第248話『筋斗雲を借りて飛ぶ』

魔法少女マヂカ


248『筋斗雲を借りて飛ぶ』語り手:マヂカ   





 船というものには、たいてい神さまがついている。


 船霊と書いてフナダマと読む神さまだ。


 日本の場合、その多くは神社の神さまを勧請(お願いして御祭神を、いわばコピー)してもらう。


 日本の神さまは、便利なもので、いくら勧請しても減ることが無い。


 逆に、合祀(混ぜる)てしまうと、分離することができない。


 令和の時代、靖国神社にA級戦犯を祀っているのはけしからんので、分けてしまえという主張があるが、いったん合祀したものだから分けようがない。


 さて、日本の船霊は、れっきとした神社に祀られている神さまなので、きわめて行儀がいい。


 ひたすら、船と乗組員や乗客の安全を祈っている。


 祈ることが仕事なので、それ以外の事には手を出さない。



 しかし、外国の船霊は、すごい。


 簡単に人やよその船に祟る。


 バルチック艦隊の亡霊に手を焼かされたことは、バックナンバーを読んでもらえれば納得してもらえると思う。


 原宿でカラんできたイズムルードや、アレクサンドル三世、オリヨールに祟られたのは読者の人たちも懐かしく思い出してくれると思う。


 ついこないだ、震災後の横浜に大挙して攻めてきたロシア艦隊にてこずったのは記憶にも新しい。



 もし、日本の船霊がロシアのように、自己主張が強く狂暴だったら、荒ぶる神となって、自分で戦うとか都合をつけるとかの行動を起こしたと思う。


 良くも悪くも、日本の船霊は和霊(にぎたま)だ。


 荒事には手を染めない。


 赤城を助けてほしいと出てきた天城もそうだし、長門が震災救助に間に合うように全速を出せるようにと頼み込んできた赤城もそうだ。



「助けてもらって文句を言うのは筋が違うんだが……ちょっと疲れるぞ(;'∀')」


「仕方ないでしょ、長門に化けるって大仕事が待ってるんだから……おっと!」


「動くな、バランスが崩れるぅ!」


「あ、ごめんごめん(^_^;)」



 大連舞踏会で、なんとか霧子を勝利させた我々は、いよいよ長門を全速力で東京へ向かわせるために海の上を飛んでいる。


 わたしもブリンダも特級の魔法少女。


 だから、自力で飛行することはわけもないことなんだけど、これから戦艦長門に化けて、ストーカーのイギリス巡洋艦を引きつけなければならない。


 なんせ、45000トンのデカブツ。


 ただ化けるだけでも大変な上に、イギリスの巡洋艦が、どこまで付きまとってくるのかも分からない。


 体力と魔力を温存するために、孫悟嬢が好意で貸してくれた筋斗雲に乗っている。


「しかし、こんなにバランスとるのが難しいとは思わなかったぞ」


「あまり文句言わない方がいいわよ、まだ、震災勃発の連絡も入って来てないんだから」


「ムムゥ……」


「イラつくと、神経擦り減らすわよ」


「分かってるヽ(`Д´)ノ」


「ねえ、ブリンダ」


「な、なんだ?」


「えと……」


 気を紛らわせようと声を掛けるが、わたしもすぐには出てこない。


「ラスプ-チン……」


 思ってもいない名前が出た。しばらく考えないようにしていた、あまりに理不尽で胸糞の悪い奴だったから。


 やっぱり、わたしも腹に据えかねているようだ。


「あれは、陰謀だな」


「そう思うよね」


「あれは、霧子に勝たせることによって、脱皮をしたんだ」


 同じことを思っている。


「ラスプーチンの皮を剥いたらスターリン……悪い冗談だ」


「ブリンダ」


「なんだ?」


「レーニンが死んで、スターリンが実権を握るのは、たしか……」


「1924年……来年か……あ!?」


「同じ考えにいきついたみたいね」


「霧子の打撃が、ちょうど具合がいいんだな……俺たちがやっつけてしまえば、殻を破るどころか、粉々に打ち砕いてしまう……それで、オレたちを足止め……」


「間合いを計って霧子に止めを刺させて……無事にスターリンに変身」


「やられたな……」


「でも……」


「なんだ!?」


「バランスとれるようになったじゃない」


「え? あ…………でも、やっぱり忌々しいぞ!」


「あ、ちょ、バランスがあああ」


「す、すまん」


 キリキリ舞いして、海面近くで体勢を立て直し、魔法少女の馬力で高度を取り戻すと、電波が飛び込んできた。



 発 海軍軍令部  宛 戦艦長門艦長


 9月1日 関東地方ニオイテ激甚ナル震災勃発 被害甚大ニツキ 貴艦ハ速ヤカニ横浜鎮守府ニ帰還シ 軍民ノ被災救助ニ向カフベシ



 いよいよ始まった。


 


※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査

孫悟嬢        中国一の魔法少女


 

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