分かれゆく道-5

「……あれ……居ないなぁ。本当に」

 庭森で、ゲオルグは迷子になっていた。

 迷子というか、アーシュラとはぐれてしまっていた。

「どうしようかなぁ……」

 さらに正確には、はぐれたわけではないのだ。

 庭で鳥の巣を見つけたアーシュラは、弟から望遠鏡を借りてくるから待っていろと言い残して、エリンを伴い城へ戻った。

 それがたぶん、小一時間ほど前の話。そして、戻ってこない。

 少年は我慢ができる限り、餌を求める雛鳥のあまり愛らしくはない声を聞きながら、巣のある木のふもとで二人を待っていたのだが――やがて、しびれを切らしたのか歩き出した。

 敷地は広いが、どこにいても大体は城が目に入るので、遭難するということはない。アーシュラが去っていった方向に足を進めて、しばらく行ったところで、呆気無く待ち人は見つかった。

「あ……」

 木漏れ日の落ちる柔らかい芝生の上で、従者の膝を枕に、皇女は眠っていた。

 予想外すぎる光景に、言葉を失ったゲオルグに気付いたエリンが顔を上げる。

「申し訳ありません、暫くしたらお起こししようと思っていたのですが……」

 身動きの取れない体勢のまま、こちらを見てエリンが言った。少しも申し訳なさそうな顔じゃないけれど、この際それはどうでもいい。

「……殿下、どうしちゃったの?」

 アーシュラはぐったりと動かない。閉じられた瞼に、青白い頬。まるで、はじめから動くことなど無い人形がそこにいるかのようだ。あらためて見ると、少し心配になった。

「休憩すると仰って、そのまま……」

「具合悪くなったとか?」

「いいえ、体調は良いはずです」

「寝不足?」

「昨晩はきちんと睡眠をとられています。少し、はしゃいでお疲れになっただけでしょう」

「そっか……」

 ならいいけど、と、言いながらゲオルグも傍らに腰を下ろす。

「君は、本当に殿下のことに詳しいんだね、エリン」

 彼とはじめてまともな会話を交わしている、ということに、気付かず続ける。エリンも、二人きりでこうして話しかけられて、無視するわけにもいかない。

「……殿下の剣ですから」

 ポツリと言ったエリンの言葉に、ゲオルグは大げさに反応する。

「そう、それ!」

「は?」

「リゼットにも教えてもらったんだけど、イマイチ分からないんだよね。君と、殿下の関係性っていうか……」

「関係……?」

「彼女が言うには、剣っていうのはただの使用人とは違うって。それって、雇われて仕えているのとは違うっていうことだよね。見返りが無いってこと?」 

 ゲオルグの言葉は、エリンには理解の出来ないものだった。

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