2013年【守田】40 同種もそうでないものも不幸にする最悪な生物。

 いまの守田の瞳ならば、骨の折れる音すらも漫画の文字みたいに視覚できそうだ。


 メキメキメキメキメキ。

 ボキッ。


「ああああああああああああああああがっだたあああああああ」


 悶えながら、田宮が懸命に体をひねる。

 逃げ出そうとしているのだが、抵抗はむなしく終わる。

 単に足がばたつくだけだった。


「おい、勇次。楽しんでるとこに水をさすようで悪いけどよ。UMAころし、だっけか? あの棒なら、もう地面に落下してるぞ」


 記憶違いでなければ、勇次に蹴られた際に転がっていたはずだ。

 うん、間違いない。

 いま田宮は何も武器を持っていない。


「てことは、ようやく本題に入れるってことか。さっきの疾風さんの話なんだが、嘘なんだよな。おい?」


「あ? お前ら馬鹿なのかよ。おれに勝ったら、死んだ奴が生き返るって思ってんの? どんだけおめでたい思考回路してんだよ。川島の死体をいたぶれる立場になっても、おれの下僕たちは死んだままだったんだよ。つまり、わかるだろ?」


「嘘ばっかで飽きてきたぞ。だったら、オレらが納得できる証拠でも見せろよ、おい」


「証拠がないから信じないっていうんなら、真実に近づかないほうが身のためだぞ」


 そのとおりかも知れないと、守田が田宮に言いくるめられそうになった時、勇次は不敵に笑った。

 その笑みの理由が、岩田屋高校セイブツ部の部員にはわかる。


「残念ながら、マウントはとれねぇぞ。こちとら、UMAを追いかけ続けてる部員なんでな。ときには自分に都合のいい情報を信じて、無理矢理にでも理想をつかむってんだ」


 守田が代弁すると、口下手な部長はどこか嬉しそうだった。


「じゃあ、まぁ。信じる信じないかはおいといて、オレの姉貴の話もきかせてくれよ」


 勇次の天然さが、真実を近づかせる予感を守田は持っていた。

 残酷な嘘をつきつけても、希望を見出そうとする男が相手だとわかれば、田宮も真実を話すかもしれない。


「鉄の女、中谷優子か。おれは本当に手を出しちゃいないぜ。楽しむ前に、おれのチンコは使い物にならなくなってたからな。せいぜい、死んだダチたちが生で出してたぐらいじゃねぇのか。そうだな、や~ま~がイッてたのは間違いねぇ」


「せいぜい?」

 勇次がぶち切れた。


「おまえ、その程度っていうのか?」

 守田も怒りを口にした。


 二人の反応は、川島疾風が乗るMR2よりも速かっただろう。

 嘘でもそんなことを口にするな。

 仮に、本当だとしたら。

 これ以上のことは考えられそうにない。

 見下している側と見上げている側には、とてつもない温度差がある。


「ぶっちゃけると、おれは川島疾風よりも、女のほうに会いたかった。いかせまくって、おれなしではいられない体に調教したかった。ビッグマグナムが使えなくなっても、おれのテクならどうとでもなったはずだからな。あの鉄の女を。高校のときから、すかしていた中谷優子を、おれは、おれはっ!」


 同じ人間として、こいつが生まれたことは人類史の汚点だと守田は考えた。

 人間の品格を落とす。

 同種もそうでないものも不幸にする最悪な生物。


 なんなんだ、こいつは。わからない。

 日本語を喋ってはいるが、本当に言葉が通じるのか。

 もし、通じるのならばこの守田裕に教えてくれ。

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