第61話『城ケ島の少女・5』

魔法少女マヂカ・061  

『城ケ島の少女・5』語り手:マヂカ  





「「上だ!」」


 同時に気づいた。


 トンネルの天井に抜ける空気の流れを感じたのだ。


 瞬時に天井から上方に抜ける穴を発見し、ブリンダと二人で突き抜ける!


 穴の突き当りはマンホールのように鉄の蓋がされていたが、伸ばした手の先からパルス波を発して吹き飛ばす!


 シュワッ!


 蓋に続いて空中に飛び出し、勢いのまま互いに45度の角度で急上昇!


 出口付近でグズグズしていると、待ち構えている敵に狙撃されかねない。




 学校……だ。




 足元のグラウンドではジャージやユニホーム姿がボールを追いかけたり走りこんだりしている。校舎の窓からはブリンダと同じ制服姿の女生徒たちが部活の最中であったり帰宅準備にかかったりしている。


 ここは地元のS女学院だ。S女学院は山一つ頂上を削って設置されていて、山のドテッパラには京成本線のトンネルが穿たれているはずだ。


 この中に紛れたら、ちょっと難しい。


「降りて探すか……」


 決心して制服をS女学院のものに再構成する。


「体育館の裏から入るぞ」


「待って!」


 違和感を感じた。


「もう七時前だぞ、こんなに生徒が残っているか? それに、飛び出してきたマンホールが、もう閉じられてる」


 あれだけの馬力でぶっ飛ばした蓋が戻っている。それに、だれも気に留めないし、怪しんでもいない。


「「罠だ!」」


 同時に気づいて、学校の山から離れようとした。


 バチーーーーーン!


 見えない壁に弾かれてしまった。バリアーだ!


 ダガガガガガガガ!


 無数のパルスタガ―が飛んできた!


 二人とも、そのほとんどをはじき返したが、ブリンダもわたしも数発を食らい込んでしまった。むろん、体に命中させるようなことはしなかったが、タガーは制服を貫いてバリアーに縫い付けられてしまった。




「いいザマだな。これからゆっくり料理してやる」




 本館と思しき校舎の屋上に現れたのは、敵の魔法少女、石見礼子だ。学校のあちこちで放課後の女生徒を演じていたのは、その眷属の霊魔たちで、生徒の姿のままで、得物のタガーやレイピアを構えている。


 麓から吹き上げる風に黒髪をなびかせ、礼子は、さらに吠えた。


「おまえたちフソウ魔法少女の復活は断じて認めない、ここでせん滅してやる!」


 ザザザザザザザ!


 眷属どもが一斉に得物を構える。次の一斉攻撃を食らったらもたないかもしれない。


 セイ!


 無駄と分かりながら、全身に力を入る。


 ビシャ!


 なんと、力みに耐えきれずに制服がはじけ飛んでしまった!


 魔法少女のコスは、正規のものも偽装のものも程度の差はあれアーマーの効果がある。


 アーマーと言うのは、敵の攻撃に耐えるだけでなく、自分が意図しない限り簡単にはパージされない。


 そうか、ポリ高の制服からここのに再構成する途中だったんで、アーマー効果が構築しきれていなかったんだ。


 一瞬で謎は解けたが、制服はパージではなくロストしてしまってR指定のあられもない姿になってしまっている。


 魔法少女とはいえ女だ。羞恥で真っ赤になって、一瞬のゲシュタルト崩壊に陥ってしまう。


 敵も同様で、こちらよりもわずかに長い間が開いた。


 トワーーーーーーー!!


 風切丸をユニコーンの角のようにして、屋上の石見礼子に突進した!


 ブリンダを護ってやらなくちゃ! この一瞬に掛けてみよう! R指定の姿を見られてたまるか!


 さまざまな気持ちと魔法少女の勘が捨て鉢の行動をとらせた。


 眷属どもが磁石に張り付く鉄粉のように石見礼子のガードを固め始める。

 

 させるかあ!


 ブーストをかけて礼子に突っ込む! 


 ドゴーーーーーーーーーンンンンンンンンン!


 礼子のフルアーマーがチャージし終わる前に、風切丸の切っ先は礼子の胸板を貫いた!


 礼子の制服アーマーが粉砕しただけではなく、インナー装甲も破砕した手応え!


 その勢いで、校舎の上半分が齧り取ったように消滅して、わたしは、半ばゲル化した残骸に絡めとられてしまった。


 おかしい、鉄筋コンクリートの校舎がゲル化するか?


 ゲル化は学校施設全体に及ぼうとしていた。オーブンの中で溶けかけたチーズのようになった校舎に眷属たちは身動きが取れなくなっている。


 メリメリメリ……


 ゲル化しかけた校舎から身を引き剥がして、礼子が崩れ残った屋上に立ち上がった。


「その姿は……」


 礼子は、それまでの清楚な黒髪の少女ではなく、プラチナブロンドに美白の日本人離れした姿になっている。


「……少し見くびっていたようね。でも、ここまでよ、日米の魔法少女を一気に片づけてやる」


「お、おまえは!?」


「帝国海軍、戦艦石見よ」


「イヤミ?」


 ブリンダがスカタンを言う。ブリンダは大戦中の日本軍に関しては知識があるが、大戦前のそれには、ほとんど知識がない。


「嫌味は、そっちのほうよ。なんで敵同士の魔法少女が連携して、わたしを責める。節操のないクズどもが!」


「あいつは、前ド級戦艦石見よ。城ケ島の沖で海没処分になっている」


「そうよ、それも航空爆撃の標的にされて……たとえ雑役船でもいい、帝国海軍の一員として生涯を終えたかったのに、やっと大日本帝国海軍の軍艦として生きていく覚悟ができたところなのに」


「よく分からん、老朽化して標的にされる艦は珍しくないだろう。そいつらが、いちいち恨みを持っているなんて聞いたことが無いぞ」


 ブリンダは、石見のことが分かっていないのだ。


「あの子は、元はロシア海軍の戦艦オリヨール。日本海海戦で鹵獲されて戦艦石見になったの、当時はボロジノ級の最新鋭艦だった」


「それで……」


「わたしを蔑むなああああああああああああ!!!」


 プラチナブロンドの髪を逆立てて討ちかかってきた!




 日露どちらともつかない容姿を指摘されるのが一番の恥辱に感じるんだろう、瞬時に顕現させたサーベルと日本刀を両手に突きかかってきた。眷属どもは、健康なものが付き従ったが、その数は半数以下に減っていた。


 互いの体を跳躍台にして左右に散開、勢いをつけて反転すると、礼子の背後に回り込み、瞬時に得物を構えたままの左右の腕を切り落とした。


 キエーーーーーーーーーーーーーーー!!


 鳥のような悲鳴を上げ、自らシールドに穴をあけて礼子は消えて行った。


 主を失った眷属たちは、淡雪のように消えてしまい、眼下には夕闇の山頂にS女学院の校舎が沈もっていた。


 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る