第72話『M資金・9 消しゴムが床に落ちるまで・4』

魔法少女マヂカ・072  

『M資金・9 消しゴムが床に落ちるまで・4』語り手:マヂカ 





 胴の所で真っ二つになったツェサレーヴィチ!



 上半身も下半身もクルクルと弧を描いて、わたし達の周りを周り始めた。


 切断の勢いかと思ったら、どうも様子が変だ。


 上半身は、ニタニタ笑いながら両手で空気を掻き、下半身もきれいなフォームで空気を蹴っている。


 二人の周囲を二周するころには、それぞれの切断面が盛り上がり、新しい下半身と上半身になって、三周目にツェサレーヴィチは二人になってしまった。


「化け物か!?」


 気味悪がりながらも、レイピアを上段に構え直すブリンダ。


「下手に切っちゃダメだ、切ると、さらに増える!」


「さあ、どうだろ。わたしはフランス生まれのロシア育ち。だから、おバカな魔法少女にも分かりやすく分裂してあげた。でも、ヤポンスキーが言う通りかも。だって、この百年でロシアもフランスも蹴落としてくれた日本とアメリカ。わたし自身でも自覚しない恨みがあるのかも……もし、そうだったら、この百年に相応しい数だけ分裂するかもしれないわね」


「別々に相手をしよう」


「分かった」


 互いを踏み台にして跳躍して、それぞれの正面にいるツェサレーヴィチに突進する!


「「アハハハハハハハハハハ」」


 同じ笑い声を吐きながら両極を飛ぶ二人のツェサレーヴィチを追う!


「切るんじゃないわよ!」


「どうしたらいいんだあああああ!?」


「考えろおおお…………!」


 ブリンダの声が遠くなる。ツェサレーヴィチの片割れを追いかけて、反対側のゲートから飛び出してしまったんだろう。


 こちらのツェサレーヴィチも、器用に飛びながら、いくつものゲートを抜けていく。


「早く来て! 早く追いついて、わたしを切りなさい。わたしを倒さなければ、ここからは出られないのだから。ハハハ、その野蛮な日本刀は飾り物なのかしらあ」


 嘲笑しながら一定の距離を置いて前を飛ぶツェサレーヴィチ。何度かダッシュをかけるが、数メートルより先には近づけない。


 百余りのゲートを潜るたびに風切丸を一閃する。届かない、正直悔しい。


 何度か飛び回るうちに、さっき一閃した太刀傷がゲートについているのが目に入った。


 なんという徒労感……そして気が付いた。


 シェルターは、蟻の巣状に亜空間を走っている。無軌道に飛んでいるようだが、一定の癖があるように思えた。


 追うのをやめて、ゲートの脇に潜んだ。そして待つこと数十秒。




 トーーーーーッ!!




 読んだ周期通りに現れたツェサレーヴィチを風切丸で刺し貫いた!


「ウッ! ウウウウウ、 ウ……切らないのか?」


 ツェサレーヴィチは驚愕している。身をよじって、わたしに切らせようとするが、コスの襟を掴んで離さない。


「切れば、増えてしまうからな!」


「くそ!」


 ツェサレーヴィチは、思い切り、わたしを突き飛ばした。


 逆らわずに、突き飛ばされてやる。


 傷口から、血を吹きださせながら敵は逃げていく。


「逃がすか!」


 わたしは追いかけて、勢いの衰えた敵を何度も貫いていく、けして切ったりはしない。


 目に見えて遅くなったツェサレーヴィチをゲートの脇に追い詰める。


「よ、よく気づいたわね……」


「せっかくのラビリンスを規則正しく飛ぶ方が悪いのよ」


「規則正しい?」


「途中で気が付いてね、ゲートを通るたびにシルシをつけておいたのよ」


「そ、そうか。やけっぱちに振り回していたわけではないのか……わたしとしたことが……」


「さ、M資金、返してもらうわよ」


「さ……せるか!」


 そう言うと、ツェサレーヴィチは自分から跳びかかって、風切丸の切っ先に飛び込んできた。


 ブス! 


 風切丸の鍔まで串刺しにされたツェサレーヴィチ、息のかかるところまで顔を寄せてくる。


「フフ……二度もマカーキ(猿)には負けない……」


 それだけ言うと、わたしを突き飛ばし、傷口からジェットのように血を噴きだし、クルクル旋回したかと思うと、無数のポリゴンのように分裂、露仏合作の魔法少女は霧消していった。


 まだ、片方が残ってる!


 相棒と敵の気配を探りながらシェルターを突き進んだ……。





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