185話 猫派

「何でまた呼びだしたんだよ、てめえ」

「相変わらず生意気な奴で安心したわ」

「喧嘩売ってんのかぁ!」


 ちんちくりんで猫耳生やして団子頭の木工職人が目の前で喚き散らしている。

 懐いていない猫みたいな感じになって来たのが何か可愛いな。


「で、何で呼んだんだよ、転移代も馬鹿になんねえってのに」

「2,000Zぽっちで文句言うんじゃないわよ、けち臭いわねぇ」

「俺様の時間はたけーんだぞ!」

「はいはい……あんたってクラン入ってないの?」

「俺様は超優秀だからな、1つの所に収まれない器よ」

「本当はめんどくさいからすぐ放流されるんじゃねえの」

「な……!んなことあるわけねえだろ!」


 ぶんぶんと手を振って抗議してくるのだが、対ハラスメントのブロックが入るので届かない。全く少しくらいは学習せい。それにしても面白い相手だな、こいつは。

 

「うちの専属職人にならん?」

「……は?」

「木工も進めてるけどどうしてもなあ、1人は槍使い、もう2人は銃使いだから手が回らない上に、やる暇もないんだわ」

「いや、だからって、俺様をスカウトってのはだな」

「別に何やってもいいわよ、条件としては迷惑行為さえしなきゃってのはあるけど。それに木工用施設の1つや2つくらい拡張投資してもいい」


 葉巻を咥えていつもの様に火を付ける。やっぱ生活火魔法って便利だわ。火種を作れるってだけで物凄い発明なんだよな。戦国時代でも火種を絶やさないようにするための人がいるとかあったんだったかな。今じゃ火を付ける道具だったり方法が簡単にあるからあんまり重宝しないけど、ゲームならではだな。


 大きめに葉巻の煙を吸い、吐き出して近くのベンチに座って一息つく。

 

「で、どうするよ、自分で言うのもなんだけどうちのクランって中々良いと思うのよね」


 ほんと、自分で言うのもなんだけどって話だな。まあ、悪いようにはしてないよね、うちのクラン員ってかなり自由にやってるわけだし、嘘はついてないよ、嘘はな。

 

「何やってもいいのか」

「だから言ってんでしょ、迷惑行為さえしなきゃうちは自由にやっていいって。その代わり私の頼み事も聞いてもらうって話になるけど」

「な、何やらせんのよ……!」

「今の所部屋の家具としばらく使い所が薄い銃床ってとこかしらね」


 じぃーっとこっちを見つめながら訝し気な顔をして様子を伺ってくる。

 どんだけ警戒してんだよ、マジで猫じゃないんだからさ。


「だ、だます気だろ!」

「騙した所で意味がないでしょ」


 何だろうな、スカウトって言うかめんどくさいペットを引き取ってる感じ?なんだったら色々な意味で私よりコミュ障だな。よくこんなんであのおしゃべり忍者と知り合いに……いや、あいつは結構すぐにフレンドリーに接してくるわ。

 とにかく腕はいいけど性格含めてこんなんだからソロメインなんだろう。

 

 私としては他人に迷惑行為を掛けなければ何をどうやってもいいと思っている方だから、何をやろうがどうしようが本人が納得しているのなら有り。

 

 ベンチに大きく足を広げて、少しだけ前掲姿勢になった状態で葉巻を口で揺らしてじっと相手を見据える。

 

「で、どーするよ」

「そ、そんなに言うなら仕方ねえな……入ってやってもいいぜ?」


 まったく、可愛い奴だ。そう思いつつさくっとクランの招待を送ると共にすぐに承認される。

 ……承認掛けるまでがやけに速いんだが、寂しがりもあるんかな、こいつ。


「うちの方針は言ったと思うけど、他人とゲームへの迷惑行為をしなきゃ何やってもいいわ。自分で作った物、受けた物で稼いだのを上納しろとも言わんし、こっちからの依頼は格安でやってもらうくらいかしらねぇ、その為のスカウトだし」

「緩すぎるだろ、てめえの所」

「いいだろ?まあ、たまり場くらいはあるけどな」


 立ち上がって転移地点の所にやって来て自宅の転移先が出ているのを確認し、一旦自宅の方へとまた戻る。


「とりあえず暫くは此処が拠点な、クランハウスもそろそろ買うからそっちに引っ越しって可能性もあるけど」

「お前、此処にどんだけ金掛けてんだよ」

「ざっと200万くらい?端金よ端金、どうせまた150万くらい使うんだし」

「やっぱ頭おかしいだろてめえ」


 言われてみれば圧倒的に金の消費量はおかしいな。まあゲームマネーって稼いで使ってなんぼだし、投資すればするほど楽になるんだから貯めておくメリットってないんじゃね?

 

「ああ、そうだ、もう一個注意事項あるわ」


 職人で木工だから結構強めに言って置かないと行けないことがあったわ。まあ最近できた注意事項なんだけど。秩序と言うのは大事。


「自宅に入るのも施設を使うのも自由だけど、ちゃんと片付けるのよ、散らかってたらマジで怒るから」

「綺麗好きかよ」

「本気で怒るから」


 2回も同じ事言ったのを意識したのか、黙って頷いて了承する。


「また誰か誘ったのか」

「樽のヒントくれた木工職人よ、あんたも世話になんだから挨拶しておきな」

「ふむ……儂は十兵衛だ、このクランじゃ好きに酒造をしている」

「俺様はニーナだ」


 あら可愛い。


「今度猫じゃらし持ってきてやるよ」

「んだ、てめえ!」


 しゅっしゅとジャブを繰り出してくるのを制しつつ、フレンドを送っておく。

 これもサクッと承認されるので、ハラスメントブロックがなくなり、ぱしぱしと手でそのジャブを受けてやる。


「気を付けろよ、うちのボスは滅多な事じゃ名前で呼んでくれんからな」

「つーか何で、名前呼ばねえんだよ」

「名前覚えるの苦手なのよねー」

 

 本当は覚えてるけどな。まあ、信頼の証みたいなもんって思ってくれればいいんだけど、そういうのはあまり表に出さないし、出す気もないんだが。


「私特徴捉えるの上手だからねえ」

「そう言う事じゃねえだろ」

「ま、すぐ慣れる」

『新人が一人入ったから仲良くすんのよ』


 あとはファーマーとトカゲの30待ちってとこか、前者に関しては何かもう要らないんじゃね?って感じになってきたからそこまで重要じゃない。

 ああ、そうだ、とりあえず家具揃えて貰うってのもいいな。


「ガンラックと家具作っといてくれない?」

「材料寄越せよ」

「共有ボックスに突っ込んでおくから勝手に使ってちょうだいな」

「儂も新しい樽が欲しいな」

「だから材料寄越せって!」


 暫く伐採もしてないし、トカゲの準備ができるまで材料集めってのもいいかもな。

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