剣のつとめ-1

 五年の月日が流れた。八歳になったエリンは、城で暮らし始めた頃に比べると、見違えるほどに大人っぽい少年になっていた。

 彼の教育係となったツヴァイは、穏やかな男だが決してエリンを子供扱いせず、礼儀、教養、そして戦士である剣としての訓練を、とめどなく詰め込むように与え続けた。

 ツヴァイは同じ事を決して二度教えない。そして覚えが悪いと、容赦なく罰を与えた。行儀や勉強ならばともかく、教わる内容の半分は、剣としての務めに必要な戦闘や主人の身を守るための行動についての実際的な内容だ。訓練といえど危険の連続で、ちょっとした失敗が命に関わる危険に繋がりかねない。

 けれど、師は教え子の出来が悪ければ、死なせてしまっても一向に構わないとすら思っているようであり――エリンは何度か恐ろしい目に遭わされるうちに、そのことを骨身にしみて理解した。一度など、城の一番高い場所で、外壁の縁を端から端まで歩かされて、危うく落ちてしまいそうになったこともある。

 誰も助けてくれはしない。エリンの前では、師は皇帝の代理である。アーシュラも、ツヴァイのすることに口を挟むことは許されていなかった。だから、エリンには彼に従い、教えられることをどうにか身につける以外、道は無かった。

 あらゆることを必死に己のものにしようとするうち、自分が子供であるという自覚は消えてゆき――結果、彼は子供の姿をして、大人の表情で、周囲に油断のない眼差しを向ける少年に育った。嫌に落ち着いた言葉遣いを覚え、高貴な主の従者として相応しい振る舞いも、その時点ですでに、申し分なく身につけていたのだった。

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