276話 二回目の初めの一歩

「っと、結構様になってきたんじゃないかな」


 投げ物の入ったポーチから手早く手裏剣を探り取りだすのと合わせ投げる。

 この一連の動作に慣れるまでがまあ大変だった。別にスキルがどうこうっていう訳では無くて、今までは探って取り出して、狙って、投げるの3動作を繰り返していたのだが、取り出すのと同時に投げ付ける方法に切り替えた。ま、スキルがないから3回に1回くらいの割合でしかちゃんと飛ばないし、投げそこなうんだけどさ。


「ようはガンナーの早撃ちよね、これ」


 しゅぱっと腰撃ちするあの感覚だな。ただ撃つのと投げるのってまた勝手が違うから難しい。真っすぐ投げるのであればオーバースローで振り下ろす感じがいいわけだが、アンダースローで投げるのも難度が上がってるんだろうけどさ。


 そんな事より、とりあえず手頃なラビットを見つけて取り出し投げ。

 いやぁ、こんなに上手くいかないもんかね。思いっきり外れてるし、力のない音をさせて地面に突き刺さるのを見るとかなり凹むわ。


「まあ、最初の頃もそうだったけど、そうそう上手くいかないな」


 銃そのもので殴ってもダメで、銃剣をあーだこーだ言いながら付けた後もそんなにうまく使えずに苦戦したもんだ。それにしてもレベル36にもなってLv1相手のモンスターを満足に倒せないのは結構プライドが傷つくわ。

 ほんとスキルって大事だなあ、このゲーム。


「んー……っと」


 攻撃が当たっていないので、変わらずノンアクティブのラビットに対して2発目。

 取り出すのと同時に投げ放つと、上手く回転を乗せられた手裏剣がサクッと刺さり、鳴きがあたりに響く。いいね、上手い事行くとやっぱ楽しいし面白い。

 攻撃が当たったので、勿論此方に攻撃をしてくるため向かってくるラビットを迎え撃つために、もう2発ほど投げ1発外して1発命中、ふむ……ちょっとはまともな動きが出来るようになってきたな。


 で、そのままラビットの体当たりを貰う。

 流石にゲーム開始とは違って防具は揃っているし、1ダメージしか貰わなくなっているので、体当たりを貰った後に距離を取って一呼吸おいてまた手裏剣1つ投げ放つ。よし、さっきと同じように良い感じに投げられた。

 そして合計3発当てた所でポリゴン状に消失していくラビットを眺めながらその場に座って一息。


「ノンアクティブってのを生かして、距離を詰めている状態でさくっと3発投げ込んで倒す方が効率がいいんか」


 結局5枚も手裏剣使って1体だし、2枚ロスしてるのを考えればギリギリまで近づいて倒す方が時短にもなる。近づけば当たるってのは銃と一緒か。


「スキルとしての引継ぎは無いけど、知識として引継ぎがあるってのはやっぱ大分違うわ」


 なんでもそうだが、やっぱり経験の差って大きいな。

 ラビットに苦戦してるよってちらちら見られるのはあったが、一番試し撃ちや相手するのに重宝するのは此処だって後々気が付くんだろう。

 今まで特に気にしてはいなかったが、私以外のレベルが高めのプレイヤーもちらほらといるので、スキルのお試しやスキル習得には向いているって事よな。


「もうそろそろ投擲くらい覚えても良いと思うんだけどなあ……レベルすら上がらないし」


 ちなみにさっきの兎でやっと1匹目だったりする。

 それにしても先が長い。レベル差があると累積回数に+補正が無くなるとか聞いたけど、その辺の仕様も詳しくないからひたすら倒してどうにかするしかないってのがなあ。棚ぼた的にあっさりとスキル入手してみたいわ。


「投げ物入れられるポーチと投げ物自体をもっと増やして金の力に任せたごり押し解除ってのもいいなあ」


 全部自作出来るんだろうけど、素直に金の力で楽しよう。

 で、戻る前に持っている手裏剣と苦無、全部投げ切ってから戻るか。





「毎度」

「ねー、投擲と打剣のスキルってどう取るの」

「そうだな……とにかく投げろ」


 NPCのわりにちゃんとしたヒントをくれるとは。

 投げ物用のポーチを1つと手裏剣と苦無を100本ずつ購入した甲斐があったってもんよ。ガンベルトに手裏剣と苦無がぱんぱんにはいったポーチ2個も提げるってのはなかなかシュールな姿だけど。


「具体的に何本投げたらいいとか……」

「それは自分で見つけるがいい」


 やっぱりそこはマスクデータか。って言うか改めて思うのだが、うちの秘書達もそうだが、NPCのAIが優秀だから結構無茶ぶりな質問をしてもいい感じの返答をしてくるのが凄いわ。

 こっちの質問に対して、投げまくると覚えれるけど、具体的な数字は教えられないって言う絶妙なヒントになっていると思う。


「どっちにしろガンナーやってる時に比べりゃ圧倒的に楽だわ」


 投げまくれって言うんだからとにかく両手投げの練習しよう。

 これで効率2倍になったらいいんだけど、そういう訳にもいかないんだろうな。





「で、何やってんだ?」

「実験」


 クランハウスの地下、射撃場でガトの調整をしているトカゲの横で射撃台に投げ物のポーチをおき、手裏剣取り出しすぱっと的に投げる。動かない的に、真っすぐ投げりゃそりゃ当たるわな。

 そんな事よりも何でここに来たかっていうと、投げ物の消費はしないのかどうかって実験もかねてなのだが、やっぱり射撃物ではないのでそこまで万能では無かった。


「流石にそりゃなしか」

「ガンナーと忍者ってまた相容れない所を選ぶんだな」

「両手持ちの武器じゃなかったら片手開くし、音も鳴らさずに攻撃出来るから良いと思ってね……あんたとポンコツは何選んだのよ」

「俺は鍛冶だ、もともと物作りが好きだったし、ガンスミスは想定外の職だったからな。ももえは確か格闘系の職だったか……ガンカタを使うのに合わせたはず」


 無難と言うか、想像通りと言うか……そりゃそうか、と言った感じだ。つまるところ私がオールマイティに、トカゲは趣味、ポンコツは長所を伸ばしたって事だな。

 

「そういえばバイオレットとやってる時のを観戦したが、よくあんな戦い方思いついたな」

「クランが出来てからアイテム大量に持つ事しなくなった弊害ねー……ヘビースモーカーで良かったって心の底から思ったわ」

「俺も魔法取っておくかな……」

「付与魔法はいいけど、MP少ないとただただ苦労するだけよ」


 リズムよく手裏剣を手にとっては的に当てる。魔法弾や属性弾を撃てるかもってので何度か試したわけだが、やっぱりMPが少ないのにMPの使用頻度を上げるとMP回復をしなきゃならんって手間も増えるのでお勧めできないのよな。


「まー、ずっと同じような事しても面白くはないけど、ねっ」


 また1つ、ストンと音を立てて射撃場の的に手裏剣を当てる。と、共に久々にSEが頭に響く。

 

『条件を満たした為、スキル「投擲」がアンロックされました』


「おっと出てきた」

「何かスキルでも手に入れたか」

「ま、SP無いからまた暫く手に入れる事は出来ないんだけど」


 何だかんだでさらに50発ずつ投げ込んでいたので、まあ妥当な所だろう。これ1次の方が覚えやすい気がする。


「スキル揃ったら闘技場のランクでも狙うか?」

「んー、紫髪とあんたでしょ?上位狙うのきついと思うんだけどねえ……」

「銃のメタされてるから難しいが、モンスター相手とは違うし、いい気分転換にもなると思うんだが」

「まー、考えとくよ、折角の誘いだしな」


 あの猫耳の奴にも仕返ししないといかんし。

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