116話 変な所からの飛び火

「人のビルドに口出しとかはないけど、特殊だと気になるのよね」


 目の前で忍者刀を構えながら戦っているおしゃべり忍者の横を、魔法矢がすり抜けてモンスターを捉える。

 隊列的にはおしゃべり忍者、私、メカクレの順番で私が索敵としてトラッカーを常時使うという方針に固まっている。

 打剣ばっかり使っていると思ったら、結構しっかり近接も出来るあたりおしゃべり忍者の戦闘力には関心したのだが、それよりも後ろで魔法矢を撃ちまくってるメカクレの方が恐ろしい。

 私自身も魔法矢関係のスキルがどういう物かは詳しく知らないが、このゲームにおける魔法はそこそこの射程で高火力が売りで、後ろでばかすかやってるのは高射程、中火力なんだろう。

 やっぱり珍しいと言うか特殊ビルドは目を引いてしまう、とにかく近づいてくるモンスターには向かってくる方を指示しつつ、ウサ銃を構えて警戒体勢を続ける。

 それにしてもMPが続く限り弾だったり矢を撃てるのはかなり魅力だ。無限矢と弾ってゲーム的には楽で便利だが、ゲームバランスを著しく破壊する場合もあるので場合によりけりだ。かと言って逆に制限がきついとインベントリを圧迫するし、いちいちショップに戻って購入しなきゃならないとかの問題もあるわけだけど。


「自分っすか!

「いや、後ろのメカクレ」

「えぇ……!?」


 近くにいたモンスターを片付けて一息している所でおしゃべり忍者が食いついてくるわけだが、ちゃんとこいつ、戦闘が終わるまで戦闘に集中していたので、その辺の分別はちゃんとついてるみたいだな。そりゃ自分がやられたらPT全滅する可能性が高いんだから集中するわな。


「魔法使うって事はAI型だろうなってのは分かるけど、特殊ビルドでしょ?」

「そうっすねぇ、あまり見掛けないのは確かっす」

「あ、えっと……楽、なんで……」


 武器よりもスキルの威力依存なら装備の新調しなくてもいいってのは楽か、それに合わせてステータス増加する装備を揃えていくってのは大事だとは思うけど。


「MP切れさえ、なければ、継戦能力は、高いです、し……」

「そこよね、私とおしゃべり忍者は弾数決まってるわけでしょ?」

「手裏剣関係は安くないっすねえ……1本500Z以上はするっす」


 その会話途中、物陰にちらりと見えたモンスター相手に指を向けると、その1本500Zする棒手裏剣が飛んでいき、鳴き声が響く。流石に南エリア2-3なので適正レベルも高い方で、モンスター自体のレベルもまあまあ高い。此処まで来る途中で一度不意打ちをされた忍者が半分近くHPを吹っ飛ばされたので銃剣を使って前線維持をする羽目になるとはな。


「落ち着いて会話も出来ないのはダンジョンの嫌なところね」

「しょうがないっすよ、不人気ダンジョンっすから」


 そんな事を言いながらすぐに戦闘態勢に入って出てきたモンスターを相手する。

 この洞窟だが、基本的にサハギンと呼ばれる半魚人系のモンスターが大半を占めている。意外とこのサハギンって歴史が古く、ゲーム出展が最初だとか。最後のファンタジーな奴が有名だが、それよりももっと昔から存在している。

 特殊ビルドについて聞きそびれたじゃないの、まったく。


「海鮮類嫌いなのよね」

「……海鮮になるんですか……?」

「自分はアレルギーで見たくもねえっす!」


 そういえばここの洞窟だが、モンスターの分布はこうだ。


南エリア2-3 海鳴りの洞窟

Lv28 シースライム

Lv32 サハギン(槍)

Lv33 サハギン(銛)

Lv34 ウォータードラゴン 

Lv35 デスクラブ


 あんまり変わり映えはしてこないな、あんまり敵の数を出さないってのも多分マップごとのばらけを考慮している気はする。あんまり被ってるのを出すと奥地に行く理由もなくなるし、ドロップ関係で人が偏ったりするし。


「流石にあんたたち二人がレベル高いのもあって安定はしてるのよね……何で此処に着たかったわけ?」

「自分は単純に面白そうだからっすねえ」

「わ、私は、さ、誘われたので……」


 面白そうだと思った奴が誘ったから付いてきたのが二人って事か。自主性がないのか、ドラゴニアンは。

 とりあえず見つけたサハギンはさくっと片付けて、また一息。戦闘的には難しくないと言うか、おしゃべり忍者もメカクレも火力が高いので私の出番が一切ないというだけだ。


「戦闘もあまりやりごたえないんじゃない?」

「んー、そうっすね、メタリカさんの火力高いんで、楽っすね」

「どこで知り合ったんだか」

「何言ってんすか?イベントの時のうちのグループ1位だった人っすよ」


 このコミュ力お化けはあのイベントの時に片っ端からフレンド登録なりしまくってたって事か。その割には自分でクラン立てないあたり、フレンドメインなんだろう。

 って言うか、グループ個人1位って事は、あのバトルジャンキーよりも個人スコアを稼いでたって事か。見た目以上に凄いんじゃないの、こいつ。


「あ、はい……1位でした……」

「って事はグループ1位でグループ個人1位か……まさか総合も?」

「いえ、そっちは、クラマスが……」

「そりゃあ出来過ぎてるわな、これ以上関係がないと良いんだけど」

「あ、でも、アカメさんの、ことは、知ってます、よ」


 おーっと、関係性が出てきた。だとしても誰との関係性で私の事を知ってるんだ?ここ最近と話を聞く限りではチェルとかマイカ辺りが私の事を喋った気もするが、前者はフレンドの28人とクランを立てたし、あの時の29人の中にはいなかったはず。マイカはマイカでバトルジャンキーすぎるから多分私の事を言う前に強い奴がいないかどうかの方に話題がそれると思う。


「えっと……クラマスはガウェインって人、なんですが……」

「ああ、あいつかあ」

「ガウェインってあの犬紳士っすよね?知り合いなんすか?」

「フレンドだけど連絡は取ってないからね、大方私の事をスカウトしに来たんじゃ?」

「あ、いえ……どんな人、かなあって……」

「知りたかったからって、世間は狭いわねえ……5万ユーザーいるってほんとなのかしら」


 だとしても私が合流するのはこの二人が約束していた後なんだし、これに関しては偶然すぎる。それにしてもどこをどう思えば私に合おうと思うんだろうか、そっちの方が気になってきた。


「あいつは私の事を何て言ってたかの方が気になるわ……そっちにサハギン」

「そう、ですね……気高くて素敵な人、とは」


 見つけたサハギンに何発か手裏剣を投げて牽制をし、出鼻をくじいてから魔法矢が飛んで炸裂する。うん、本当に私の出番ってないな。何よりこの寄生している感じってあんまり好きじゃないんだが。


「その気高くて素敵って言われてる本人は戦力外でいやーな感じになってるわ」

「そうっすか?自分の索敵スキルよりも性能良くて羨ましい限りっすけど」

「そう、ですよ……戦闘以外の所でも優秀って、スカウトしたいって……」

「はいはい、社交辞令社交辞令」


 次の相手を見つけてから指さし、言われたことを鵜呑みせずに襲い掛かってくるモンスターを蹴散らしさせる。

 それにしてもこの洞窟、もうちょっと敵がいなかったら観光と言うか風景的にかなりいいのにもったいない。所謂、鍾乳洞とかがある洞窟なのだが、水溜まりとかも光を当てると色が変わったりして中々に風情がある。

 その隣で奇声を発しているサハギンとかが飛び出してくるとか、ウォータードラゴンが水鉄砲で攻撃してきたりとか、やけにでかいカニがハサミを振り回したりしてこなければという条件があるのだが。


「楽しい、楽しいか?」

「他じゃ見ない相手っすから!」


 どうも私はバトルジャンキーにも縁があるようだな。

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