第18話 家庭文芸部
「さて、どこまでこの部活のことを教えた?」
「大体、大雑把には教えたかな。」
「ふむ、ならより細かく話すとしよう。この家庭文芸部は主に文芸活動をメインにし、月に一度家庭科部っぽいことをしている。去年を例に出すと、文芸活動は読書や自ら物語を書いたりする。一応、できた作品は文化祭で部誌として配布したりもする。家庭科の方はお菓子を作ったりしたな。ほかの部活より比較的自由度が高くてやれることも多い。もちろん兼部も可能だ。なにか質問はあるかな?ちなみに活動日は平日の学校がある日だ。」
「あの……、わたし身体が弱いんですけどなにか大変なこととかしたりしますか?」
「大変なことか……、特にないな。どの部活よりは緩いんじゃないか?迷っているならとりあえず入ってみることをオススメするぞ。合わなくてすぐ辞めても別にオッケーだからな。」
「どうする?雪乃。」
「じゃあ、とりあえずでよろしくお願いします。」
「よし!ならばこの書類に学年クラス出席番号と名前を書いてくれ。提出はこちら側でやっておく。」
待ってましたと言わんばかりの速さで、書類を出し雪乃にペンを握らせた。
「では自己紹介しよう。俺はここの部長、藤原 文成だ。趣味は読書と小説を書くこと。この部活に入ってからは料理も始めた。君は?」
「三好 雪乃です。趣味は同じく読書と料理です。あ、これ書けました。」
「雪乃くんだね。この部活では名前で呼び合うことになっている。不快に思うことがあれば言って欲しい。玲と美咲のことはもう知っているか?」
「同じクラスなので少しは……。」
「ならば、それはそちらに任せよう。俺は飲み物でも淹れてこよう。」
文成は部屋の奥へと飲み物を淹れにいった。
「改めて、中川 怜だ。趣味は特にないかな、美咲とは幼馴染みだ。一つ下に妹がいるんだがそのうちこの部活に入ってくると思うからその時に紹介するよ。」
「はい、じゃあ私の番だね。改めて川上 美咲です。好きなことは楽しいこと。けど、しんどいのとかは嫌いかな。以上!」
「そう言えば、美咲と三好いつの間に名前で呼び合うようになってたんだ?」
「はい怜、減点。雪乃はもう同じ部員なんだから名前で呼ばなきゃでしょ。」
「以後気をつけるよ。」
「雪乃とはさっき図書室に行った時に名前で呼び合うことにしたの。友達同士なのにいつまでも苗字呼びじゃ寂しいし。」
「はぁ……、雪乃…も嫌だったらはっきり言えばいいからな。こいつの悪い癖だし。」
「あっれぇ〜、雪乃の名前呼ぶ時なんか照れてな〜い?」
「そんなことは無い。女子を名前呼びするのは慣れねーの!」
「でも、卒業した先輩の時は大丈夫だったじゃーん。」
「先輩は最後に先輩って付けるだろ。同級生はそういうのないから。はい、もうこの話終わり。」
「なんだもう終わってしまうのか?」
奥から紅茶を淹れて持ってきた文成が美咲に援護する形で話に入ってきた。
「紅茶は飲めるか?」
「はい、一応飲めます。」
「文成先輩が淹れる紅茶は美味しいんだよね。私は普段砂糖入れるけど、先輩が淹れる紅茶は砂糖なくても飲めちゃうの。」
「褒めるなよ後輩。そんなに褒めても紅茶しか出てこないぞ。はっはっはー。」
「ほんとだ、美味しい。」
一口、紅茶を口に含むとベルガモットの香りと舌を僅かに刺激する苦味が口の中に広がる。
「今日はフランス紅茶のパリアールグレイを選んだ。パリの朝をイメージして作られた紅茶で紅茶初心者の人に俺はオススメしている茶葉だ。」
確かに、初心者にオススメするだけあって、紅茶らしい紅茶と言えばいいのだろうか。王道かつ気品のある深い味わい。それでもって、ベルガモットの柑橘類特有の香りが苦味のアクセントになって飲みやすい。
「こうやって美味しい紅茶が飲めるのもこの部活の特権だよな。」
「先生も飲みに来るくらいだからね〜。橘先生そろそろ来るんじゃない?」
「橘先生?」
「あー、言ってなかったっけ。ここの顧問、橘先生なんだよね。もともと小説家志望だったらしくて、この部活の顧問をしてくれてるんだ。」
「橘先生なら今日は来ないと思うぞ?ここに来る前に職員室に行ったが、なんだか忙しそうにしてたしな。」
「まさか文成先輩、寝不足だったのってオールで課題やってたんですか?」
「玲少年、やけに言葉にトゲがあるぞ……。」
「はぁ。図星ですか、あれほど計画的にと言ったのに。どうせ「締切はギリギリまで粘るものだ!」なんて言うんでしょ?」
「ぐっ……。」
「ふふ、玲くんってなんだかお母さんみたいだね。(笑)」
「まぁ、ともあれ雪乃くんが入ってくれたことで部の存続が確実なものとなった。今日はそれを祝おうじゃないか!」
一年生のオリエンテーションが終わったと穂海から連絡が来るまで、雪乃は楽しいひと時を過ごした。
いざ学校が始まると不安はあったが、初日に友達ができ、部活動にも入ることが出来た。
雪乃は、初めての高校生活で良いスタートをきることが出来た。
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