267話 柄にないこと

 中々連携の取れている3人だと後ろで見ていて改めて思う。

 私はなるべく手を出さないと公言したので、最低限自分の身を邪魔にならない様に守りつつ戦況を見て楽しんでいるわけだが。私が抜けたとは言え、相手の攻撃手段はもうわかっているし、対処方法も割れている。このまま油断して瓦解しなきゃ問題なく倒せるだろうな。

 そこそこレベルの上がった奴なら、あまり強くないボスってのもあるっぽい。何だかんだで北エリアで一番難度の低いダンジョンだし、ちゃんと攻撃を受けて、反撃して回復したら勝てるはず。

 ふむ、そう考えていくと良いボスだな。しっかり前衛後衛を分けてパニックにならなければ長期戦になっても倒せるはず。

 やっぱりいきなり強い所行って、パワーレベリングしたり、ワンパン武器でボス乱獲とかしない方が良いに決まっているのだが……特大のブーメランを投げて思いっきり自分で食らってるな、これ。


『もうポーションないで!』

『こっちもガス欠近いな』

『まだ耐えられるから、少しでも削って行こう!』


 うんうん、頑張るなあ。

 私が手を引いてからもしっかり受けて反撃して、確実に数を減らしてもうちょいって所まで来てるから、ゲームとしてしっかり立ち回れているのがよくわかる。


『アカメ、いるか?』

『なーに?』

『蒸留器もう一個買ってくれんか』

『ちょっと前に買ったばっかりじゃないの、資金と場所があるからって我儘言うんじゃありません』

『ぬぅ、ダメか……じゃあ自分で買うのは良いか?』

『それならいいけど、今の用事終ったあとになるわよ』


 パーティー会話とクラン会話を切り変えつつ、状況をちらちらと確認、っと……。


「そこ、油断しないの」


 横から沸いてこっちにやってきたコボルトをウサ銃で撃ち抜いて葉巻の紫煙をふいーっと吐き出す。取ってて良かった早撃ちスキル。

 やっぱり色々な攻撃スキルを持っている方が良いんだろうけど、細かい所で強くなれるパッシブ型っていいよな。これが対人メインのゲームだったら手の内がばれないからもっと強いなんて言われていたんだろうけど……今度闘技場にでも行ってみるかね。


『って、あれ、アカメさん銃弾ないんじゃ?』

『別に弾切れしたなんて一言も言ってないじゃない』

『じゃあ、援護してくれてもええやん!』

『うむ、ちょっとは俺たちの労をだな』


 労っているから、しっかり露払いしたげてるんだけどなあ。


『やっぱり最後は自分達でやる方がいいでしょ……それにもうちょっとで倒せそうだし』


 3人の視線を指で誘導して、女王バットの方へと向ける。

 明らかに数が減り、本体と思われるのが露わになっているのを見ろと言う様に。


『それに出しゃばる上級者って鬱陶しいでしょ?援護はしたげるから』


 メニューを開き、パーティーを脱退。

 それでも約束通り、その場に残って完全に観戦ムードにしつつで3人の後ろで銃を構えて控える。本気でちょっと新規育成何て事もしてみようかなあとは思ったが、やっぱ柄じゃないよなあ……。


「アカメさん、何でパーティをっ!」

「経験とドロップ吸ったら悪いでしょ」


 先程1発いれたコボルトにリンクして、1体増援が来るのを遠巻きに確認できたので、ウサ銃での早撃ちで増援に対して足止めから、CHを引き抜いてさらに早撃ちで元々いたコボルトを撃破。

 バシュっと音を立てて薬莢の排出音を出し、すぐさま装填スキルで銃弾を入れなおし、追加でやってきたのも続けて撃破。流石に距離があって足止めできた相手になら問題なく対応できる。


 で、その横で蝙蝠相手に奮闘している3人は、そろそろ倒せる所まできたのか、前衛の2人が攻勢に出ている。

 攻撃が一度止む瞬間にポーションを3人でやり取りをしつつ、防御し、反撃して確実にバットを落としていき、ようやく最後の女王の個体と対面。

 やっぱり音爆弾で気絶させるのって結構反則技だったのかな、あれで落としてさくさくっと取り巻き含めて倒してあっさり撃破したが、正攻法でやった場合だとこんな感じに……なったんだろうけど、ガンナーでソロだったら私は確実に勝てない相手だって改めて思い知るわ。


「お、そろそろ倒せるか」


 不意打ち気味に横から飛んできたバットを焼き落として援護、数が多いけどHPが低いのはありがたかった。こんなへなちょこ威力の魔法で落とせるレベルのHPで良かった、マジで良かった。

 そんな事を思っていると3人組が女王バットを叩き落としたのか、一斉に走り出して止めを刺しに行く。あー、いいねえ、しっかり止めを刺しに行くって大事。

 ちょっとしたリンチ現場みたいになっていたが、しょうがないね、飛ばれると面倒だし。




「倒したぁ!」

「もうからっからや……」


 気疲れしている前衛の2人が座り込んでいる間にヒーラーは当たりを見回して残ってるのがいないか、しっかりと確認している。この中じゃ一番ゲーム慣れしているのかね。


「お疲れさん」

「随分お膳立てされた気もしますけど」

「あー、ボス疲れるわー、めっちゃスキル使ったし」

「周囲に敵もいないし、休憩しよう、ポーションの手持ちも無いしな」


 とりあえずと壁際にもう一度行ってから、座って一息入れる。

 ああ、こういう時にちょっとしたらお茶のセットとかあると便利なのか。紅茶狂いの犬野郎、呼んだら此処まで紅茶持ってきてくれねえかな、出前みたいな感じで。


「そういえばアカメさん、何で此処にいたんですか?」

「ああ、本当は付与魔法の実験でロックラック殴ってたのよ、硬い相手かつ反撃で死なない程度の相手ってのが丁度よくてなあ」

「だから、こんな所に有名なクランのマスターがなあ」


 納得したように柊が頷いている。こいつは私の事知ってるのか、結構意外だったわ。ユーマとシロに関してはぽかーんだけど。

 でもまあ、あんまりそう言うのは言ってほしくないんで人差し指で「しー」っと言いつつ軽くウインクしてみる。うっわ、柄じゃねえ。


「アカメさんって有名なんですか……そんな人を気軽に誘ってしまったのか……」

「有名だろうが無名だろうがプレイヤーの1人だからそんな事ないって、まあ、本当は有名なクランマスターの名前が似てて、職が一緒だから、間違われてるだけよ」


 良い感じにあいつに全部擦り付けておこう。別に迷惑掛けている訳でもないし、隠れ蓑にしてもらっているだけよ。たまたま、偶然、名前が一緒だからしょうがないよね。本当に?といった顔をしている柊はそのまま黙っている。


「アカメさんの使ってた付与魔法は便利やったなぁ、うちも欲しいわ」

「魔法戦士ってのもちょっとカッコいいよね」

「俺はヒーラー専門だから覚えんぞ」


 そういえばと、言いながら目を輝かせて此方を見てくるシロに、教わった魔法の説明をしつつ休息回復をしながら、地面に指で色々と書き込み、説明を続ける。

 ……うーん、まだ私も把握してない事が多いからあまり上手に説明できないってのがもどかしいと言うか、不甲斐なさを感じる。


「へぇー……覚えるだけ覚えてみようかな」

「まあ、私も数時間前に聞いたばっかりの話なんだけど、色々やれる事が多いってのは良いと思うわよ」

「SP使わないってなら覚えてもいいかも」

「あかんわ、うち今お金ないんよ」

「シロは食事アイテムにお金使いすぎなんだよ、すぐ食べちゃうし」


 えへへと言いながら誤魔化しているのを眺めながら新しい葉巻を咥える。


「さーて、そろそろ戻るとするか……私も良い実験ができたし」

「あ、そうですね、補給もしたいからエルスタンに戻りましょう」

「アカメさんは戻るまでパーティでいいか?」

「先輩プレイヤーって貴重やしなー」


 改めて飛んでくるパーティの申請を受理してから紫煙を吐きだしてから立ち上がり、ぐいーっと伸び一つ。


『戻ったらいい教師役の奴を紹介してやるわ』


 やっぱ何か教えるって柄じゃないわ、私。

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