148話 ガチ勢の本気

「おー、やっとるやっとる」


 木の上、枝の根本に丸くなるようにコートを頭からすっぽりと被り、双眼鏡構えてスキルや怒声が飛び交っている所を遠巻きに眺めながら戦況を調べる。

 大体50人対50人くらいの中規模クランのかち合いって所だな。

 そういえば結託みたいな事をしているから、小規模クランを纏めて50人にして、最後に決戦みたいな感じでやるんかね?何にせよすげえやり合ってる。

 戦況的には纏まってるであろうクランの方が統率が取れているから、何となく統率が取れていない方は徐々にすり減っている。


 こういう時に「まだやれる!」って頭をしていたら負けるんだから、さっさと抜けるなり早めの離脱して、早めに回復して、立て直して、一息ついていた所にもう一度強襲掛けたりするのがいいんだろうけど。そこまで頭の回るやつって少ないんかな。

 でもまあこういう集団の集まりってのは、その時の空気もあるし、抜けた所は抜けた所で結構目立つから他の連中から目の敵にされたりするから何とも言えないか。


『あのバトルジャンキーがまた喧嘩を売りに行ってるんだが、止めなくていいのか』

『いいのよ、予め喧嘩売って良い相手を指示してるから』

『人数差が多い所は避ける、複数相手する時は囲まれないように、倒したらきっちりとポーションを回収……だったな』

『よく覚えてるじゃない』

『手綱は引けんぞ』

『撃破した後にポーションさえ確保してくれればいいわ』

『それにしてもどこであんなの拾ってきたんだ』

『イベントでーす!』


 対人戦ではあるが、クラン戦なのでクラン員同士で会話できるのは変わらず、参戦してる他2人とも会話が出来る。

 流石に連絡も出来ないでバラバラで戦うってなると個人と変わらないからその辺で差別化を行ったんだろう。

 どっちにしろ、髭親父とバトルジャンキーは別行動しているわけだが。


『こっちはまだ目標の奴を見つけてないからしばらく捜索するわ』

『アカメちゃんさぼりー』

『こういうバトロワ物ってね、結局最後に勝てた奴が一番なのよ?いくら道中でダメージを出そうが、キルを取ろうが、最後に負けたら全部徒労だし、余計な消耗と被弾を抑えるのは当たり前なんだから』

『攻めるのもありとは聞くが?』

『ゲーム内容やルール次第ね、とにかく人数が減ってきたらアナウンスがするだろうから、それまではゲリラ戦かかくれんぼで遊ぶしかないわね』


 ぶつかってる奴らに横槍で凄い派手に魔法が飛んできた。漁夫を狙った戦闘になったのか、50人:50人:30人みたいな構図になってきた。 

 クラン戦だから集団戦闘がメインになるが、やはり大きくかち合っているとこうなるのは必然だな。

 私も私でちょくちょくキルを取って弾とポーションを確保しながら安定させつつ最後まで残っておきたい。


 別行動しているのも、あのバトルジャンキーと髭親父の2人クランだと思わせる為と言うのもあるのだが、単純にヘイトを向ける意味もある。

 よっぽどの不意打ちや、大人数相手じゃなきゃ自衛できるし、振り直したステからもAGI重視だから問題ないだろう。


「ま、本当は位置ばれしないように動かないといけないんだけどさ」


 魔法や攻撃が飛び交い、三つ巴の乱戦になっている状況をまだ見ながら、他職のビルドをメモ帳に記載していく、このメモ機能そのまま使えるのマジで便利。

 

「撃破にポイントつかないからやるだけ無駄だってのに、ご苦労なこった」


 疲弊して勝手に消耗してくれるのであればそれはそれで良し。人数が多いって事は疲弊する度合いも大きいし、かち合う頻度も目立つ関係で多いからポーションはガンガン減っていくだろう。

 人数抱えてる所は共有財産としてのポーションを使う訳だから、なおさら。とにかく戦うだけ無駄なルールなので、余計な戦闘を回避するってのは大事という事だ。

 

 そういう訳で、観察していた連中も勝敗が付いたと言うか、流石に戦況が不利になった方が撤退をし始めたので此方も双眼鏡を仕舞いこみ、移動準備をしつつ、トラッカーで周囲確認。

 MP消費5ですげえ優秀だな、このスキル。しかもMP増えた恩恵が地味に効いてるのでいつもよりがんがん使えるので、索敵も捗って悪くない。


「さてと、大手のクランを見つけにいくか」




 




 少しだけ時を遡り……。

 昨日のログアウトからイベント開始の夜まで用事やらを済ませてアイテム準備も完了、火炎瓶とパイプ爆弾を作ったうえで必要だと思う物を補充。

 と言っても油と針金、松明、ショップに売ってた双眼鏡の4つで他の持ち込みは無し。銃弾増やそうかと思ったが、50発支給されるし、別に持ち込みはしない。

 枠的には葉巻、火炎瓶2種、パイプ爆弾とさっきの4つで8枠消費、あまりぎちぎちに荷物持ってもしょうがないし、持つものが無いのでこんなもんで十分だろう。

 焼酎を瓶に詰めて蒸留してアルコール作って、火炎瓶の作成。硝石も生成したのを掘り返して稼いで火薬化、いつものパイプ爆弾の製法で10発分。

 

 さくさくっとアイテム作ってショップで使えそうなもの見繕って、スキルの取得を諦めていたらあっという間にイベント開始時間になるので参加手続き。


『うちはクランで参加するわよ、バトルジャンキーは参戦するけど、髭親父の方は来ないんでしょ』

『そうだな……参加するぞ』

『どういう心境の変化よ』

『これでも「男の子」なんでな』

『その言い方は嫌いじゃないわ』


 そんな事を言いながらクラン単位でのイベント参加を申請、受理されると共に私含めてクラン員3人が準備部屋のような所に転移される。

 そういえばジャンキーと髭親父は初対面だったか。


「さて、と……自己紹介は二人でやって頂戴」


 転移と共にステータスのメニュー画面が開き、早速振り直ししてくれと言う様に全ステ0状態になり、ステ―タス59P分が付与されている。

 既に使ってるステを振り直すだけなのでVIT、INT、RESは各1ずつ振り、STRに10、DEXに20、AGIに残り26を割り振り完了。

 

「アカメちゃんはどういうステ?」

「遠距離職はDASが基本だったか」

「私はADS型だから、ちょっと違うわよ。ほら、さっさとあんた達も準備しなさい」


 生返事と二つ返事を聞きながらスキルの割り振りに移る。

 ガンスミス、カスタマイズは完全に不要なので振らないとして、今回割り振るのはこうなる。


 装填Lv5、トラッカーLv5、ボマーLv5、二度撃ちLv2

 銃格闘Lv3、銃剣Lv3、曲撃ちLv3、跳弾Lv3、生活火魔法


 これでぴったり30、2丁拳銃は持っている拳銃の弾数バランスが悪いのでパス、通常使っている物を軽く割り振り直して曲撃ちと跳弾を増やした、という感じだな。

 とりあえず取ってみたが、MPの消費や特性的な物はあまり変わらない。跳弾だけはレベルを上げた事によって少しだけ特性が変わったが、他の部分は特に変わらず。


スキル名:跳弾 レベル:3

詳細:【アクティブ】【MP5】【効果時間45秒】

  :発射した弾が最大「3回」反射する


 効果時間が多少伸びて3回まで反射するようになったって所か。対人イベント使って取ってないスキルを試し上げとか考えてみたが、ちょっと邪道か。

 スキルシミュの様な物が欲しくなるからこの辺も運営に要望出してみよう。

 そういう訳でスキルも振り直し完了。


 持ち込みアイテムに関してはさっき作ったものと買ったもの、後は装備品だな。


 強力な物は枠が使われて、その上で10枠の装備と言う訳だが、まず銃、こいつがかなりネックになる。

 ウサ銃とDボアだけで4枠、鳳仙花に至っては3枠消費。ガンベルト、コート、パンツスーツは各1枠で、これでいっぱいいっぱい。ブーツとグローブ外してどうにかしたが、運営的にやっぱり銃器って強武器扱いなんだろう。

 まあ、確かに鳳仙花が直撃したら固定ダメージ120出るから問答無用で倒せるし3枠は妥当か。何だったら4枠になってもおかしくない性能か?120ダメ出すたびにリロード入るからその分差し引いてかもしれないが、とにかく強力と言うのは判明している。

 接近戦用の鳳仙花、遠距離用のウサ銃、近距離戦のDボア。G4はマガジン作成忘れてたのでお留守番、何だったらマガジンで1枠使うだろうし、選択肢的にもないな。


 これでステータス、スキル、アイテム、装備の選択が完了、メニュー画面が閉じ。待機部屋に置いてあるソファにどかっと座る。

 うん、この中じゃまだ選択外のアイテムも使えるみたいだ、煙草に火を付けて紫煙を吸い、いつものように堪能しながら二人の終わりを待つ。


「うげー、頭使うのきらーい」

「あれこれ持っていくと枠がきついのよ」

「装備さえあればどうにかなるだろうな」

「ああ、そうだ、アイテム枠あるなら火炎瓶渡せるけど」

「じゃあもらーう」

「せっかく作った酒をこんな風にしおって……」


 とりあえず余分に作っておいた1.0ℓ火炎瓶を10本ずつ渡す。当たり前だが時間内だったら変更はできるので枠があれば追加で突っ込むだけだ。


「結構燃えるから対集団のど真ん中に放り投げると楽しいわよ」

「炎上して楽しいってどういう事なんじゃ」

「むかつく住民を撃ち殺したり小便掛けたりするゲームをしているとそうなるかな」

「そんなもんあってたまるか」


 あるんだよなあ、1,2が名作で3は駄作になって監督自らこんなの買うなって言ってたゲームが。しかもその3が公式に黒歴史扱いされてるうえに無かったことにされて、2の正式続編が4って言うんだからネタに事欠かないのがな。


「まあ、バカゲーの一種よ」

「ふーん……それで、これいつ使ってもいいのー?」

「火炎瓶なら好きなタイミングでいいわよ、で、作戦なんだけど、私は大手のクランを探して、細々した戦闘をぶつけるように仕掛けるから、あんた達二人で好きに暴れまわって」

「大雑把じゃの」

「ただ条件として、人数差が多い所は避ける、小規模でも囲まれないようにする、倒したらきっちりとポーションを回収ってのだけは守ってくれればいいわ」

「倒した相手からどう回収するんじゃ」

「そこはシステムがやってくれるでしょ、一般的なバトロワみたいに倒した相手からルート出来ると思うわ」


 ぷぁっと紫煙の輪を吐き出して一息。基本方針さえできればバトルジャンキーがいれば髭親父は特に問題ないだろう。バトルジャンキーの戦闘力とゾンビ戦での立ち回りを見れば、下手な相手には負けないだろうし、髭親父の奴も何だかんだで世話焼きだからカバーくらいしてくれるだろう。


「中規模くらいの相手に立ち回れるなら、喧嘩売って損害与えて離脱でもいいわ。で、小規模で殲滅出来るなら一気に潰してポーション回収して……みたいな立ち回りがベターかしら」

「そんなに喧嘩売りに行っていいわけぇ?」

「その為の誘ったからな、自然回復も少ないから髭親父の方はポーション回収がメインになるかも」

「あまり戦闘は上手じゃないからな、後ろと荷物持ちに……」


 ちらりと髭親父の奴がバトルジャンキーの方を見てため息を吐き出したのが見えた。

 落ち着きのない動きをしているのを見てだろうけど、正直な所『お目付け役』として押し付けただけなんだよな。

 で、本来であればそれは私がやるべき事なんだが、その役目を押し付けたのを理解したんだろう。


「何人くらい倒せるかなー」

「これの制御は出来なさそうだぞ、おい」

「私よりはマシでしょ」


 にぃーっとギザ歯を見せつけると、また大きいため息を吐き出している。

 そんなわけで作戦方針も決まったし、開始時間までだらだらと待機部屋で過ごす。






 そうして今、特設マップに転移され、対人イベントの真っ最中と言う事になる。

 あの二人はどう立ち回っているか分からないが、やられたって話は聞かないからまだどうにかなってんだろう。


 私の方はと言うと、トラッカーでの事前発見を駆使して隠れながら移動しまわるだけだ。不意打ちで倒せるなら鳳仙花使って一気に攻めるべきなんだが、クランだから単独でってのはあんましいないな。

 こういう時ばったり出会って戦闘開始ってなるんだろうけど、このゲームちゃんと足音鳴るし、何か動いて接触したらオブジェクトも移動するんで、散々FPSとTPSをやりこんだ私にとって常識みたいなもんよ。


「問題は盗賊系の職が足音消したりとか隠密系のスキルがあった時が問題か……忍者とかな」

「うっす」


 あー、クソ、序盤で会いたくなかったわ、お前の事

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