第221話『高坂家のファッションショー!』

魔法少女マヂカ・221


『高坂家のファッションショー!』語り手:マヂカ     







 ファッションショー!? で、再生服なの!?




 遊びに来たブリンダがビックリした。


「ああ、そうだ。わたしが着ているワンピースも、ダイニングのカーテンだったものだぞ」


「ちょっと、立ってみて」


「ああ」


「ターンして!」


 ちょっと気恥ずかしいが、ファッションモデルのようにターンしてやる。


「ど、どうだ(#^_^#)?」


 (*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)ウンウン♪


 ブリンダだけでなく、霧子やノンコ、メイドや執事たちもにこやかにうなづいている。


「とってもいい! シックな色合いが、これからの季節に合ってる! プラタナスの枯葉の歩道を散歩するのにピッタリよ!」


 シックなのは、日に焼けたカーテンの生地をそのまま使っているからだ。


 ここのところ宿舎でなにやらやっていると偵察。その結果のファッションショーなのだ。


「日露戦争の勝利を記念して、屋敷中のカーテンを張り替えた時のだから、丈夫な生地だからね!」


 霧子が、まるで自分のアイデアであったかのように興奮している。


「お嬢様方に着ていただくつもりはなかったんですけどね(^_^;)」


 クマさんが恐縮。


 メイドや執事たちも、同じような再生生地で作ったカジュアルな服を着ている。


 霧子のアイデアで、どうせバレたんだからファッションショーにしようということになっている(^▽^)/。




 ワンピースにツーピース、スカートも、フレアやタイトとさまざま。


 男子用も、スーツに仕立てられたものから、カジュアルなブレザーやベストに仕立てたものと様ざま。


 いつもは黒を基調としたメイド服・執事服なので、みんな印象が違う。


 クマさんは、ひざ丈のフレアスカートにボレロ、トモ布で作ったベレー帽は、本人は恥ずかしがっているけど、シックなモダンガールで、銀座を歩いても違和感なく注目の的だろう。


「あなたのは、襟と袖口に赤を……田中執事長はブラウンの別珍でアクセントを……それは、ウエストを絞って、こっちは胸元にアクセントを……」


 指導しているのはメイド長の春日。


「春日さん、指摘が的確ね……」


 ブリンダも感心している。


「春日はね、結婚して銀座で仕立屋さんをやっていたの。旦那さんが亡くなって、お父様がお願いしてメイド長に戻ってきてもらったのよ」


「それで、仕立てのプロなんや!」


 ノンコが感心。春日を苦手にしていたノンコだけど、ちょっと認識が変わるかもしれない。


 そして、本人の春日は「自分のものは自分で作ります」と宣言して、二日でお召しと羽織に仕立て上げた。


「ミセス春日は和裁もやるんだ」


 ブリンダは感心するが、この時代の日本女性は和裁は出来て当たり前だ。


「そうよ、大逆事件(明治末年に起こった、天皇暗殺未遂事件)の後なんか『これからの社会情勢の変化は激しい、女子たる者も、その手に自活の技術を身につけるべきだ』って言った人がいるの。だれだか分かる?」


 知っているけど、わたしは言わない。


 霧子の質問に、ノンコと霧子が腕を組む。


「津田梅子とか平塚らいちょうとか?」


「ううん、徳川慶喜公よ!」


 霧子が溌溂と答える。


 そうだ、慶喜は大正の初年まで生きていて、大逆事件では、ずいぶん過敏に反応していたっけ。


 慶喜の第六天町の屋敷を思い出す。


 敷地こそは広かったが、建物は田舎の分教場のように質素だったぞ。


 明治天皇も「維新の大業は慶喜がいなければ為し難かった」と、宮中に招いて皇后にお酌をさせていた。


 霧子は、そういうことも知っているようだ。


「それでは、手を加えて出来上がったものを着てお買い物に行ってもらいます」


 春日が宣言。


「そして、腕に自信がついたところで、震災被災者の子たちに送る服に取り掛かります」


「え、そうやったん?」


 ノンコが口に出して驚く。


「さすがは春日ね……」


 霧子がやられたという顔をする。




 自分たちの再生服を作った後、被災した子供たちの服を縫って世間の役に立つ。


 霧子のお父さんの高坂公が発案者なんだろうけど、それを受けて実行する春日もなかなかだ。




 高坂公に報告して公の部屋から出てきた春日を掴まえて褒めてみた。


「春日さん、今回の事、脱帽です」


「いえいえ、こうやって洋服を普及させたら、洋服の仕立屋も、ちょっと息がつけるでしょ」


 霧子に聞くと、春日が嫁いだ仕立屋は、思うように注文が取れずに店を畳んだだそうだ。


「それにね……」


 そう言いながら、霧子は本棚の奥から雑誌を取り出した。


「一般には出回ってないのよ」


 見せてくれた表紙には『発行禁止』の赤いスタンプが押してあった。


「これは……!?」


 


 

※ 主な登場人物


渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔


※ この章の登場人物


高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

新畑         インバネスの男

箕作健人       請願巡査


 

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