第266話『マヂカ風呂上がりの憂愁』

魔法少女マヂカ


266『マヂカ風呂上がりの憂愁』語り手:マヂカ  





 敵わないと思ったのか、詰子は浴槽の反対側に泳いで行ってノンコと遊び始めた。


 二人とも精神年齢が近いせいか、コロコロとじゃれ合っている。


 それが、なんとも母性本能をくすぐるというか、霧子とJS西郷にはいいおもちゃのようで、二人の姉と二人の妹が仲良く入浴……オ、思わず韻を踏んでしまって『仲浴』なんて、シャレめいた造語が湧いてきた。


 まあ、仲良きことは良きことだ。


「先に上がるよ……」


 いちおうことわっておくが、気いちゃいない(^_^;)。


 キャハハ アハハ ウフフの嬌声をガラス越しに聞きながら、頭と体を拭いて身づくろい。


 虎ノ門事件まで一か月。


 敵は、予想の何倍も力が強い。


 わざとステッキ銃を盗ったり盗らせたり。あの銃には魔法めいた呪が掛かっていて、そういうゴタゴタが起こる度に威力が増していくのだ。浴室で嬌声をあげている詰子のようだ、かまってもらうほど、テンションが上がっていく。


 詰子の方は、風呂から上がって、布団に潜り込めば十秒もかからずに眠りに落ちて一件落着だろうが、敵は、そうはいかない。


 ステッキ銃の威力が上がるばかりではない。あの怪人の取り巻きたち。一体はやっつけたが、残り十二体。


 いや、そもそも、あの怪人だ。


 正体は読み切れないが、おそらくはトキワ荘。


 あそこで、没になったマンガの怨念たちが、この過去の大正時代まで侵食して悪さをしている。


 あまつさえ、虎沢クマを誘拐し、自らの傀儡に仕立てて、我々に敵対させようとしている。


 ブリンダに加え、JS西郷と詰子。それに、大連武闘会を経て力を増した霧子。いちおうノンコもいるが。


 これで勝てるか?


 いや、勝つだけではダメだ。虎ノ門で敵の目標になっている摂政宮殿下をお救いしなければならない。


 正直、手に余る。


 せめてブリンダがいてくれれば……。


 ブリンダは、この瞬間に向こうでの仕事が終わっても、サンフランシスコから船に乗って、戻ってくるのは一か月先。


 困った……困った時の神頼み……というと関東総鎮守の神田明神が浮かんでくるが、神田明神は、この震災で社殿が壊滅。鉄筋コンクリートの社殿が完成するのは、大正の末年……いや、昭和に入ってからではなかっただろうか?


 いずれにせよ、ここは、自分たちで踏ん張るしかないな……。


 風呂上がりだというのに、水に落ちたように浮かない気持ちで自分の部屋に戻る。


 階段の下で田中執事長、上がったところで春日メイド長に出会うが、お気の毒という感じで会釈されるばかり。


 二人は人間だから、魔法少女の悩みなど知る由もないのだろうが、何カ月もいっしょに暮していると、惻隠の情というのだろうか、何事かは分からぬままに同情はしてくれている。


 よし、頭を切り替えよう!


 自分の頬にピシャっと気合いを入れて、ドアを開ける。



 部屋に入ってビックリした。


 神田明神のクロ巫女が、巫女服姿で、恭しく頭を下げて挨拶するではないか!?



※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査


  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る