第116話『みんなでアルバイト・3』

魔法少女マヂカ・116  


『みんなでアルバイト・3』語り手:マヂカ 






 建物と建物の間に屋根と囲いがしてあって、ちょっとしたトンネルになっている。


 トンネルの中は手前半分が剥き出しのコンパネで、向こう半分がピンクに塗られ、境目には『国境』と書かれた張り紙。国境を跨るように自販機があって、定価の半額ぐらいの値段でジュースやお茶を売っている。


 突き当りはピンクのドアで、丸眼鏡のおじさんはインタホンに向かって声をかけた。


「バイトの子たちを連れて来たぞ」


「ハ~イ、いま開けま~す」


 アニメ声の返事があって、ドアが自動で開くと、直ぐにピンクの壁。左に折れて右に曲がると控室のようなスペースにテーブルとロッカー。


 一体ここはなんなのだ?


「お待たせなのニャ~」


 ネコミミのメイドさんが入ってきた!


「みなさんの世話をするミケニャンなのニャ。とりあえず、書類に必要事項を書いて欲しいのニャ」


 ミケニャンが書類を配ろうとするのを制止して聞いた。


「あの、いったいなんのバイトなんですか?」


「あら、錬金術師のテツゾウさんからは聞いてニャイのかニャ?」


 ミケニャンは丸眼鏡のおじさんを見て小首をかしげた。


「どうも、ここの説明は苦手でな。重子はおらんのか?」


「国境を超えたら、そっちの名前は禁止なのニャ。もう一度ニャ、錬金術師のテツゾウさん」


「あ、えと……バジーナ・ミカエル・フォン・クゼルンシュタイン三世?」


「もう、錬金術師のテツゾウさんは何度まちがえたら覚えるニャ? バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世(⋈◍>◡<◍)。✧♡ニャ」


「めんどくさい」


「ん?」


「バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世」


「ん~、語尾にリスペクトの響きが無いニャ~」


 いったい、ここはなんなのだ?


 パンパカパンパンパ~~~~~~~~~ン(^^♪


 みんなの腰が引けたところに、ファンファーレが鳴って、ベルばらのマリーアントワネットみたいなのが現れた!


「父上、いつになったら、妖精の国のしきたりに慣れてくださるのかしら」


「だから、重子……」


「「バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世(⋈◍>◡<◍)。✧♡ニャー!!」」


「とにかく、あとは頼んだぞ!」


 そそくさと、丸眼鏡、いや、錬金術師のテツゾウさんは帰って行ってしまった。


「ようこそ、わが妖精のキャピタル、ツマゴメへ。これより、そなたたちのイニシエーションの義を執り行うとしようぞ! ミケニャン、この者たちのために、現世の言葉を指し許すぞ」


 バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世(⋈◍>◡<◍)。✧♡がセーラームーンのような決めポーズで右手を掲げると、天井からタペストリーが下りてきた。


 アキバ メイド系飲食店連合会規則……という表題から始まって、就業規則めいたものが、活字にして一万字はあろうかという量で書かれている。


 ミケニャンはネコミミカチューシャを取って眼鏡をかけると、擦れたチーママみたく喋り始めた。


「えっと、うちは『メイド喫茶ツマゴメ』っての。ツマゴメで分かると思うんだけど、妻籠電気店の裏を拡張して作った店なんだけど、今は、完全こっちがメイン。見りゃわかっでしょ。求人とか出す時は電気店の方が通りがいいんで、そーしてるわけ。でもってえ、うちの重子」


 ポカン!


「イテ! もとい、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世(⋈◍>◡<◍)。✧♡はアキバ メイド系飲食店連合会の会長も務めていてえ、まあ、アキバのメイドとお店の面倒をまとめてみてるわけ。でもって、あんたたちは、年末年始に手が足りていない加盟店のヘルプに出てもらうワケ。就業規則とか待遇とかは、ここに書いてあるし、あんたらに渡した書類にもあっから目ぇ通しといて。じゃ、さっそく割り当てとか決めたいんでえ」


「あ、あのう……」


 どうなるかと、面白がって見ていると、友里が手を挙げた。


「あん? なに?」


「あ、えと……メイド喫茶のバイトだなんて聞いてないんですけど」


「そら、知らねーな。てか、あんたらに断られっと、年末年始のアキバのメイド系は立ち行かないのよ。メイド系が立ち行かないってのはアキバが立ち行かないってこと。ま、乗り掛かった舟と思って務めてね」


 友里は、それ以上は言えずに座ってしまう。他の六人は程度の差はあるが、面白そうに聞いている。


「というわけで、明日からよろしくニャ(^▽^)/」


 パンパカパンパンパ~~~~~~~~~ン(^^♪


 ミケニャンが元に戻って、バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン三世(⋈◍>◡<◍)。✧♡がにこやかにご退出になり、我々のアルバイトが始まった。


 今年も、余すところ四日となった。




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る