127話 金策と報告
アルコール、ってか酒を造ってくれる専門が出来たので私の自由時間が増えた。
こういう時に仕事を勝手にやってくれるのがいるとマジで便利、利害が一致しているってだけだが。
とにかく私としては悩みの種が一つなくなったわけだ、樽と場所を提供しているわけだし、家賃収入みたいなもんよ、後はあの髭親父が飽きるまでは酒とアルコールに関しては安定供給されるだろう。便利な使用人扱いしてるけど、あいつはあいつでどんな風に私の事を思ってるんだろうか。
「それにしてもまた金欠ね……あー、楽な金策してえ、火薬売り払うのもいいっちゃいいけど……需要が少ないからなあ……加工品にして売った方が儲けでるかな」
安い素材で高い商品に、生産職の大きいメリットの一つだな。
「とりあえず、あの髭親父の為にも樽の生産してやるかな……それに密造酒で稼ぐのもありよねー、禁酒法時代のマフィアじゃないってのに」
まあゲームのシステムからしたら密造してるわけじゃないけど、気分的にはマフィアと変わらないわ。そのうちマフィアっぽいクランとか作ってみるのも楽しそう。
格好はどっちかっていうとマフィアの殺し屋だし、折角ならボスがいいわね。パンツスーツでびしっと決めてコートと葉巻咥えるとか、どっかの無法地帯の奴みたいなさ。
「絵面とか話だけで聞いたらすげえやばいよな、自宅の地下には密造酒、庭にはアンモニア臭のする火薬の材料をこさえているとか」
保存箱の様な物を作って地下室に置いておくかな。
サンドボックス系のゲームでよくある立て看板とか設置して置いたら伝言板代わりに出来たりとかもあるだろうし、とにかくやれる事はまだあるよな。
「とりあえず角材売って少しでも金策しないとなあ……流石に雑木よりは加工してる方が高いといいけど」
あと煙草もそろそろ本数が無いし、仕入れておかないと。
そう思ってエルスタンに戻り、ショップによって露店を巡って木材を手に入れるかなと思っている所に声を掛けられる
「姉御ー!姉御ー!」
「久々にきたわね」
暫くぶりに見掛けた情報屋の舎弟がこっちに手を振っている。相変わらず騒がしいが、ちょっといつもと様子が違うな。もうちょっと気楽な奴だし、あいつは。
「ああ、見つけた、良かった」
「砂丘じゃないの、二人揃ってどうしたわけ?」
やっと見つけたという感じに二人が近づいてくる。
とりあえず話が込みあいそうだったので煙草を取り出し、咥えてから火を付ける。
「とにかく一度クランハウスに来て欲しいっす」
「貰った情報の件で話があるんですよ」
「もー、早くしてよね、やる事山積みなんだから」
そういう訳で、二人に連れられていつもの酒場……の、カウンターのさらに奥の部屋に一人で、と案内される。そしてその案内された部屋、表とは違いかなり殺風景で部屋の真ん中に机と椅子、そして机を挟んで奥側に一人座っている。
「正面から会うのは初めてだったわね」
指で一杯寄越せと指示してから向かい合う様に座る。
それにしてもこんな風に呼び出すって事は結構でかい事に巻き込まれた臭いな。あー、さっさと樽の量産したかったのに、さっさと片付けたいわ。
「情報クラン『壁に耳あり障子にメアリー』のクランマスター、メアリーよ」
「砂丘と舎弟も使って私を呼び出すんだからそれくらいの話なのよね」
机に脚を乗せて、煙草を吹かして紫煙で辺りを燻らせる。
さっさとしてくれんかな、マジで。
「早速本題に入るわ、例の硝石なんだけど……別の場所から情報が漏れて暗闇洞窟のロックラックが枯渇するほど狩られてるわ」
「あー、そう……それで?」
「い、いや、それでって……」
「いつか誰かが探り当てるってのは想像してたし、別にそれで食っている訳じゃなかったし?」
「自力で見つけたのが掲示板で漏らしたんだ、流石にそこまでは私達も手を出せなくてな」
ふーんと軽く返事をしながら煙草の煙で輪を作る。
正直な所、私の取り分がないのならそれはそれで問題だが、別に今となっては硝石丘を作ってるし、いずれ発見されるのも分かっていたのでそこまで驚きもしない。
「ま、結構儲けたんでしょ、その取り分さえもらえればいいわ」
「需要が無いからあまり稼ぎは無かったのだけはあるけど……2割だったわね」
「ちなみにどれくらい稼げたのよ」
「そう、ね……ざっと200~300万って所かしら」
「じゃあ50万くらいは貰えるのかしら」
「交渉上手な事で」
カード型のいつもやり取りしている物が机から滑り込んでくるので、それを受け止め確認。ぴったり50万Z。それにしたって硝石の情報流して一週間ない程度で300万稼げるってかなり売れたっぽいわね。
多分ここのクランとしてはもう少しこの情報で稼ぐ予定ではあったんだろうけど、掲示板での問題発言は不意の出来事だったって事なんだろう。
「私としてもあんたたちとは良好な関係を築いたままがいいし、十分稼げたんだからいいじゃない」
「まあ、それは、そうですが……」
「それに秘匿するって言うのなら最初からあんたたちに喋ってないわよ」
ぷぁーっと煙を吐き出しながら席を立つ。
「それに今後はちゃんと金払って情報買ってやるから安心しなさい」
「やっぱり何者なんですか」
「なーに、ゲームが得意な美人ってだけよ」
いつもの酒場の方へと戻りカウンターに座ると、すぐさまいつものグラスが置かれ、琥珀色の液体が注がれる。
それにしても私以上にこのマスターは酒造してるって事だよな。質も味も良いとなるとどういう仕込みをしてるんだか。
……って言うか私としても流石に出来過ぎだな、金がない時に金が出来る話が転がってくるなんて。いや、まあずっと前から言ってた利益の話を持ち出してきたわけだし、これ以上の儲けが出ないって思ったからこその支払いと報告だったんだろう。
とは言え、転がり込んできた50万は有意義に使おう。
「話終わったんすか?」
「そーよー、あんまし驚きもしない事だったけど」
「……大体いつも持ってくる情報が凄すぎるんですよ」
「別に普通よーって言ったらおかしいのは確かね……新しい事や特別な事って大体頭のおかしい奴がやるって言われてるし、私もその一人なんだろうけど」
グラスに入った氷を傾け「カラン」と音をさせて楽しむ。
「楽しんでいる先の、副産物なのよ」
「そういうもんなんすか」
「そういうものよ」
ふふっと笑いながらグラスを飲み干して一息。
ああ、そうだ、ついでに此処で聞くべきものがった。
「ねぇー、マスター、この酒どのくらいの時間で作れるわけ?」
「どうやら軌道に乗ったようで」
「いやー?そっちの趣味のある奴に任せて私は場所と道具だけ貸してるだけだし」
「……ふむ、いいですね、ぜひ拝見したいです」
「ま、そのうちね……それで、どういう感じなの」
「何を作ってるかによりますが、大体ゲーム内時間3日もあれば完成ですね」
「予想以上にはえーな。それでもリアルタイムで18時間かあ……スキルとかある?」
「それは……秘密ですね」
グラスを磨きながら口元を綻ばせる。あー、このマスターも結構な酒飲みって事か……別に戦闘しなくてもこういう事で遊べるから、ある意味では理想的だな。
「まー、リアルで明日の楽しみにしとくわ」
いつもの様に一杯分のZを置き、席を立つ。
「しばらく洞窟はごっちゃごちゃですよ」
「いいのよ、どうせ行かないし」
熟成期間とか酒によってまちまちだから何とも言えないが、3日程度で考えれば……硝石丘も大体3~5日くらいで成果が出る……と良いんだが。
「それにちょーっと面白い代案とかも考え付いたし」
いつもの悪い事を考えたギザ歯を見せるにぃーっとした笑みを浮かべる。
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