、此処は慌てず自分に向けてファイアを唱えて糸を焼き切る。

 当たり前だけど自爆ダメージ、ついでにMPも消費するし、燃やし続けると延焼ダメージも入るので、加減が大事。時間が足りないと燃やしきれないので無駄に消費することになる。こういう時にパーティ組んでいると便利なんだろうけど、あいにく1人なのでしょうがない……それにしても魔法覚えておいてよかった。


 蜘蛛糸を焼き切り、近接攻撃を貰う前に手裏剣で頭部に反撃。

 さくっと攻撃が当たるが、痛覚がないのか気にせず突っ込んでくるってのも蟲系モンスターの強みだよなあ。


「なんて余計な事を考えてたらやられるんだよ、なっ!」


 少し焼き過ぎた自分の体から焦げる匂いを感じながら、怯まず突っ込んでくる土蜘蛛に合わせて忍者刀を引き抜いて足と胴体の隙間をすり抜けながら一撃。

 斬撃音はするが、斬れる程の技も力もないので多少ダメージを与えつつ走り抜け、私と蜘蛛が一緒になって振りむき合うのに合わせて爆裂手裏剣を投げ刺し、決着。

 

「吹っ飛んでくれるだけありがたいわ」


 爆炎を眺めながら一息入れ、新しい葉巻に火を付けようと思った矢先、葉巻が毒々しい粘液によってダメになる。


「ちぃ!」


 飛んできた方向、明らかに爆炎があがって倒したと思った土蜘蛛の方からで、爆炎が収まるとオーラ付きになった土蜘蛛が此方を見て口元の牙を揺らす。


「ああ、そうか、そりゃ、そういうパターンもあるよな!」


 途中でモンスターが強化されないって固定概念はどっから沸いたのやら。


「連戦する程強くないってのに、全く……!」


 第二ラウンド開始には早すぎるっての。

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