2013年【守田】35 「真実を話せ。でないと、殺されてもおかしくないぞ」

「さぁ、聞かせろよ。疾風の兄貴と優子の姉貴のことで知ってること全部、話せ」


「え?」

 日本語が通じていないような田宮の反応に、勇次は田宮がもたれる木を蹴った。


「で?」


「まず誤解がある。さすがに全知全能のおれでも、全てを知ってる訳じゃねぇからな」


「はっきり喋れ! ミシミシって音に声が負けてるぞ、ボケ!」


「あ? ミシミシってなんだよ?」


 答えは田宮の頭の上で現在進行系だ。

 勇次が蹴った場所から木にヒビが入り、遂には折れてしまった。


「喋らねぇんだったら、お前も折るぞ」


 わかりやすい脅しを受けても、田宮はどこかへらへらしている。


「悲しいねぇ。おれは槻本山の木と同じ程度だと思われてんのか?」


「同じだとは思ってねぇよ」


「だよな。そりゃそうだろう。なんだ、わかってんじゃないか。救いようのない馬鹿って訳じゃないようで安心したぜ」


 不気味だ。

 田宮はまるで、勇次に殺されたがっているような態度だった。


「なにがききたいんだ? 頑張った褒美に教えてやるよ」


 田宮が喋れなくなったら本末転倒なので、蹴りたがりの勇次を守田はおさえつける。


「じゃあ、疾風の兄貴のことをまずは教えろ。いやなら、蹴らせろ」


「教えろ? 偉そうだが、寛大な心で許してやるよ」


「だったら、はやく答えろよ。勇次の力をなめんなよ。おさえつけるのが大変でっ」


「川島疾風は生きてる。いまもピンピンしてる。健康そのものだ」


 思うところが何かあるのか、勇次はおとなしくなる。


「優子の姉貴は?」


「指一本触れてない。つーか、あんな鉄の女をどうこうしようなんて普通の神経だと考えやしない。それこそ、三上和樹ぐらい狂ってねぇとな」


「関係ねぇ話はすんな?」


「あれれ? 声が震えてない? もしかして、お姉ちゃんの元カレのこと知らなかったのかな?」


「お前こそ、三上さんのなにを知ってるってんだよ?」


 守田は三上なにがしという優子の元カレの存在を知らなかった。

 気になるものの、いまは関係のない話は追求しない。

 今度、なにかを知っている勇次からは話してもらうかもしれないが。


「で、二人はいまどこにいるんだ?」


「それは――おれにはわからない」


「おかしいだろ。わかんねーのに、なんでいまみたいなことが言えるんだよ! 二人が無事っていうのもデマカセか?」


 叫び声に力が入りすぎ、勇次の声は裏返った。

 悲痛な叫びだ。

 自分の立場をまだ理解していない田宮は、下品にほくそ笑む。


「なぁ、いいこと教えてやろうか田宮くん?」


「お? なんだ、そろそろおれを解放してくれるのか。そいつは、助かるな」


「真実を話せ。でないと、殺されてもおかしくないぞ」

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