20 第2話10終:DIVE into YOURSELF!!②



〈手応え……有り!!〉


 そして、そのままハークは地に落下した。


 ドゴォン!! ビシビシッ・・・!


 咄嗟に足から着地したのは半ば本能のなせる技だった。あまりにも斬るという一点に集中しすぎていて着地のことが頭から完全に抜けていた。土の地面ならば兎も角、石畳に頭から突っ込んでは死にかねない。

 人の落下音とはとても思えぬ轟音と、同時に砕ける石畳の悲鳴が周囲に鳴り響く。


「いっ……痛ぅう……!? ぬぐうっ…!?」


 じい~~ん、と痺れとも痛みともつかぬ感覚が両足から駆け上ってきた。

 骨にヒビが入ったか、筋肉や腱も痛めたに違いない。すぐには動けなさそうだ。


『ご主人、やったッスか!?』


『わからん。だが、手応えは有った』


 何時の間にか起き上がった虎丸が横にやってきていた。

 目の前には再び土煙が舞い、龍の姿を覆い隠して影だけを映している。


〈…どうだ!?〉


 段々強烈になってきた足の痺れと痛みに耐えながら、影を透かすように見つめていると、その土煙の壁を貫いてきたものがあった。青龍の首だ。


『『!?』』


 確かに手応えは有った。

 龍の下顎からその長い首の半ば、丁度、首の逆鱗にかけてまでザックリと刃が通った亀裂が走っており、その傷は中の肉が見える程に深い。だが、少年の身の丈に達する程の剛刀であっても、全長30メートルを超えるヒュージドラゴンの命を奪うには刃渡りが足りず、喉笛までは達しなかったのか。


 龍の口が開かれ空気が吸われる。ハークの目にもはっきりと、紅き闘気のようなものが逆鱗の辺りに集まっていくのが視えた。


〈いかん―――!?〉


 退避しようにも足が動かない。


『ご主人、あぶな―――』


 『龍魔咆哮』ブレスが来ることを感知した虎丸が、ハークの前に出て庇おうとした瞬間、爆発が起こった。


 グワオオオオオン!!


「おうわ!?」「ウギャッ!?」


 突然巻き起こった爆発。その爆風に一人と一匹は吹っ飛ばされて地面を転がるが、死んだ!?と一瞬思わされておきながら、お互いに怪我らしい怪我は負っていない。現に虎丸はすぐに起き上った。


『大丈夫ッスか、ご主人!?』


『無事だ! 足が痺れて動けぬがな』


 ハークも立ち上がることは出来なくとも、膝立ちの体勢は取ることが出来た。後方にいる幼女達が心配になって振り向くが、彼女たちには爆風がそれ程届かなかったらしく、キョトンとしている。


『何が起こった…!?』


 そう念話し、再び視線を龍に向けると、龍の右顔面と右頸部がそっくり吹き飛び、地面へと横たわっていた。

 よく視ると、まるで内部から爆発飛散したかの様な吹き飛び方だった。


『ご主人…、コイツの、このドラゴンのHPが0になってるッス』


『何、『えいちぴい』? つまりは…どういうことだ?』


『『鑑定』のSKILLで分かるッス。ドラゴンの…えっと、耐久力値がゼロになったってことッス。つまり死んだッス。オイラ達の勝利ッスよ』


『死んだ? しかし、一体何故爆発したんだ?』


『きっと、ご主人の一撃がこのドラゴンの内臓器官に届いていたんッス。ドラゴンの首の中心部にある逆鱗の裏には、吐き出す爆炎を一時的に貯蔵する器官、『龍魔咆哮』ブレス袋があるって聞いたことがあるッス。ご主人の剣は、喉の逆鱗まで達していたように視えたッス。それで『龍魔咆哮』ブレス袋に僅かにでも傷がついて、『龍魔咆哮』ブレスの溜めに入った段階で暴発したんじゃあないか、と思うッス』


『なるほど、最後は自爆だったのか。なんというか……お粗末な最期だったのだな』


 漸く足の痛みが少し引いて来たハークが立ち上がろうとすると、虎丸が寄ってきて肩を差し出した。その肩の鬣を掴みハークは無事立ち上がるが、やはり足から痛みが立ち昇ってきて顔を顰めた。骨は折れてはいないようだが、ヒビくらいは入っていることだろう。

 最近習得したばかりの『回復』ヒールで治療したいところだが、先程の一撃で全ての魔力を使ってしまったらしくフラフラだ。

 少し眩暈もするが、一度経験したせいか、脳みそが回らない程ではない。念話するくらいなら問題無かった。


『だけどおかしいッス。普通、自分の重要器官が傷付いたら絶対気付くッス。そんな状態で『龍魔咆哮』ブレスを放つのが自殺行為だって生まれたての魔獣だって判る筈ッス。ましてや最強主たるドラゴンがそんな単純な自爆なんて……、まるで…まるで…』


 虎丸は思案しながら言葉を紡いでいるようだった。ハークは急かすことなく、その言葉の続きを待つ。


 その時、突如として主従の会話に闖入するものがいた。


『よくやった。小さき者共よ』


 まるで脳内に直接、雷鳴のように響くこの感覚は『念話』とは別物だった。だが、この感覚には覚えがある。

 前世での今わの際に阿修羅の声を聞いた時と全く同じ感覚だった。ただ、その声は落ち着いた老人のようであり、少年とも女性とも思える阿修羅の澄んだ声音とは明らかに別物であった。


 殆ど同時に、ハークと虎丸は顔面を半分失った龍の顔の方を向いた。声の発生源はそこからであると思えたからだった。

 そして即座に戦闘態勢を取る。


『心配する必要は無い。もはやワシは動くことなど出来ぬよ。これは最強種たるドラゴン故の魂の残滓に過ぎぬ。それより、まずは名乗らせて貰おう。我が名はエルザルド=リーグニット=シュテンドルフ。龍種の頂点たる1体……だったものだ。死んでから、名乗るというのも奇妙な感覚よのう』


 名乗りと共にそう伝えられ、僅かに毒気が抜かれるかのようであったが、今の今まで戦っていた相手の言葉を鵜呑みにすることなど出来ない。ハークも虎丸も戦闘態勢を解くことは無いまま、念話で名乗りを返す。


『ハーキュリース=ヴァン=アルトリーリア=クルーガー。長いのでハークと呼んでくれ。そしてこちらが…』


『虎丸、だ』


 ハークが己の名を頭の中で一つ一つ確認しながら名乗りを上げたのに対して、虎丸は短く言い放つ。


『己が殺した相手から名を名乗られるのは儂も初めての経験だよ。とどめを刺した方がよいのか?』


 ハークはこのドラゴンが死にきれずに苦しみ、介錯を欲していると解釈した。なかなか死ねぬ致命傷ほど酷なものも無い。

 前世でも、致命傷を与えた相手から介錯を頼まれたことは何度もある。その際に道連れを狙われて、最後っ屁の攻撃を仕掛けられたことも2度ほどあったが。


『カカカ……、それも必要ないな。今のワシの躰は完全に生命活動を停止しておる。痛みや呼吸の出来ぬ苦しみを感じているワケでもない。既に死んでおるのだからな』


『霊魂…という訳か?』


『そうとってもらっても構わんよ。今のワシはこの身体の指一本すら動かすことの叶わぬ、ただ言葉を伝えるだけの存在に過ぎん。この身に蓄えた魔力を使ってな』


『なんと、まあ…、流石は最強種といったところか。ステータスが上がればそんなことも出来るのだな…。参考までに聞かせて貰えたら有り難いのだが、エルザルド殿のレベルは幾つ位なのだね?』


『確か…100じゃったかな』


『100だと!?』『100!?』


 勿体ぶるでもなく伝えられたその数字に、主従揃って驚愕を表す。


『カッカッカッ、まあ、死んだ後でこれだけ意識を保っていられるのはドラゴン族の中でもそれ程はおらぬよ。それはともかく、よくぞワシを止めてくれたわ。このまま被害が拡大していけば、人族と龍族の戦争すら起こりかねんかったからの……。礼を言わせてくれ』


 ハークはドラゴンの言葉にぴくりと片眉を上げた。

 そして、警戒を僅かに解く。それは油断というよりも、礼儀のようなものだった。


『その言い様。やはりお主、最後の『ブレス』とやらは……わかっていてやったのだな』


 断定的なハークの言葉に虎丸はえッ!? 、と言わんばかりの顔になり、少年を見る。


『何を驚いておる。お前の言った通りだったのだよ、虎丸。こやつは判っててやったのだ。そして、エルザルド殿。その前に撃った、儂らと遭遇してから2発目に撃ったあの『ブレス』。あそこで魔力をほぼ使い切ったのも、ワザとだな?』


『えッ!? じゃあ、ご主人、それじゃあ……!?』


『そういうことだ。こやつは我らに倒されるが為にあんな不可解な行動をしたのだよ。だが、判らぬこともある。一度目の『ブレス』も含め、それ以外の攻撃は完全に我らを殺す気の、手加減の無いものだった。その辺のことを教えてくれるかね?』


 ジロリ、とドラゴンの死骸を見てハークは言った。動かぬ、どころかもし動いても龍の表情など読める筈も無いことは百も承知で、嘘や誤魔化しを一切見逃さぬ為だった。それは決して、虎丸をまかり間違っていたら失っていたかも、という感情だけではない、筈だった。


『勿論だとも。強き意思を持つものよ』


 強き者、とは言わぬのだな、とハークは思ったが、口を挟むことは無かった。


『誓って言うがワシがこの街に侵攻してきてしまったのは、ワシ自身の意思では決してない。何と言うかな……、数日前から闇魔法に身体が支配されたかの如く、意識が怒りに急きたてられているかのようになってしまってな……。まるで操られるようにこの地に来てしまったのだよ』


『誤魔化す気ならもっと気の利いたことを言うのだな、ドラゴン。生まれたてならいざ知らず、最強種たるドラゴン、しかもレベル100の存在に呪を掛けたり、ましてや怒りの精霊に支配させるなど絶対に不可能だ。数百年前に大陸の北に神々によって封印されたという魔族でもそんな芸当は出来る筈が無い』


 念話でそう言い放ったのは虎丸だ。

 虎丸はこれまでもそうだったのだが、基本的にハークと話すとき以外は何時もの言い回しではなく、やや不遜とも思える言葉使いで話す。

 考えてみれば虎丸はこの世界で相当な手練れの筈であるのだから、不遜というよりも堂々たる強者らしい言葉使いと言えるやもしれぬ。が、普段の下っ端口調に慣れているハークからすると違和感が凄かった。


 そして、今また一つ、ハークの知らない新しい単語が出た。

 『魔族』、とやらも魑魅魍魎の類なのだろうか、と考える。


『確かに不可能だ。ワシもそう思っていた。が、それが可能だったのだよ、強き魔獣よ。恐らくは何か強力な『聖遺物』レリックを、失う覚悟で使用したのだろうが、そのような技術や魔法などワシも聞いたことは無い。新たに開発した技術であろうな。ともかくそれで、ワシは正気を失った』


『恐らく、というと、お主も何があったのかわからぬ、というのか』


『うむ、本当に申し訳ないが、正気を失う前の記憶がポッカリと抜けておる。これも術の効果なのだろう。ワシにとっても推測するしかない』


『気を悪くしないでもらいたいのだが、寿命で死にかけた末の乱心、という線はないのか? ワシはそんな輩を何度か見たこともある』


 ハークが語ったのは、勿論、前世での話である。


『カッカッカ…、そのようなことになるのは矮小なる存在ぐらいのものであろう』


 矮小と言われハークは少しムッとしたが、その言葉に邪気を感じない。『ステータス』のあるこの世界では、人間でもそういう事態になることは皆無なのかもしれない。


『ご主人、ドラゴン種には寿命が無いッス。それに精神値も無茶苦茶高いッス。なので、そんなことになるのは有り得ないッス』


『うむ、それで推測の続きなのだがな、ワシの正気を失わせた者共は、どうもこの街の中心に今でもある、戦神の残した大剣を狙わせたかったようだ。それが戦神の大剣自体の破壊か、この街の破壊か、それともその両方が狙いなのかは判らぬがな』


 確かにその通りである。あの巨大剣に辿り着く前に、この馬鹿デカいドラゴンが暴れ回りながら侵攻していけば、その侵攻路での被害は目を覆うばかりであろう。

 さらに、古都の中心でも巨大剣が破壊されるまでも暴れるであろうし、あの超質量体である巨大剣が倒れれば、正に街の被害は修復不可能な大惨事となるところであった。


『ここからは推測ではなく、実際にワシが体験したことだが、この街に一歩足を踏み入れた瞬間、ワシの躰に巣食っていた黒い靄のようなものが少しだけ霧散してな。こうして意識を取り戻すことが出来た。だが、躰の制御までは取り戻せず、お主たちに襲い掛かってしまったというワケだ』


『街に侵入してしばらくした後、急に動きが止まったのはそのせいか?』


『その通りだ。あの時ワシは躰の制御を取り戻そうと躍起になっておったんだが、取り戻せたのは『龍魔咆哮』ブレスを司る僅かな器官だけだった。そこで龍魔法、『可能性感知』ポテンシャル・センシングによってワシを止め得る能力を持つ存在を発見したのだ。それがお主たちよ』


『ぽて…ん、猿……? ええい、なんだそれは?』


『龍魔法? もしかして、歳経た龍種だけが使える『龍言語魔法』か!?』


『ほう、そっちの強き魔獣は知っていたか。如何にもその『龍言語魔法』よ。そして『可能性感知』ポテンシャル・センシングとは、術者が望む未来・結果に至るのに必要な行動と計画を感知させてくれる魔法だ。有り体に言うならば未来を予測する魔法だな』


 ハークは顔を顰めた。高い『ステータス』と『レベル』の上に、未来まで予測されてしまっては万に一つの勝ち目も無い。最強種の最強種たる所以を聞かされた気がした。


『極一部の龍が、未来を予期するかの如く行動するということを聞いたことがある。あれは『龍言語魔法』のお蔭だったのか』


 この言葉は虎丸だった。彼も意外感を滲ませた口調で聞いている。


『うむ、だがそれであっても絶対に成功するわけではない。その結果に至る経緯が多少判然とするくらいで、成功率が僅かに上がる程度と思ってくれていい。だから、お主たちには本当に感謝しておるよ。もはやワシに授けられるものと言えば知識ぐらいしかないが、それでも良ければ受け取って欲しいと思っておる。何しろ周辺には可能性がある者どころかワシの躰に傷をつけられる可能性があるものすら、お主ら、いや、お主以外にいなかったのだからな』


『儂か?』


 虎丸の方が強い筈であるが、確かに斬ったのは自分である。そう考えてハークは応えた。


『うむ。見事な意志の力であった。だが見たところこの世界の知識と法則に戸惑っているのではないのかね? ……異世界からの放浪者よ』


『何故そのことをしっ――――――、!?』


 全くの無警戒だったところに、思わぬ言葉を浴びせられて珍しく狼狽したハークは無様にも失言してしまった。この念話は虎丸にも届いている筈なのだ。

 ハークは恐る恐る虎丸の方を見た。

 だが、虎丸はこちらに懐疑の視線や言葉を浴びせかける事無く、目を顔ごと逸らして肩を落とし背を丸めていた。

 どこかで見たような光景に、ハークの心が疑問で染まる。責められるべきは自分である筈なのに、虎丸の態度は逆に自分の秘密が知られたくない相手にバレた時そのものだった。


『む? なんだ? お主らの間で知られてはいかんことであったか? だが、そこの白き魔獣は精霊種であろう? ならばとっくに知っておる筈だぞ?』


『何だと!?』


 その言葉に再びハークはエルザルドへ視線を向ける。


『ワシもそうだがな、ある程度の格を備えた魔獣や魔物は、そのもの本質、魂そのものを見透かすことが出来るのだよ。強き意思を持つ者よ。お主は世界を渡ってからまだ日が浅いであろう? 魂がまだそのエルフの幼体に馴染んでおらぬのだ。故にワシと、そちらの白き魔獣には、お主の姿がダブって視えるのだよ』


 ハークにとっては驚愕に足る事実であった。様々な疑問がぐわんぐわんと頭の中を駆け巡ったが、その全てを無視して虎丸に念話で語りかける。


『虎丸……。知っておったのか……』


 虎丸はすぐには応えず、代わりにかくん、と首を縦に振った。もはや観念したとばかりの動きであった。そして漸く応えた。


『ごめんなさいッス……』


『謝る必要などない。むしろ、謝らねばならぬのは儂の方だ。今更だがな。しかし何故だ…? ならば何故、儂を守ってくれた? 何故儂について来てくれた? 儂はお主の仕えていた主人ではないのだぞ?』


『そんなコトないッス。オイラはそんなにココロってやつに詳しくはないッスけど、確かに、ご主人が崖から落ちる前と後とじゃココロが変わっていたのは気づいてたッス。でも、それでも、ご主人の身体は、オイラのご主人のままッス! 半分は一緒なんッス! 今までのご主人がオイラに残してくれたものと、変わりはないッス!』


『お主……』


 知らずにハークは虎丸の方へ一歩踏み出していた。

 その行動に虎丸はびくり、となる。先程の既視感の正体がわかった。

 この格好に憶えがあったのだ。肩を落とし、背中を丸め、尻尾を丸めて股の間に隠し、目線を逸らしながらもちらちらとこちらの様子を垣間見る。

 初めて会った時の恰好にそっくりだった。


『それにご主人、強くなってくれたッス。生きる、生きなきゃいけないっていう目標を持ってくれたッス! だから……だから今度こそは一緒に、最後まで生きられると思ったッス! それに、ご主人はあまりココロが変わったのをオイラにも知られたくないみたいだったッス。オイラが知ったのが判っちゃったら、もしかすると、捨てられるかも、って思ったッス……』


 その言葉にハークは虎丸のいじらしさを感じた。同時に、頭が良く、理解力もある虎丸が、自分の主人が多くの知識を無くした上、言動も変化したという異常事態に、高所から落ちて頭を打ったせいだと勝手に結論付けて、これまで追及してこなかった理由を知った。


 虎丸は最初から全てに気付いていたのである。気付いていた上で、知らぬふりをしていたのである。主が己の元から去らぬように。気付いていたということを逆に知られてしまった時、己の生きる目的、夢が失われることに恐怖しながら。


 その恐怖は如何ほどだったのか。今の怯えた様子を見れば一目瞭然であった。何と脚さえ小刻みに震えている。それ程の想い、それ程の忠義だったのだ。


 なんと良い奴なのか、とハークは思う。


 一歩また一歩と怖がらせぬよう近付き、ハークは左手で虎丸の頭をさわりと撫でた。


『虎丸よ。お主は普段は賢いくせに、そういうところではバカなのだなあ。先程も言ったであろう、儂は死する時までお主と一緒にいる、と。あれは嘘だと思ったのかね?』


 その言葉に、ふいっと虎丸は顔を上げ、ハークを正面から見つめた。


『改めて言おう。儂は剣の頂点、つるぎの極みを目指す。それまで、いや、お主が望んでくれるならば、その後も共に生きようと宣言する! 良いな、虎丸!』


 泣きそうな眼をしながらも、虎丸は笑みを浮かべた。

 その笑顔がまるで大輪の花が咲いたかのように、ハークの瞳には映った。



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