225話 奴を見た

 トカゲとガサツエルフにマガジンの作成を任せてから数時間、クランハウスに戻ってサイオンにガンナーギルド周りの情報を伝えて、どれくらいの金額でどこまで教えるかの設定を組み込んでいく。

 優秀なAIが入っているとは言え、殆どが自力で設定してやらなきゃいけないって言う、ローテクとハイテクの合わせ技。

 3人分全部やらなくても良いってのはあるけど、それでも色々設定していくのは大変過ぎる。設定するのにもサイオンがヘルプを出して、それを見ながら私が操作ってどういう事だ。


「えーっと、これでいいかな……金銭取引をトリガーにして、取引内容の会話を設定して……ぐあー、めんどくせえー!」

「はい、設定が完了しました。確認をなさいますか?」

「そりゃそうよ」


 サイオンに再度話しかけて、クランショップのメニューを開く。

 今更だけど、クランショップの仕様は店頭で見れるのが在庫で金銭取引に関しては店員であるサイオンか、購買出来るショップメニューを開いてやり取りする。

 で、肝心のガンナーギルドの情報についてはそのショップメニューを開けば商品として存在していて、それを購入する事でサイオンから設定しておいた金額に基づいた情報がプレイヤーメールで送られる。口頭でもいいと思ったが、会話で周りに漏れるって言うのを防ぐための処置なのでしょうがない。


 その設定しておいた情報だが、グレード的に3種類。

 一番安いのでガンナーギルドがエルスタンにあるとだけ、その次にギルドの場所、そして一番高い情報で正確な位置とギルドへの参加条件まで。

 ちなみに上から順番に25万、10万、1千Zの価格帯にしている。

 

 とは言え、こういう情報は1人が購入してそれを広めたら商売あがったりなので、情報量は結構吹っ掛けている。それでも、まあ、広まった所でってのはある。

 そもそもガンナー自体の界隈が賑わうってのは良い事だし、情報が売れなくなるってのも、ゲームが進めば進むほど、新規の情報しか売れなくなるので、当たり前と言えば当たり前。人口が増えていくので色々な発見をされるのも時間の問題だろう。


 詰まるところ、この情報ってのはきっかけであって「こっちのクランのほうが有益」と、間接的に理解してくれれば問題ない。

 

「さてと、価格も設定済み、送られてくるメールも問題なし……ログは取れるでしょ?」

「はい、購入者は確認できています、毎日の報告時に合わせておきますか?」

「いや、そこまではいいわ……ただログは保存しておいて」

「かしこまりました」


 うちの敏腕秘書が優秀でとっても満足。

 そういや前に一度わしゃわしゃ撫でてやると黙って俯いて大人しくなったのを思い出した。

 撫でまわすのが面白かったのでアイオンとシオンにも同じようにやったのだが、反応はそれぞれ違っていた。一応性格がそれぞれ違うんだろう。細かい所ばっかり、作りこんでるなこのゲームは。


『マガジンは用意できた?』

『おう、15本ずつ計30本だろ、丁度出来た所よ』

『値段は3,000Zで言った通り、そっちの取り分は6割でいい?』

『そんないらねえよ、材料仕入れてるのボスだろ……手間賃込みで4割でいい』

『じゃあボス命令な』

『うっわ、職権乱用じゃね』


 サイオンにトカゲの奴への取り分を4:6にして、変更不可にしておく。

 これでクランショップの準備は完了だな、後の細かい商品やらに関しては今まで通りでいいだろう。かなり余計な物と言うか、趣味品が多いってのがうちの店の特徴だな。


「相変わらず何を売ってるのかよくわかんないラインナップだな」


 大量にある爆弾と火炎瓶、猫耳が趣味で作って余らせまくった無駄に出来の良い木工家具や木工武具。トカゲの奴が遊びで作ったガトリングの試作やガンシールド。髭親父が作った数々の酒。ポンコツとバトルジャンキーがどこからから引っ張ってきたドロップ品の数々。

 こうしてみると雑多にも程がある、もうちょっと整理しようかと思ったが、それはそれで自由にしていいと言った手前、咎めるってのもそれはちょっと違うな。


 はぁーと大きめにため息を吐き出して雑多な棚を見ているとサイオンがてきぱきとその棚を整理して、しっかりとジャンル別に陳列をし始めている。

 ああもう、私の敏腕秘書は優秀だなあ、よーしよしよしよし。


「あの、髪の毛が乱れるので、それは、そのですね」


 そうは言っても拒否しない辺りが良い子だな。撫でわしゃり多少ぼさぼさになった髪の毛を整えてやり、非常に満足。


「じゃあ、ショップは任せるわ」

「はい、いってらっしゃいませ」


 

 さて、これでクランとしての仕込みは完了だな、マガジン以外の物は売れ行きをみながら開発しよう。情報の売れ行き次第ってのもあるが、出来合いの銃を所持しているのが増えればそれだけ需要も広がる。パイプ系の銃器は作りやすさの変わりに、色々と足りない部分が多すぎる……と、1つ思いついた。


『ねえ、刻印入れた鉄パイプ売らない?』

『そんなに使えるもんじゃないが、どうしてだ』

『あいつら一丁前にもちゃんと火縄の機構を作ってるっぽいけど、あれって湿気るとアウトだし、ガス室の関係で威力落ちるはずなのよ』

『いつ作ってたんだ』

『あんた達の知らない所で何かやってるってのは私もそうなのよ、とにかく火刻印を底に入れた鉄パイプ作ってくんない?』

『いいぞ、すぐ作れるしな。本数的にはマガジンと同じくらい作っておくわ』


 地味に火縄銃を作って手数を増やそうと思ってた時に見つけたのだが、現実の火縄銃の様に穴をあけておくと銃身内の圧が落ちるので固定ダメージが減少すると言うのを発見。ついでに言えば湿気るとアウト、火縄を付ける動作が必要になるのも手間だと感じた。

 その代わりにMPを消費しないメリットはあるのだが、そこまでMPを消費する事が無いのでデメリットに比べてメリットが薄すぎた。

 MPポーションさえがぶ飲み出来ればMP自体は枯渇しないが、装填と発射で毎回8MP消費はでかいか?パワーレベリングと言う訳ではないが、ポーションをがぶ飲みしてとにかく枯渇させないようにする方が圧倒的に楽。


 案外ゲーム中でも遊びで作っている物があるのだが、大体は満足したらクランショップに放り投げたり、使わないのですぐにショップに売り払ってると言うのはあるが。


「いらっしゃいませ」


 連絡を済ませあれこれ考えていたところでアイオンの声でちらりと入店してくる相手を見る。

 水色の髪色で青い目をしたヒューマン、全体的に明るい色をしたプレイヤーで、どうやらガンナーっぽいな。

 そのプレイヤーが店内をしばらく物色した後に、ショップメニューの情報の欄でも見たのか、驚いた顔をする。そしてすぐに店番をしていたアイオンに説明を受け、購入をしたようだ。


 しばらく、店の中を物色しているようにしつつ、情報を買った奴を尻目に出ていくのを暫く待つ。

 情報以外にも何個かの商品も合わせて購入したのを見送り、誰もいないのを確認してから2Fに上がる。


「今日のショップの購入歴」

「はい、ただいま」


 今日の2F担当はシオンか。

 手際に関しては他の『オン』姉妹と変わらないので、さくっと購入して行ったプレイヤーの名前を確認していく。


「……なるほどねぇ」


 確認していたウィンドウを閉じてから、いつもの様に葉巻を咥えて火を付けて貰い、大きく紫煙を吸い、吐き出す。


 どうやら私の敵を見つけたみたいだ。

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