第177話『高坂侯爵邸・1・田中執事長』


魔法少女マヂカ・177


『高坂侯爵邸・1・田中執事長』語り手:マヂカ    






 てっきり鹿児島の出身と思っていました。



 JS西郷からの紹介状に目を通した執事長は眼鏡をはずして、わたしたちを見た。


 紹介状は、最初メイド長に渡されたが、メイド長は「これは執事長の管轄です」と言って、わたしとノンコを田中執事長に回した。


「差し障りがあるのでメイドの紹介ということになっているが、二人にはお嬢様のご学友になってもらいます」


「お嬢様?」


「ご学友?」


 紹介状の額面は、わたしとノンコをメイドとして推挙するという西郷侯爵自筆のものだった。ノンコは「わー、メイド服着て『ご主人様ア~』とかやるのかなあ(^▽^)/」と、メイド喫茶のバイトみたいに喜んでいた。それが、お嬢様のご学友と言うのだから面食らってしまう。


「西郷侯爵から詳しいことは聞いていないのだね?」


「はい、メイドのお仕事と伺っておりましたので(紹介状を見る限り、そうとしか思わなかった)そのように理解しておりました」


「さすがは西郷侯爵、ここまで秘密を守ってくださった……」


 涙ぐんでるよ、執事長……。


「あなたたちにお世話してもらうのは、当家の次女である霧子様です。霧子様は昨年の大震災以来、少し気鬱になっておられ、ご登校もままならぬありさまなのです。日によっては、元々の活発なご気性で楽し気に登校されることもあるのですが、授業中に気鬱を発せられて医務室で過ごされたり、学校に居ることも耐えられなくなって早退されることもあったり、何日も引き籠られたり、かと思うと、プイとお屋敷を出られたり。そこで、あなたたちには、霧子様のご学友になってもらって、霧子様の慰め役を務めてもらいたいのです」


「慰め役?」


 慰め役という言葉にひっかかった。


「まず、自傷行為にいたらぬよう……無事に学校に通っていただきご卒業されるようにお支えすること……この二つの事をお願いしたい」


 どうやら不登校娘の世話をしろということらしい。


「では、取りあえず、霧子お嬢様にご対面していただきます。こちらです……」


 廊下を進んでドアを潜ると、そこからは所謂『奥』と呼ばれる侯爵家の居住、廊下にも絨毯が敷かれ、数メートルおきに点けられた電灯も高級品のように思われる。


 階段を上がって、角を曲がったところのドアで田中執事長は立ち止まった。


 ……コホン


 咳払いはドアの向こうの霧子様に到着を悟らせるためだろう。


「霧子様、田中でございます。霧子様といっしょに学校に通う渡辺真智香さんと野々村典子さんをお連れしました」


 …………………。


「ご在室であることは分かっております、ドアをあけますよ、お嬢様。すこし下がっていてください」


「はい」


 ノンコと二人一歩下がったのを確認すると、田中執事長は軽く息を吐いてドアノブに手を掛けた。



 シュシュッ!!



 剣呑な音がして二本の小柄が飛んできた!


  


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る