第22話 いつもの日常
深閑の森での出来事から三日が経っていた。
あの日ベルズに戻るなり、ライリは本当に貧血を起こして倒れ、丸一日は昏々と眠り続けた。心配するような事は何もないと告げた医者の言葉通り、目覚めたライリはいつも以上の毒舌満載状態の晴れやかな笑顔だった。倒れたのは心労のせいだろうと、フレズヴェールが静かに耳打ちした。
そして今日も、いつもの顔ぶれがいつものようにギルドのカウンターに勢揃いしていた。
「ねえねえ、ライリ。セルリアはまだ深閑の森にいるの?」
「いや。今はベルズに来てるはずだ。近いうちに道具屋で働くって言ってたし」
「そうよねー。森にはあの嫌味なレグレスがいるし、こっちに出てくればライリとも会えるしね」
「何で僕なんだ」
表情ひとつ変えずにさらりと返したライリに、レフィスの何やら気持ち悪いねっとりとした視線が絡みつく。
「何? 気持ち悪い」
「私思うんだけど、ライリとセルリアってお似合いだよねー」
「どうして女って、そういう話に持って行きたがるんだ」
「あら、でもうかうか出来ないわよ。道具屋っていっぱい人の出入りがあるし、セルリアは美人だし、そのうちレグレスだって出てくるかもよ。っていうか、あれは絶対セルリアの事狙ってるわね」
一人で喋って一人で興奮するレフィスに、ユリシスとイーヴィは知らん顔、ライリはただ呆れ顔で溜息をつくだけだった。
「早いうちに手を打ってた方がいいと思うんだけど」
「僕とセルリアはただの幼馴染だって事を、その単細胞の脳味噌にしっかりと刻み込んで欲しいんだけど?」
「幼馴染から恋人へ変わる戸惑い……いいわねー、王道!」
「……何を言っても無駄だって事を、今更ながらに悟ったよ」
がっくりと肩を落とし、ライリが静かに席を立つ。
「セルリアのところ?」
「……そんなに気になるんなら、ひとつだけ教えようか?」
負けたと言わんばかりに、ライリが疲れ果てた顔をレフィスに向ける。そっと、他の二人に聞こえないように耳打ちしようと近付いたライリに、レフィスがわくわくしながら耳を傾けたその瞬間。
「まだまだ甘いね」
勝ち誇ったライリの声と共に、レフィスの視界が漆黒に染まった。かと思うと、目を覆った部分を小さな突起がわさわさと動き出す。二度目のその感触に、レフィスが声にならない悲鳴を上げて椅子から転がり落ちた。
「いーやーあぁぁぁぁぁ!」
目に張り付いた黒い物体を引き剥がそうともがくレフィスと、そんな彼女を満足げに見下ろすライリ。床のレフィスを一瞥して、ユリシスが一言だけ静かに呟いた。
「調子に乗りすぎだ、馬鹿」
それから暫くの間、レフィスの目元はなぜか赤く腫れ上がっていたと言う。
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