2013年【守田】05 おかしな相手に恋心を抱くのは、やめておけ。
「嘘。そこで終わっちゃうの?」
澄乃の声につられて、テレビの画面に視線を向ける。
スタッフロールが流れている。どうやら、作品の絶妙な引きに、妹は文句があるようだ。
怒りの矛先はクマのヌイグルミに向けられる。
クレーンゲームで手に入れたクマは、澄乃に顔を引っ張られているために、新種の動物に変化する。
勇次ならば、いまのヌイグルミを見て、なんとかというUMAに似ていると、得意げに言いそうだ。
「うううう。続きが気になって、これじゃあ寝れないよ」
「嘘つけ。風呂に入って湯船につかってる段階で、いつも眠りそうなくせして」
「そんなこというんなら、もうお兄ちゃんとは一緒にお風呂入らないよ」
頬を膨らませている澄乃は、今年で十歳になる。
単なる子供だと思っていた妹も、最近では胸が膨らんできている。
勃起しないようにと、ひやひやしながら守田は風呂を共にしている。我ながら変態だと思う。
これでは彼女ができなくても無理はないと、自己分析できる。
「てか、風呂の話はひとまずおいといてだ――どうする? いまから続き借りにいくか? 俺も見たい作品があるしな」
ギターを壁にもたれさせながら、守田は提案した。
すると澄乃は、ニヤっと笑う。
「もしかして、エッチなやつ借りるの?」
「ひょっとしたら、そういう作品かもしれないな。勇次がススメてきた映画だから、内容の想像がつかんし」
「勇次さんのおススメ? なら、きっとエッチなやつじゃないって。しかも、もの凄く面白いに決まってるね」
鼻息を荒くして、澄乃はうなずく。
「相変わらず、澄乃の中で勇次の株は高いよな」
「だって、勇次さんカッコいいじゃん」
「ん? 勇次かっこ笑い?」
「カッコいい!」
「うちの高校の女子は、一部をのぞいて澄乃と正反対の意見を言ってるけどな」
「学校のひとたちは、可哀想。勇次さんのカッコいいところを見たことがないんだね」
アイツのスゲーいい顔を見たことがあるのは、ほとんどいないはずだ。
勇次と腐れ縁の守田だって、たまにしか目にしない表情。
「それに強いし、いざというときはやる男だし。ああ、早く大人になりたい」
小学四年生の保健体育で、どこまで性教育は教わるのだろう。
とにかく、おかしな相手に恋心を抱くのは、やめておけ。
視野狭窄になっている妹に、勇次という男をきちんと教えてやらねばならんだろう。
「まぁ、強いのは確かだな。やる時はやるってのも間違ってない。ただし、正確には、やる時しかやらない男っていうべきだな。基本はグータラだからよ」
言いながら、守田は気づいた。
勇次が必死になって何かをするのは非常に珍しいのだ。
昼間のアイツは、腐れ縁の守田に頼みごとをしてきた。切羽つまっていた。
いまがまさに、イザというときなのだろう。
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