第252話『ブリンダのお願い』

魔法少女マヂカ


252『ブリンダのお願い』語り手:マヂカ      





 クマさんと箕作巡査の婚約騒動から三日後、ブリンダが高坂邸にやってきた。



「お二人とも、ほんとうにおめでとう!」


 だれが見ても『二人の婚約をお祝いに来た!』という感じの祝意をホカホカの婚約者たちに述べた後、ブリンダは、わたしの部屋にやってきた。



「それで、ほんとうの用事はなによ?」



「え、バレてんのか?」


「長い付き合いだからね」


「さすがは日ノ本一番の魔法少女だ話が早い」


 とたんに行儀悪くなって、ソファーの上で胡座をかく。


「フン」


「あ、でも、二人にお祝いの言葉を言うのが半分以上の目的だぞ。だから、こっちは後回しにしただろーが」


「どうせ、あたしは後回しなんだ」


「おい、からむなよ」


「で、アメリカ一番の魔法少女が日ノ本一番の魔法少女になんの用?」


「飛行石をかしてくれ」


「はあ?」


 ペシ!


 厚かましく伸ばした手を張ってやる。


「あ、ひどいなあ……いや、だから飛行石を……な」


 ちょっと注釈。


 魔法少女は空を飛ぶんだけど、飛び方は二種類ある。


 乗り物に乗るのと、自分の力で飛ぶのと。


 乗り物は、魔法のホウキから、こないだの筋斗雲とか、大塚台公園のオブジェとかね。


 飛行属性の無い物体でも魔法で飛行能力を与えてやることもできる。


 自分で飛んだり、そういう飛行属性の無い物体に飛行能力を与えてやる時に使うのが飛行石だ。


 普段は体の中に収納している。


 収納場所は魔法少女仲間にも秘密だ。能力の高い魔法少女なら人の飛行石を盗むこともできるからね。


「ブリンダ、大使の娘ってことになってるんだから、適当に乗り継いでいけるでしょ」


 大正12年だから、自動車はもちろん飛行機だって、ライト兄弟の初飛行から十年たって、戦争にだって使われたから、大使令嬢なら、たいていの乗り物には乗れるだろう。


「それがな、アメリカなんだ」


「なら、船でしょ」


「船じゃ間に合わない、十日にはバーバンクに着かなきゃならないんでな」


「バーバンク……カリフォルニア?」


「あ、ああ」


「いったい何があるのよ?」


「ウォルトが会社を作るんだ」


「ウォルト…………あ、ウォルトディズニー!?」


「あ、ああ、そのウォルトだ」


「お祝いに行く……だけではないのね?」


「ああ、ちょっと魔族がらみの妨害があってな。オレが手助けして、やっと間に合ったんだ」


「つまり、史実と異なって、ブリンダはこっちに来てるから、心もとないというわけ?」


「その通りだ。同一の時空に二人以上の自分が存在していると、力が弱くなる。まして、このイレギュラーな状況だ。ひょっとしたら、アメリカに、もう一人のオレは存在していないかもしれない」


「なるほどね……」


 ディズニーは、その後力を持って、令和の次代には霊雁島の第七魔法艦隊の司令を務めることになる。


 無下に断ることもできない。


「見ちゃダメよ」


「あ、ああ、もちろん」


 えい


 掛け声をかけると、分身の術を使う。隠れて取り出しても、ブリンダほどの魔法少女ならお見通しだからね。


 それにブリンダは「見てはいけない」は守れっこない。鶴の恩返しの主役みたいな性格だしね。


「信用ねえなあ……」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「当たり前よ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 部屋中だんご状態になったわたしが応える。


「ああ、目がチカチカする!」


 百人を超えるわたしが、それぞれ、体の別の場所から飛行石を取り出す。


「はい、どうぞ」


「すまん、恩に着るよ。二人の結婚式までには帰って来るから!」


 そう言うと、ブリンダは、窓を大きく開け放った。


「あ、ちょっと、まさか……!?」


 そのまさかだった。


 セイ!


 軽くジャンプすると、スーパーマンのように東の空に飛んで行った。


 仕方がない、元々は心配して、この大正時代に飛び込んできてくれたんだからね。


 静かに窓を閉めて……ちょっと気になった。


 三日前、天窓を過った黒い影。


 あれから姿を現わさない。


 まあ、少々のことは飛行石がなくてもやれるか。



 見上げる空は、令和のそれよりも、うんと真っ青に透き通った青空。


 この青空を見上げて、この時代の日本人は震災の復興に取り組んでいるんだ。


 わたしも、もう少し顎を上げてやってもいいのかもしれない。





※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査


 

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