202話 奴の背中
「いた、けど、いけねぇ!」
また一人、目の前にいた奴を追走して、スリップストリームの加速と共に追い抜く、と同時に大剣をぶん回して落車、もしくは走行不能にしてダウンさせる。
それを何度も繰り返し、ようやく目的の奴を見つけたのだが、あまりにも戦闘狂すぎて他のプレイヤーから警戒されたおかげか、スリップストリームからの加速追い抜きが使えなくなってきた。
せっかくテクニカルコースを抜けて追いつけそうなストレートコース、但し道幅は狭いうえに各スタート地点の連中が合流してきたと言った感じ。地雷原、テクニカル、合流直線コース……次のコース辺りでさらに混合してくるかもしれないけど、まずは追いついて前に出ないと行けないってのに。
「クソ……どんどん先にいってやがるし、この辺で協調入れて追いつかないと……!」
大量の他プレイヤーが殺到してきて、全員が全員けん制しながらもどう出てくるのかを見極めている、ついでに言えばそこでさらに協調を入れるのか落とし合いをするのかを考えているって状態だな。
どっちにしろ、現状孤立している状態なのでどうにかしないといけない、誰か良い感じの奴はいないのか?
「おい、そこの奴、協調しないか!」
「いや、もう組んでるんで」
そう言うやいなや、ぶんっと攻撃が飛んでくるので大剣で咄嗟に防御し、衝撃で傾いた機体を元に戻しながらふらついた動きを制御して立て直す。
此処までやって来て、1人で走ってるって時点で結構危ない奴って判断したか?その後も何度かがんがんと攻撃を貰うので、加速を付けての振り回しで反撃。
ぐしゃっと大きくひしゃげる音をさせたり、凹ませる音をさせながらやり合うわけだが、これも悪いな。騒がしく戦っている所が多いとは言え、この暴力的な光景を見られると引いてるのがいるな。
ああ、クソ、どんどん離れていっている、折角射程圏内に捉えられていたのにこのまま小競り合いをしていたら行けるもんも行けない。
うちのクラン連中はどうやって進行しているのか分からんが、あいつら事だから、何だかんだで前には出てこれるだろうけど、こっちはこっちでどうにかしないと。
「俺様に喧嘩売った事を後悔しろぉ!」
自動操縦に切り替え、座席に立ち上がってから大剣を上段に構え、加速を付けて接近するのに合わせて思い切り振り下ろして殴りかかってきた協調拒否したプレイヤーを吹っ飛ばす。ついでに3人程の協調だったので全員ぶっ飛ばしておくか。
「駄目だ、どうにか誰かと協調しないと抜け出せねえ」
ダウンを取ってあれから数人倒して前に行く訳だが、ごちゃ混ぜになるとやはり抜け出すのも時間が掛かるし、難易度は高い。ってかこのレースイベントずっと他のプレイヤーが邪魔になってるな。対人ではあるんだが、厳密に言えば対人イベントではないのもポイントか。
「そこの!協調できないか!」
「え、あ、はい?」
もうこうなったら一緒になれる奴だったら誰でもいい、キャラモデルとしてはあまり俺様の趣味ではないが、しょうがないな。
犬耳のついた少年で、乗っているのは狼か。狼に乗る犬って構図はなかなかないが、どういう趣味してんだ。
「もう、こうなったらなりふり構ってられないんだ、何が出来るか教えろ」
「ええ……そう、ですね、とりあえずヒーラー職で機体の方はバランス型です」
「可もなく不可もなくか……協調の仕方は分かるか」
「大丈夫です、クランの人とやっていたんで」
「そのクランメンバーはいないが?」
「えーっと、この地点に入る前に大クラッシュをしまして……物凄い弾幕でそこら中のプレイヤーが全滅して、どうにか僕1人だけ突破出来たって状態で」
……アカメの奴じゃないのか?いや、大量に銃弾をばら撒くって話ならあのトカゲか?どっちにしろヤバい奴が後続に集中攻撃して脱落者を作ったうえでの生き残りって事か。どっちにしろ、それの生き残りって言うんだから、まあ大丈夫だろう。
「まさかとは思うが、機体のHPも回復できるのか」
「あ、そうですね、ペット扱いみたいなので……」
なるほど、これは便利な奴だ。あまりこのゲームでヒーラーって見掛けないのだが、アイテムの所持制限があるイベントだと必須って事だろうか。
「まあいい、俺様の為に動いてくれればいい」
「そんなに前に、行きたいんですか……?」
「俺様のクランマスターを倒すってので賭けしてんだよ、その賭けに200万くらい突っ込んでるからな」
「何て言うか、桁が頭おかしすぎるんじゃ」
「そういう訳だから、協力しろって事だよ!」
その犬耳に飛んできた攻撃をカットインしてから前に出ろ、と顎で指示。それを見てかすぐに前に出て、スリップストリームを開始……1つ勘違いと言うか、忘れている気がするんだが、俺様木工職人なんだよな。
「何か特殊能力はないのか!加速しろ加速!」
「そんな事、言っても、厳しいんですよ……!」
「クソ、どっかに余ってる1人くらいいるだろ!これじゃあ攻撃抑えるだけで手いっぱいだぞ!」
全体的にごちゃついていたのが纏まり始めている時に、ぎゃあぎゃあと騒ぎ、出遅れてるのもあって狙い撃ちされ始めている。
どっかに孤立した感じの奴がいれば丸め込んで2人で加速させ、俺様が抑えに回ると言う事も出来るのだが、そのもう1人が見つからない。せっかくあいつの背中が見えたってのにこのままじゃ追いつけない。もうどんな奴でもいい、とにかく1人いれば現状を打破できると言うのに。
「何か絞り出せ!」
「そんな無茶は出来ないですよ……!」
こんな所で結果追いつけなくなるってのは悔しすぎるし、何より勝ちが見えているのに手から零れ落ちるというのはストレスでしかない。
「ああ、もう、どうにかならんのかあ!」
「そんなに言うなら助けてほしいっすか?」
声の方に向き直ると、あのうざったいおしゃべりクソ野郎がにまにまとこっちを向いている。
名前は何だったっけか、やたらと長い数字の名前だったってのは憶えているんだが。
「誰だてめえ」
「ひでえっす!仕事手伝ってたじゃないすか!」
「いいから、そこの奴の前でて加速しろ、おしゃべり野郎!」
「濃い面子だなあ……」
とりあえずの3人体制が出来上がったので、前2人に加速を任せながら追撃してくるのを捌いて防ぎ、集団を抜けていく。
1回がっつり抜けておかないとまた大混戦になって前に出れなかったり、小競り合いが始まったりもする。さらに言えば大きい集団に巻き込まれればそのままボコられる可能性だってあるわけだ。
「おしゃべり野郎!さっさと抜けないと巻き込まれるんだから必死こいて加速しろや!」
「これでもアカメさんよりマシって言うんだから、世の中広いっすわ」
どこぞの最低野郎が乗っているローラーダッシュできるような2足歩行のロボがモーターの回る音をさせながら先頭に行き、犬耳と交互に前後を入れ替えて加速を続ける。
ちょっとは真面目にやる気を出してきたじゃねえか。
「抜けるんで、カバーを」
「喧嘩ばっかふっかけてるバーサーカーだから話が通じるか微妙っすよ」
「聞こえてんぞ、お前!」
数回目の追撃を振り払い、自動操縦を切って前の2人に付いて行く。やっぱり常に加速しあえるだけあって、突破力さえあれば集団を抜けるのは容易いな。
「よーし、待ってろよ……!」
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