外伝6 アカメ被害者の会
「良かったんですか、連れの方を探さなくて」
「付き添いで参加したから、問題なかろう」
「ふむ……で、勝てると思いますか?」
十兵衛さんとアカメさんが戦い始めているのを眺めつつ、2人でどうなるかを話し合う。
とは言え、まだ本格的に戦うと言うか、出方を伺いながら互いの武器をちらつかせて牽制してあっている所だが。
「悪魔と呼ばれた人物なのだろう、五分五分ではないのか?」
「さあ、どうでしょう、複数でなおかつレースイベントですからね」
さて、どうやって動いてくるか。
対人イベントで少し相手をしましたけど、あれよりも強くなっているでしょうし、どういうびっくり技を出してくるのやら。
「随分と買っているようだ」
「共闘も、対戦もした相手ですからね」
そんな事を思っていたら、バイクに乗った人物が1人近づいてくる。どうやら別のクラン員を届けてから観戦ムードのこっちにやってきた、と言う所か。
「はぁーい、ガウェインちゃん」
「薫さんでしたか、いつぞやは防具の作成ありがとうございました」
「おお、裁縫クランのマスターか……ガウェイン殿は顔が広いな」
「やだぁ、あたしったら有名ねぇ♪」
今の所このゲームで最大手の裁縫クランのマスターなだけあって、顔は知っているし顔も広い。あまりこういった荒事系のイベントに参加するというタイプではなかったはずだが?
「して、裁縫クランのマスター殿は何故ここに」
「やーねぇ、薫でいいわよぉ、そうねぇ、アカメちゃんにお届け物と、スーツの出来の確認かしらぁ」
「おや、あのスーツも薫さん手製でしたか」
実はこっそり礼服としてのスーツを作って貰ったので、どういう感じなのかは知っていたが、それはあくまでも防御性能を度外視した見た目重視。どこまで防御性能があるかは興味が沸く。
「やっぱり作り手としては気になるのよねぇ、そっちの忍者さんにも作ったげてもいいわよぉ」
「児雷也と呼んでいただければ。見る限りでは軽装としては優秀そうであるが」
「勿論それもあるけど、アカメちゃんも今は重ね着もしてるから、大分強いと思うのよねぇ、その分ステータス下がっちゃうけど」
おっと、本格的な戦闘が始まっている。薫さんが連れてきたのはマイカさんだったか、こっちもこっちで中々の戦闘力のある人だし、どう捌いていくのか見ものだ。
「1つかけてみませんか?1口1万で」
「ふむ、それは面白そうであるな」
「勝った人がそう取りって所かしらぁ、楽しそうじゃないのぉ」
やんややんやと戦闘を始めたアカメさんたちを尻目に、だしに使って賭けに興じる。
正直此処から先に行ったとしてもイベントとして勝ちがあまりないのでこっちで楽しんだ方が面白い。
「じゃあ、私が取りまとめしますね。おっと」
向こうからの流れ弾を盾で弾くと甲高い音が響く。どうやら以前よりも強い攻撃になったみたいですね。前よりも衝撃と音が大きい辺り、炸薬量でも増やしたのでしょうか。
「数日見ないだけで大分強くなってますね……今の所45口ですが、どうだと思います?」
「今の所はアカメちゃんが優勢ねぇ」
「2対1でも引けを取らない悪魔は恐ろしい」
メモ帳に賭け金を記載しつつ、がっつり観戦状態。ティーセットを取り出して優雅に紅茶を嗜み、しばらく観戦。
暫くするともう1人参戦し、一緒にいた2人がこっちにやってくる。
「あれ、兄さん、なにやってるの?」
「児雷也さんも何やってんすか?」
そして名前を言われた2人で揃って「賭け観戦」と言いつつ、さっさとそこを避けろと手を振り、戦っている所をやんやと観戦。
「ちなみに賭け金と、今の状態はどうなってるっすか?」
「1口1万の45口ですね」
「んじゃあ、ニーナさんに15口のるっす」
「えっと、僕は辞退しときます……」
「相変わらず堅実な弟ですね」
そういえば、いつも私が無茶をする時にはカバーしてくれていましたね。うんうん、兄思いの良い弟だった。
「じゃあ、大損した時には我が弟に金を借りましょう」
「お、じゃあこっちも大損したら忍者クランの皆に金をかり……」
「駄目に決まってるおろう、この間も博打で大損こいたろうに」
今時の漫画やアニメでもやらないような「てへっ」とした感じの動作を新しくやってきた忍者がやっている。どこも可愛い要素が無いのはご愛敬だな。
「それにしても3対1でも防御力があるから結構耐えるわねぇ……アカメちゃんのHP的にそこまで持たないと思ったんだけど、何かあるのかしらぁ?」
「単純に防御力があるからじゃないんすか?」
「確かに防御力は高いけど、そこまで耐えられるHPは無いと思うのよ、案外あの大剣持ってる子の攻撃もクリーンヒットしてるしね?
「ああ、多分HPの共有化ですね、そんなにアカメさん自体はHPが高くのは事実ですし、避けもそんなに上手ではないですから」
「そういった特殊技能があるとは、拙者も初耳である」
「機体によって付けられる物が違うんですよ、って言われても兄さんが教えてくれたんですけど」
だからこそ、本決め出来るまでは何度も機体の変更と調整が出来たのだろう。
「後は何を付けてるかわかりかねますがね……もう5口追加で」
「そんなに掛けちゃうわけ?」
「結構がんがん反撃してるっすからねぇ、アカメさん」
「む……悪魔さんではなかったのか」
「やってる事は悪魔って言うよりも、マフィアですけど」
そう思っていたらまた1人戦闘に参加し始めてる。おや、知らない間に人が増えていますね……ああ、確かアカメさんと取引していた時に、銃弾とスキルを教えた子でしたっけ。
ふむ、これで遠距離攻撃役が1人増えたようですね。
「流石にわからんくなってきたっすね」
「うむ、今の所、悪魔殿は劣勢だが」
「ああいう時に強いのがアカメさんですよ」
ああいった劣勢の時に笑えるか笑えないかがポイントになってくる。アカメさんは確かに半炎半氷の魔人が提唱している理論信者ではあるが、あまりにも楽な戦いだとそれはそれで面白くないはずだ。
詰まるところ「現状じゃ苦戦しているけど勝てる戦い」と踏んでいるからこその笑みだな。
「もう10口上乗せ、アカメさんに35口」
「じゃあ僕もアカメさんに10口」
ピンク髪の子を連れてきた人がこっちにやってきて賭けに乗ってくる。ああ、前のイベントの時に何度か戦闘したドワーフの子だったかな。中々に硬く厄介な相手と言うのは覚えていますね。
「それにしても、凄い面子で」
「ほぼ全員がアカメさんの関係者と言うのは偶然なのか必然なのか」
「アカメちゃんも人望が良くなったわ……あたしと会った時なんてつんつんしてたんだから」
「あー、そうっすね、自分の時も悪態から入ったっす」
「僕なんてパーティー誘ったらすぐ断られたんで……」
「カウンターを覚えろって悪態付かれながら使われてましたね、私の場合は」
「最初のイベントでホラー苦手なのにゾンビの大群と無理やり相手させられましたっけ」
全員が全員、軽く遠い目をしてため息一つ。
それにしてもアカメさんって、初めて会う人に対して警戒心と言うか、扱いが雑ですね。
そうして、しばらくまた観戦しているとトカゲ顔の人が参戦し、ガトリング掃射をしつつ、接近していく。おっと、遠距離職が2人に増えましたね。
「流石のアカメさんも劣勢ですかね」
「やーやー、何をしているのかな?」
「あら、ヘパイストスのマスターじゃない」
楽し気にやってくる、有名人がまた1人、そういえば前回のイベントの上位者で固まっていますね。
それにしても関係者多すぎる気がしますね。
「アカメさんの人脈も中々侮れないですね……では、皆さん賭けについてですね……」
そして、今やっている賭けについて改めて説明をし各々が賭け口を言ってくるのでそれを纏めている時に、不意に爆発が大きく響く。
「……こういうのって賭け不成立ってことかしらぁ」
「んーあー……まあそうなりますかね」
全員が全員吹っ飛んだアカメさんが後方に流れていくのを見ながらどうしようか、と言う感じで顔を見合わせる。
「ノーコンテストはなさそうですけどね」
ダウンから立て直し、暖気しているアカメさんを小さく見据えながらふふっと笑う。
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