158話 ステージ3

「別に今まで気にしてなかったけど、結構マップの範囲狭まってるわね」


 廃墟の一角、乱戦をしているであろう音が聞こえる所に隠れたまま、周囲警戒している十兵衛の下でマップを確認し、ピンを打ちつつ状況を整理する。


 大分消耗しているし、乱戦の状態でポーションや銃弾を漁りながら動くのは厳しいだろう、下手に動いて負けるならぎりぎりまで戦闘しない方が良い。

 ある程度落ち着いた所でパイプと火炎瓶で強襲を掛けるのが今の手札か。


「もう少しマップの収縮を待ってから大混戦の所に切り込むか?」

「が、いいかなあ。マイカはマイカで動けないのか、こっちに来れる感じもないし……うちの密造酒担当はどうしたい?」

「その言い方はやめい。さっき倒したファーマークランの奴がいたりするのも考えると動くと余計な相手と戦闘になる可能性は高いだろうな、魔法やスキルの使い方に工夫があるやつが残っている気もする」


 確かに土魔法での遮蔽物作りながらの移動は脅威だったわ。

 たまたま周辺吹っ飛ばせるパイプ爆弾があった訳だけど、多分火炎瓶に対して完全に対策が取れそうなんだよな、土魔法。とりあえず土被せたら火って消えるわけだし、土を燃やすって事も出来ないんだよな。


「全体の余裕がない時に使わないとそろそろ対策取られると思うんだよねえ……パイプに関しては完全に初見殺しだから通用するけど、水と土に対して一方的に弱いと思う」


 パイプは爆発前に火を消されたり湿気るとアウト。

 火炎瓶も何か受け皿のような形だったり、単純に軽い土手の様な物を作られれば広がる方向が制限されるので直撃させることは出来ない。

 なんだったら何かしらの方法で火炎瓶を割らなければ燃え広がる事も無い。

 案外弱い所多いんだよな、この二つ。


「今までは完全に不意打ちで使ってたからいいんだけど、分かってて人数多いなら対策出来る奴は出てくるからなあ」


 改めて思えば初見殺しと不意打ちで立ち回れていただけであって、正面から面と向かって投げ込んで何もしない奴とかいないだろうな。

 むしろそんな奴いたら何しに対人してるんだよって話にもなるのだが。


「どっちにしろ、もう少し待機して大混戦になるまで待つしかないかな」

「うちの鉄砲玉がまた文句を垂れそうだ」

「戦うのが好きか、勝つのが好きかって別ベクトルの話なのよ。前者はとにかく勝とうが負けようが楽しければ良しだし、私は後者側だから相容れないのよ」

「人種的には変わらん気がするが」

「大分違うわ、当たり前だけどチートとグリッチは使わないとして、公式に認められている範囲なら何でも間でも使って勝ちたいのよ、私は」


 そこが大きいのよね、結局のところ自分の力量のみで戦うマイカの奴と、不正無しであらゆる手段を使って勝つって事はだいぶ違う。

 後者の場合卑怯とかずるいとかそういった言われ方をする場合が大きいが、不正ではないので罰せられる事はないし、何だったら認められている物を使わないって意味が分からん。

 日本人プレイヤーに多い、押し付け紳士ルール。マジで嫌い。運営に文句言えよばーか!って返したくなるわ。


「ま、どっちにしろ戦う必要性のない対人ルールだから、楽出来る所はしようや」

「その辺に関しては異論無しだな……さっさと終わらせてもっとうまい酒を造りたいわ」

「そうねぇー……酒樽3本って言ったけど、本当は全部使ってたし」


 おい、と軽く突っ込みを入れられるが、味の悪い奴だったからいいじゃん。

 それに何だったら殆ど私が材料や道具、場所もほぼ全部用意して金突っ込んでるんだからね。


「地下3Fで20万かあ……木材も仕入れて、樽増やして……あー、ガラス瓶も増やさなきゃいけないから砂も取りにいかないと行けないのか、後は農業ギルドのレベル増やして畑の拡張、クランハウスの資金も溜めなきゃいけないのよねぇ……ちょっとは資金提供したらどうなの」

「密造酒担当なんでな」

「根に持ってんじゃねーぞ」


 マップを確認し、見える範囲で双眼鏡で辺りを確認して、また隠れてを繰り返す。

 大分話がそれたが、安全地帯と言われるものはだいぶ収縮しているので、小中規模のクランも戦闘をせざるを得ない状況になっている。

 大きい所は大きい所で、あまり外円の方にいると、内側にいる大きいクランに押し込まれて、マップ外に出てしまうので板ばさみになる。

 別に即死するわけではなく、範囲外にいる間は持続ダメージが入ると言うのもバトロワ系でお決まりの要素なので今更だな。

 で、現状は、東に50人規模のクラン、西に20,30、40あたりの鍛冶、チェル、犬野郎のクラン。

 北と南の方にも中規模の纏まったのがちらりと見えたので総勢200人位で最終決戦って所だな。


「予想以上に残ってるのか、減っているのかどっちだと思う?」

「減っていると思うぞ、大規模クランの数が少ないからな」


 私から双眼鏡を受け取り、周辺を確認を代わりながら状況を聞く。

 勿論ボスが私なわけだが、しっかりと下の意見を聞くと言うのも大事だ。


「儂の見積もりでは全面戦争時に400ってとこだろうな、西から東、そこから南に回ってきたが、北東と北西、南西の状況が掴めん」

『そこからどのくらい人がいるか確認できん?』

『ちょっと厳しいかなぁ……ポーションストックも無くなってきたし、そっちに合流しようと思ってた縦断も乱戦が激しすぎ、んあ、ごめ、ちょっと反応できんくなる!』

「向こうは向こうで状況が悪いわね」

「やっぱり無理して倒しに行くべきじゃなかったか」


 そういうのは結果論って言うんだぞ、どっちにしろあそこで少しでも削っておくべきなのは間違いは無かったはずだ。

 じゃないと先に中央陣取りした犬野郎のクランがすり潰されて、パワーバランスが悪くなる。

 当たり前ではあるが持ち込みの装備とアイテム、覚えているスキルの差はあるが、それで人数差ってのを覆せるのかって言われると難しい所よ。 

 単純にポーションの総量も違ってくるわけだから泥試合になったらアイテム量で勝敗が決まるだろうな。


「いや、ダメージを与える、人数を削るってこのルールじゃ重要よ。私らで言えば、3人で45スタック分のアイテムを持てるわけだけど、10人だったら150スタックよ?仮に10スタックは個人用として使うとしても余裕出来る数が違うって」

「その分ポーションを増やせるって事か」

「そう言う事、人数差があればあるほど、泥試合になればなるほど少人数の所は勝ち目が薄いのよ」


 おっと、流れ弾。

 廃墟の一部が吹っ飛んだわけだが、瓦礫がぱらぱらと頭に落ちてくる。埃っぽいのは苦手なのに。


「結構戦火が広がってくるわね……マイカもだいぶ追い詰められてるし、移動する?」

「そうだな、全体的な戦線がこっちに動いてきているから、東から回るか」


 瓦礫を払い、また市街地を東から回り、マイカの方へと回り込む。








「クソ、これ以上はきつい……ってか、ほんとアカメさんの不意打ちで散々だよ!」


 何だよ、釘丸太って言う頭の悪い武器は、いくらV型防御特化の装備を持ってきてるのにがんがんダメージが抜けてくる。

 あの火炎瓶と爆弾のせいでため込んでた物資を相当使ったのもあるから余計なダメージや戦闘は避けておきたいってのに。

 初めて会った時からそうだけど、何でもかんでもやることが無茶苦茶だよ。


「むっ、あの目つきの悪いドラゴニアンの知り合い?」

「ええ、まあ、そうですけど……」

「あ、あたしの、……あたしの武器を馬鹿にした恨みぃ!」


 また変な所で恨み買ってるし、この人にどんな風に喧嘩売ったら、こんな感じに恨まれるわけなんだよ!

 そしてえぐいのはこの、頭の悪い武器、やたらめったらダメージと言うか攻撃力が高すぎる。がちがちに固めてるってのに。


「頭の悪い武器ってのは理解しましたよ!」

「あ、頭悪い……ち、ちがうもん!」


 そもそも鍛冶クランみたいだけど、生産職が戦闘職に負けず劣らず強いってどういう事なんだろうか。スキルは武器を使っていれば覚えられるし、Lv30までに覚えられるのは一時的に取得できるって言ってたけど、それでもそんなに戦闘用のスキル覚えられるのかって話になるんだけど。

 

「あたしの武器はちゃんとしてるのぉー!」


 泣きながら殴りかかってくるのに狂気を感じるよ、こっちは。

 丸太にふっとい釘刺して殺傷力高めるって時点でおかしいでしょ!


「見た目と性能がかみ合ってなさすぎる……!東に撤退移動!」


 殴られるたびにべこべこになっていく盾で猛攻を受けながら、全体的な戦場を東にずらしつつ、相手をし続ける。

 ここから一気に離れて体勢を立て直してぶつかる事も難しいし、逃げれるほどのマップの広さも無くなっている。

 だったらもっと乱戦にして、ごちゃ混ぜにした方がまだ戦える。


「面倒な事に付き合ってもらいますよ!」

「それは、どう、かしらあ!」


 一撃重い攻撃をぶつけてくるのを盾で防御して、距離を置くと共に、目の前に銃口が向けられているのに気が付く。

 V型に固定ダメージって利には適ってるよ、ただ悪いんだけど、それは『もう見た』。

 

 銃声が響くのに合わせて銃弾が上に滑るように盾を斜めに構え、受け流す。

 固定ダメージは来ないけどダメージは入るあたり、RPGだよね、このゲームって。


「なんでぇ!?」

「あの目つきの悪いドラゴニアンに聞けばわかりますよ!」

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