臨時パーティー、訓練開始(1)

少しして、準備が完了したらしく全員集合場所にちゃんと集合していた。

「では、それぞれの訓練のために、今回お供の魔物は無しだ。全員周囲警戒で楽しい楽しいピクニックだが、俺が前方左右を視認で警戒、ノエルは耳で周囲の警戒、後衛2人は後方と上空の警戒だが、役割分担は任せる。質問が有れば今のうちにしろ。警戒しながら歩いてる時に会話なんてする気は無い。ちなみに、見つけた対象が、魔物だろうが動物だろうが全力で狩る。動く相手は全部獲物と思え」

「が、頑張りますっ!」

「了解よ」

「は、はい」

こうして、俺にとってはかなり久しぶりのパーティー行動だが、まぁ、この階層なら異常がなければ問題ない。魔物を連れていかなくてもソロで狩れるからな。まぁ、いきなりこの階層にソロで向かう馬鹿は居ないだろうが、基本的に魔物や動物の生態を知り、縄張りを把握すればある程度は安全に行軍出来る。ただ、ダンジョンで魔物やら動物の生態を研究する物好きなんて基本居ないけどな。

それに、今回はダンジョン攻略ではなく、あくまで訓練だ。ならば、危険地帯に踏み込まなくて良いし、ダンジョンに深く潜る必要性もない。まぁ、今から向かってる場所はある動物の縄張りだが戦闘訓練相手にはもってこいだし、魔物が居れば御の字だ。

「お姉ちゃん」

「ん……上空に鳥かしら?小鳥のようだけど、見えるのは一羽だけね」

「……全員木陰に移動。そしたら動くなよ?死にたくなければな」

「え?でも小鳥……」

「今、俺達が居る場所と木の高さを考えろ。木より高い位置に居て、見える大きさが小鳥なら小鳥なわけないだろ。ヤツめ、縄張りの範囲を広げて来やがったか?それとも雛が巣だって新たな縄張り作りか?」

他の連中は俺が言った通り、木の幹により木陰に入り、俺は単眼鏡を取り出して、知ってる個体かどうかを見るが……どうやら魔物化した個体のようだ。全く幸先が良いな。最初の相手はあれにしよう。ちょうど、餌を探して旋回してるようだしな。

「レナ、魔法か矢はアイツに届く距離か?届かないなら威嚇で良い。合図を言ったら撃て。アンは急降下してくるアイツに合わせて矢か魔法を撃て。合図は待たなくて良い。準備が出来て当てれそうならやれ。俺が最初に囮をやるから、ノエルはアイツが急降下して俺と対峙した時に背後から攻撃して俺の方に来るか、後方に下がれ。ノエルの攻撃が命中しようが外れようが得意な方でレナとアンがアイツに攻撃。それでダメなら俺がやる。質問は?」

「……本当に冒険者?」

「冒険者だが?ついでに戦闘以外の質問は、もう受け付けないからな?」

「……了解。ただ、魔法も矢も届くか分からないから威嚇になると思う」

「それで十分。他に質問がないなら全員散開して準備しろ。レナは合図を言ったらと言ったが、準備が出来次第に撃て(アイツがここから離れて行きそうな軌道に変わったからな)」

「了解!……行くわよ!」

そう言って、レナは弓の弦に矢を番(つが)い、アイツに向けて矢を放つ。しかし、矢は魔物の鳥に当たるどころか通り抜けもせず、手前で失速してどこかに落ちていく。

……だが、あの野郎、矢には気づいたはずだが、無視して飛んで行きやがった!

「逃がすかっ!!バカ鳥が!」

仕方なく魔銃を取り出して、あのバカ鳥こと鳥の魔獣に向け、ロックブラスト(大量の石礫(いしつぶて))を連続で2発ぶっ放す。

「ガァッ!?……クワァァァァアッ!!」

2発連続で発射した事により発生した跳弾で幾つか石礫が当たったようだ。クソ鳥は怒りに任せてこっちに急降下で向かって来た。

「食糧になるか消し炭になるかだけは選ばせてやるよ!」

魔銃を持ち替え、今度は威力の弱っているフレイムブラストを拡散で一発、こっちに向かって来るクソ鳥に向けて撃つ。これで、完全に俺に狙いを定めただろう。地上まで10数ミル(この世界でのメートルです)、急降下中に軌道変更を上手く出来ず、まともにフレイムブラストを浴び、一瞬、怯んでその場に踏みとどまろうとしたのが運の尽き、アンの矢がクソ鳥の横っ腹に当たり、レナの矢もクソ鳥の片目を潰した。そして、ノエルが器用に木の上まで登ってたようで、まさかのクソ鳥の背中に乗って肩甲骨にそれぞれ双剣を突き刺し、羽を上手く動かせずに落下し始めたクソ鳥の背中を蹴って、後方に飛び引く。

まぁ、ここまでやられたら、流石のクソ鳥もブチ切れる。魔獣らしく魔力をため始めたが、魔獣に成ったばかりの雑魚にやられる俺じゃない。素早く落下予測地点まで移動し、クソ鳥の口に剣を突き刺し、素早く別の剣を抜いて、クソ鳥の脳天に突き刺して命を奪う。

「始めてのパーティー戦闘としては、まずまずだな。素早く解体を始めるぞ」

剣を抜いてクソ鳥の首を跳ね、足にロープをかけてノエルに渡し、ノエルは直ぐにこちらの意図を理解して、近くの木の枝にロープを引っ掛けて、クソ鳥を宙吊りにしてくれた。やはり慣れてるな。

「まぁ、普通の鳥と解体方法は同じだ。ただ、魔物化してるから心臓付近に……有った。これが魔石だが、魔物に成り立てだったのもあり、魔法攻撃がなかったわけだが……こいつは魔物化してなくても凶暴で、この階層の空の覇者だ。まぁ、地上には地上で厄介なのも多いが、空はこいつにだけ注意すれば問題ない」

「素材としては、羽に嘴、爪って所かしら?肉は食べれるの?」

「あぁ、割りと味は上手い方だ。まぁ、魔物化していても食える方だから安心しろ。食えないのは、この階層にはほぼ居ない」

「持ってきた食糧の意味あるの?」

「……この階層で、俺に向かって来る生き物が、魔物か凶暴な階層上位生物しか居ねぇんだよ。大抵の雑魚生物は、危険を察知して逃げやがる」

「それは……そんなに殺気出してたらね」

「無駄な体力は使いたくない主義でね。ダンジョン内では基本的に殺気を出しっぱにしてる。まぁ、ソロで活動するうえでの知恵だ。おかけで、下の階層ではたまにパーティーに攻撃されそうになるが、まぁ、問題ない」

「中層から下層でのソロ活動って、意外と大変なのね」

「慣れれば楽さ。強い奴か力を過信した奴しか来ないからな」

「ふぅん、なるほどね」

「で、解体は終わったが、こいつから得た素材欲しい奴居るか?居なきゃノエルに渡して、帰還した時にまとめて換金して分配するが?」

「……羽は欲しいけど、爪や嘴ってどの階層まで通じるの?」

「……素材を加工せずにそのままなら、10階下の層の雑魚までは通じる」

「……え?じゅ、10階下っ!?」

「何を驚いてる?拠点があるのは脅威と感じるのが無いからだ。だから、普段の俺の狩り場はこの階層より下なのは当然だろ?」

「……はぁ。あなた普段はどこまで潜るの?」

「?行ける所までだな。基本的に荷物が一杯になったり、食糧が尽きそうになったら帰ってる」

「上位冒険者って、皆あなたみたいな考え方なの?」

「……まぁ、基本的にはそうだな。この階層より下に行く為の鎖は軍が昔設置だけしたのと、到達した冒険者が続きの階層から始める為だけに設置した鎖しか無いしな。確か一番下に探索に出てるまともな冒険者パーティーは……今は2つ位か。転移ポータル料金払ってまでご苦労なこった」

「え?2パーティーしか居ないの?」

「まともなのはな。力を過信したバカは、最下層行きの鎖で下に降りたきり、戻ってきたパーティーは居ない。調査した軍もほぼ壊滅したからな。未だにこのダンジョンは生きているのさ。攻略されたという情報は国もギルドも得ていない。だからこそ、世界屈指の最難関ダンジョンの1つなんだろ」

「そのダンジョンでソロ活動してるって……」

「ガリルさんって凄い方なんですね!」

レナは俺の話を聞いて、コイツ本当に人間か?みたいな目を向け、アンはレナの後ろに隠れるし、ノエルはノエルで俺に羨望の眼差しを向けてくる……ちっとばかり話過ぎたな。無駄話は終わりにするか。

「とりあえず、素材はレナにやる。無駄話はこれで終わりだ。休めそうな場所を探しつつ、探索を再開する。編成はさっきと同じだ。質問が無ければ移動を始める」

「はい!」

「分かったわ」

「……はい」

というわけで、変な探りやら無駄話を避けて探索を再開する。まぁ、目的地はほぼ決まっているが、今日は戦闘はもう良いだろう。野営出来そうな場所を探しつつ索敵する。まぁ、野営出来そうな場所を見つけたら言ってくるだろうし、その採点もしないとな。


「暗くなってきたわね」

「……そうだな」

「そうなんですか?……じゃあ、野営場所を探さないとですね!」

「じゃあ頼む」

本来なら、ノエルが言う前に野営に良さそうな場所を俺以外が見つけ、今頃は休憩という計算だったが甘かった。ちなみに、俺は見つけても全部スルーした。訓練にならないからな。

それから、ノエルが幾つか野営出来そうな場所を提案し、俺がそのうちの一つを及第点として現在野営準備完了で食事を取っている。

「さて、今回の野営場所は……まぁ及第点だ。ノエルはサポーター志望なら言われたり提案される前に、索敵しながら野営出来そうな場所を常に探せ。そして、それはレナとアンにも言える。今まではそうでも、サポーターに頼り過ぎるな。荷物を持って着いていくだけでも大変なサポーターも居るんだ。後衛職なら同じ支援のサポーターの面倒もみないといけない場合もある。今回、俺が何も言わなかったのは訓練なのと、言われなくても出来るかどうかの確認だ。まぁ、次に生かせ」

「「……………」」

「なるほどです!」

手早く食事を済ませて、今回の評価を言うが、レナとアンはなんか面食らった様子で呆けているが、ノエルは相変わらず元気に返事をする。元気だな、本当に。

「後、明日の野営では、魔法の使用を一切禁止する。理由は魔力の温存、また魔力が切れになった場合を想定しての訓練だ。ノエルは慣れてるが、明日の火付けはレナとアンに最初は任せるように」

「……一応、里に居たときに、私もアンも同じ理由で火付けをやらされたし、今でもやれるから問題ないわよ?」

「そうか?……んじゃ、それは無しで良いな。じゃあ、今日は俺が朝まで火の番をするから寝て良いぞ。代わりに明日は三人にしてもらうが」

「そう言うなら、甘えさせてもらうけど……何もしないでしょうね?」

「安心しろ。そこら辺はギルド長に念を押されてるし、自分の命を天秤に襲うほどバカじゃない」

「そ、そう。それじゃあ、休ませてもらうわね」

全く、一部では紳士で通っているんだ。そんな事したら依頼書に有った通り、間違いなく俺の首が飛ぶ……文字通りにな。

そして、女性3人は軽く談笑してからテントに入って眠りについたようだ。まぁ、反対に俺は言った通り火の番をしながら周囲の警戒をする。まぁ、一応は木の上だから、敵襲に関してはあまり問題無いだろう。火が木に燃え移らないように、常に注意しないといけない点を除いて。

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