113話 それぞれの考え

 旅は道連れ世は情け何て言うが、ぶっちゃけたところこの忍者、まあしゃべる。

 私があまりしゃべらないのもあるのでより際立って話しているのもあるんだろう。


「で、そういう事をしてたら、覚えたんすよねぇ、すごくねえっすか!?」

「え、あー、すごいすごい」


 何の話をしてたのかは、思い切り聞いていなかったのでさっぱりわからないが、とにかくすごい事なんだろうな。自分に関係ない事とか聞く気のない話ってのは死ぬほど興味が沸かない。ちなみに私が生返事ばかりだが、向こうとしてはそれでも良いらしく、まあしゃべりかけてくる。


「5分でいいから黙れとか言われたことない?」


 南エリア2-1は正直銃剣立ち回りだとそこそこきつい、あんまりレベル差が開いていないというのもあるが、単純に銃剣の火力不足だな。この辺の相手ならDボア2発撃ちこんでやれば固定と通常ダメで落とせるとは思うが、ちょっともったいない気がする。こう言う所が貧乏性なんだよね。

 そのくせに序盤の序盤、50発の銃弾を無計画に撃ちまくったのは私なんだけどさ。


「お、すごいっすね、それはもうしょっちゅう言われるっす!」

「だと思ったわよ……PTとかクランの連中に言われてそうだし」

「まったくその通りっす!でも、暗い雰囲気とか、重苦しく深刻にゲームやるっての面白くないじゃないっすか?」


 案外まともな考えでやってるじゃない。まあシリアスにやるのは構わないんだけど、あくまでこれは「ゲーム」だ。別にデスゲームやってるとか、ログアウトできなくなったとかそういう物でもないし、対人のギスギスも無い。至って平和な異世界ファンタジーのVRMMOなのは確かだ。


「まあ、ガチとかエンジョイとかあるのも分かるし、お前何目線なんだよ?的な奴いるのもわかるんすけど、自分としては楽しくしゃべくりまわってる方がいいっすね」

「まー、その辺は人それぞれなのは確かね、対人だったら私もかなりガチで、自分以外全員無能のくずって思うくらいだし」

「でも、こっちは違うじゃないっすか。せっかく付き合いもあるんなら楽しくしゃべりながら遊びたいんすよ」


 まあ、確かにその辺は同意するわ。私はどうしても冷めた感じになるし、あまり人付き合いも良くないってのはあるけど。……いつだったかな、語尾に「w」とか何か余計な物を付けなくなったのは。悪くはないんだが、ああいうのっていい歳でやってると恥ずかしくもなる。


「久々にこんなにのんびりゲームやってるってのもあるわね、私は」

「そうなんすか?イベントの時とかすげえ陣頭指揮取ってたじゃないっすか」

「私はね、負けるってのが嫌いなのよ。スポーツとかもそうだけど、いい試合だったとか、グッドゲームとか言って負けてるの見ると反吐が出るのよね」

「うっわ、ガチじゃないっすか」

「勝負事は勝つか負けるかしかないじゃない?最近だとそうね……わかりやすいのはバトロワ物ね、いくらキルを重ねてダメージを積もうが、最後に負けたら惜しくも無けりゃただの負け犬じゃない」

「うーん、まあ、言われればそうっすけど……」

「あくまで私の考え方という物よ。ただね幾ら回数を重ねても愚図は愚図ってのを思い知ってるからこうなるのよ……あとは何よりも」

「何よりも?」

「私は勝つのが好きなのよ」


 立ち止まり此方を向いていた忍者に、いつもの様に、横顔を向けながらギザ歯をにぃーっと見せつけながら笑う。


「……どこぞの半炎半氷みたいな事いうっすね」

「ああー、あれはキャラとしては下衆だけど、言ってる事は正しいと思うわ」


 明らかに私の事を見て「この人はガチ中のガチだ」って顔でこっちを見ているので歩くのを促す。


「で、あんたはどこのエリアのダンジョンに行くの」

「一応南エリア2-3の海上にある奴っすね、南2-3がほぼ海なんで、どう攻略するかって話だったんすけど、海を渡る方法が分かったからっす」

「へぇ、どんな方法なの?」

「船っすね。木工職人が戯れで作った奴だったんすけど、出来が良いもんで海上でも使ったら余裕で使えたって感じっす」

「船とかいいからその木工職人には会いたいわね……木工製品でどん詰まりだし」

「生産職は貴重っすからねえ……ちなみに自分は鍛冶あげてるっすよ」


 そういうのが一言多いって気が付いてないんだろうな。正直、悪い奴ではないし、鬱陶しいってところ以外は良い奴だよ。ムードメーカーってこういうやつの事を言うんだろうな。


「それを言ったら私は2枠スキル何個もってると思ってんのよ」

「何個なんすか?」

「10個よ10個、まだ増える予定だし、ガンナーやんの大変なのよ」

「みたいっすねえ……自分みたいに打剣とか、忍術みたいな事はどうっすか?」


 そういえばうっすらと考えていた事が確かにあるな。魔法矢とかがあるなら魔法弾とか、刻印を銃弾に入れて属性付与とか、魔法系素材を調合でかけ合わせて属性弾みたいなやつね。今の所魔法生物って言うとロックラックとゴーレムしか遭遇してないし、もうちょっと属性に寄った魔法生物のような相手が居るんだろう。


「面白い話だけど、余計なスキル取れないのよね……私はそんな事よりも盗賊から忍者になってるあんたのほうが気になるわ」

「お、そっちっすか?二次職は職業Lvの方を30以上にすればできるっすよ。ただギルドを見つけないと行けないのが難しいと思うっす」

「ガンナーギルドはまだ見つけてないからそっちもやらないと行けないけど、畑が忙しいのよねえ」

「まあ、いいんじゃないすか、SP振らなきゃ職業Lvはあがんないすから、デメリットはあんましないっすよ」


 そんな事言いながらさくっと南エリア2-2に侵入。私としては此処が目的地なのでこれ以上一緒につるむことはないな。

 ちなみに一切触れなかったが道中のモンスターに関してはまあ、二人で一緒に殴るわ、手裏剣飛ばすわ、忍術であっという間に殲滅していったうえに、何一つ苦戦する要素も無かったので割愛。


「さーて、私は此処までね……貝殻拾ったら帰るから」

「一緒にいかないっすか?いい所まで行けるとおもうんすけど」

「なんか見返りくらいないとなあ」


 バケツを取り出してそれに貝殻を入れていく。海なだけであってちょっと探せば結構見つかるもんだな。それにしてもバケツってこういう採取するんだったらかなり必要なアイテムなんじゃないかな。まあ、とにかく話しつつ貝殻を集めまわる。

 で、2㎏分の貝殻。これだけあればとりあえず畑にまく分にはいいんじゃないかな。ジャガイモ側の方に撒いても品質が上がるかもしれないし、もうちょっと回収しておくのもありかな。


「本当はクラマスが一緒に行く予定だったんすよ、ただクランハウス見てくるので迷ってるみたいっすから……それにほら、楽しまないと損っすよ?」

「ったく……ダンジョンアタックする予定も無かったから死んでも文句言うんじゃないわよ」

「いいっすよー、船は自分持ってるんで、船旅満喫っすよ!」

「船旅は優雅に静かに楽しみたい派なんだけど?」

「自分は楽しいっすよ」


 ハラスメント越しにパイプライフルで殴りつける。勿論こっちが弾かれるが、ちょっとだけ気分が良くなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る