分かれゆく道-2

「この間、初めてエリンとまともに話をしたよ」

 翌週、顔を合わせて開口一番、嬉しそうに言ったゲオルグに、リゼットはすました顔が崩れるほど驚いた。彼が話題にしたのは、この間城を訪れた時に唐突にエリンを混ぜて開かれた、茶会のことのようだ。

「エリン様と!?」

「様? ……彼は、君らよりも偉いの?」

「偉い、というか……エリン様は殿下の剣でいらっしゃいますから……私達とは違います」

「ふぅん……」

 ゲオルグは分かったような、分からないような顔で曖昧な相槌をうつ。いつもならばそのまま余計なお喋りはしないリゼットであったが、今日は違った。

「それで、何をお話されたのですか?」

「興味あるんだ」

「そ、れは……」

 リゼットは口ごもり、困ったように俯いたが、やはり、興味はあるらしく、すぐに思い直したように顔を上げる。

「エリン様とは、私もあまりお話したことはありませんから……」

「へぇ……殿下とは普通に話していたけどなぁ」

「それはそうです。お二人は、ずっと、お小さい頃から一緒にでいらっしゃいますから……」

「小さいころって?」

「エリン様が三歳の時に、剣として城に入られたと伺っています」

「さ……本当に? 何か、すごい話だねぇ」

「そうです。あの方は、殿下の守護者であり、一番の理解者でいらっしゃいます。私は、お二人は本当に素晴らしいと……」

 きりりと太い眉を寄せ、真面目な顔で力説するリゼットの顔を、ゲオルグは面白そうに眺めて言った。

「君、殿下のことが好きなんだねぇ」

「えっ……」

「彼女の話をする時は、普段より随分可愛い顔をしてるから」

「へ?」 

「リゼット、折角きれいなんだから、いつもそういう風な顔をしてる方がいいと思うな」

「え……な……」

 ゲオルグが何気なく口にした一言に、少女は凍りつき、それから、徐々にその丸い頬を紅潮させていった。


 リゼット・パーカーは、まだ若いが、れっきとした皇女専属の使用人である。はじめはアーシュラの遊び相手として城に上がり、その後は彼女付きのメイドとしてアヴァロンに仕えている。どの使用人に対しても優しいアーシュラであったが、彼女のことは特別で、まるで妹のように可愛がっていた。

 そして、リゼットはアーシュラに心酔していた。半ば信仰といっても良いくらいの忠誠心だ。しかし、それは、ただ皇女が敬愛すべき主人である、ということだけが理由ではない。

 彼女にとって、アーシュラは命の恩人なのだ。

 

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