第155話『壬生 オモチャの城・1』


魔法少女マヂカ・155


『壬生 オモチャの城・1』語り手:マヂカ     






 オモチャのお城?




 我々と城を隔てるものが一群の灌木林になるところまで迫って、友里が呟いた。


 ディズニーランドのお城をプレスして高さを半分にしたような城は、なんともオモチャめいた印象なのだ。


 色紙(いろがみ)を切って貼り付けたような外壁、城壁や尖塔に立てられたポールには様々な三角の旗が掲げられているのだが、お子様ランチの旗のように固まって、そよぐことも垂れることもない。城壁を這う蔦はキレイな緑色で、ビニールの造花のようだ。


 リアルの建築物なら、電線やネットのケーブルが引き込まれていたり、屋根の縁には樋があったりするのだが、それも見当たらない。


 近寄ってみると、オモチャめいた音と音楽、ネジを巻くような音や、ガチャガチャ歯車が回る音、ヒューとかポンとか、クルクルとか、プップクプーとか、赤ちゃんが聞いたら笑顔になりそうな音がする。


「たしか、壬生にはオモチャの博物館があったような気がする」


「オモチャの博物館があるのか?」


 令和に時代に目覚めて一年ちょっと、日暮里以外の地理的な知識は、おおかた昭和二十年で止まっている。


「うん、小学校の時、遠足の候補に挙がったことがある」


「あ、城門が開く!」


 カタカタカタと、プラスチックの歯車が回るような音がして、城門が八の字開いた。


「入る?」


「いや、迂回していこう。ん……ツンは?」


「え? あ、あそこに」


 ツンは、灌木林を出たところで立ち止まっている。


「ツン、行くぞ」


 …………。


「ちょっとおかしい」


 灌木林のところまで戻ると、ツンは前を向いたまま行儀よく固まっている。


「あ……置物みたくなってる!」


「プラスチックのボディーに毛皮をかぶせたような……」


「子どものころ持ってた。ねじを巻くと『ワンワン』て言いながら歩く犬のオモチャ」


「ツンのお腹にもネジがあるぞ」


「巻いてみようか?」


「おう」


 ツンを横倒しにして、ネジを巻く。


 ジーコ ジーコ ジーコ


 八回ほどでネジが巻き上がり、ピョコンと立ち上がると、意外に早い足どりでトテトテトテと歩き出した。


「お、ちょっと待て!」


「ツン!」


 ツンは、追うほどに足が速くなり、わたしと友里を追わせたまま城門の中に入ってしまう。




 ギーーーーーーーーーーーガッチャン!!




 ツンを追って、城門を潜ると、硬質な金属音を立てて城門が閉まった。


 オモチャらしくない。まるで大砲に弾を込めて砲手が尾栓を閉じた時の音のようだ。


「あ、見て!」


 周囲の壁が捩じったように迫ってきて、捩じりは、そのまま前方に向かって規則正しい縞になって、まるで、砲身の中に刻まれたライフルのようになった。


「友里、ツンをきつく抱っこして、わたしに掴まれ!」


「え、なに?」


「早くしろ!」


 友里の手を掴まえたところで衝撃が来た!




 ドッカーーーーーーーーーーーーーン!!


 


 

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