これ、防衛戦?
さて、中々先に進まないのはいつもの事とご容赦頂き、まずブラン達が何故二人なのかというと、このクエスト程度に五人フルメンバーは必要無いと判断した為らしい。 恐らくこの後追加の参加者は見込めそうにない、という事はつまり、今の戦力で作戦を練る他ないのだ。
そして、当然指揮を取るのは我らがリーダーノエル……ではなくミシャだった。
「このサザンピークは三角形の塀に囲まれて出来ているから、正面、右側面、左側面の三部隊に分かれて守ることになるわね。 モンスター大量発生の原因を突き止めないと終わらないけれど、まず今日はどんなものか守りに徹してみようと思うの」
「ならば、考えるのは部隊編成だけだな」
即座に意図を理解したのは我らがリーダー……ではなくブラン。
「何しろ考えるほど駒はないから単純だけどね。 正面は私、右側面にブラン、左側面にヴァン。 疲弊した兵達はなるべく休ませて少数で守りきる」
「そうか、まあそうなるわな」
と、ここでやっと口を開いたのが我らがリーダーなのだが……
――――何が『そうなるわな』だボケ、お前駒に入ってないやんけ。
「……その少女は当然だが、彼も待機するのか。 討ち漏らしたモンスターを中で殲滅する保険……ということか?」
いやいやブランさん、寧ろ
「違うわよ? ノエルには他の仕事があるの。 私達三人なら討ち漏らしなんてないでしょ?」
中は心配してないと言うミシャは、一体この
「そうか。 ではあと一つ、お前を疑う訳ではないが、前線から離れ今はシルバークラスなのだろう。 一人で大丈夫なのか?」
こんな台詞が言えるのも、元々パーティを組んでいたブランだからこそなのだろう。 ノエルならばミシャの身よりも気になるのはその他の被害だ。
「へぇ、心配してくれるの?」
「……私は、 “あれから” も最前線でやってきた。 昔のようにお前や………いや、もういい」
途中で言葉を止め、背を向けたブランは持ち場へと歩いて行く。 それに続いてヴァンも向かうが、
「くまキチー! がんばれー!」
「くまキチじゃねぇッ!」
無邪気な妖精の声援に突っ込むくまキチ。
彼は早くも “
「なあ、あいつら仲間同士でも素っ気ねぇな。 戦いに行くのに言葉も交わさねぇ」
仲間と言葉を交わす事#こそ__・__#が戦いの男が首を傾げる。
確かにブランとヴァンに会話は殆ど無い。 怪訝な顔をするノエルに、ミシャは懐かしむような表情で応えた。
「昔から素っ気ないのよ。 それにパーティにもよるけれど、亜人は好きで身を置いている訳じゃないこともあるから」
その強さを買われパーティに “雇われ” ている、傭兵のような亜人も少なくない。 故に仲間意識は低いのかも知れないという事だ。
「……まあ、な。 で、あのブランてのは強えのか?」
「そりゃ強いわよ、私と同じ『サイネリア教団』の出身だから」
「――なぬッ!? おめぇみたいなのを造ったあのスパルタ―――ゔぅッ……ぉ」
久しぶりの一撃が脇腹に食い込む。
「人を悪の組織が造った怪物みたいに言うなッ!」
( ……ぬ、抜かった……! )
悪名もちらほら聞くサイネリア教団、そして
「ノエルへいきー? おなかいたい?」
覗き込んでくるアンジェに答えられない程、
( い、痛い……って、言えないやつ…… )
怪物のミドルキックに悶絶し声が出ない。
「まあ、ブランは優等生ね。 優秀、ではあるけれど……」
( もうええわそれッ! 訊かなきゃ良かったぜ…… )
遠い目をするミシャは、「アンタもちょっとは心配しなさいよね! わ、私は未来の……なんだから……」と頬を染めていたが、
――――乙女モード終わってますから。
これ夫婦だったら完全ドメスティックでっせ? という事をしておいて照れる。 これはツンデレではなくズンオエェェではなかろうか。
かくして、開戦前から一名負傷者は出たが、アレはどうせ戦わないので支障は無いだろう。
こうして初日、サザンピーク防衛戦が始まった――――
―――左側面、ヴァン―――
「――ガアァァアッ!!」
「ひ、ひぃいっ! た、頼りになるけど、こっちまで怖い……!」
まるでモンスター対モンスターの光景は、両手に鋭利な金属の爪をつけたヴァンがモンスター達を引き裂き、千切るように絶命させていく。
( あのハーフのガキ、アイツも人間と組んでやがるのに、何故だ……俺と違う気がする…… )
「――あ?」
集中を欠いた瞬間、モンスターが肩に齧り付いた。
「ふんっ!」
ヴァンはその首を掴み、眉一つ動かさずに握り潰す。
―――くまキチー! がんはれー!―――
「……で、アイツは………―――何なんだぁッ!!」
アンジェはピクシー、妖精です。
―――右側面、ブラン―――
「……た、太刀筋が見えない……」
ヴァンとは対照的に、ブランは無言でモンスターを切り捨てていく。 そのロングソードの刃は特殊な素材なのか、透明で射程が掴み難く、斬られたと気付かせてももらえず命を奪ってしまう。
( のんびりとやっていたお前とは違う。 今の私は――――今も私は最前線に居る……! )
動くモンスターが辺りから消え、ブランは見えない剣を鞘に収めた。
「……この国に来た私を、お前は笑っているのだろう……!」
顔を顰め、冷静な印象のある彼とは思えない激情が身を震わせている。 周りの兵達を震わせる程の、近寄り難い剣鬼の凄みを身に纏って。
―――正面門、破壊神―――
「動けるの二、三人以外は中に入って休みなさい!」
「で、ですがっ、この時間の正面門をその人数では……」
ミシャの指示に無謀だと兵の一人が意見した時、
「
繰り出された雷撃が断末魔の大合唱を開演する。
「す、すごい……でも、こんな魔法何度も打てる筈がない……」
「さあ、こっから素材を厳選するわよっ!」
「素材……? なにを言ってるんだ?」
分かりません、神のみぞ知るというやつです。 破壊神ですが。
「――ふっ」
剣技に入る前の呼吸が聞こえ、短剣の刃が三体のモンスターを仕留めた。
「なっ!? 魔法剣士だったのか!?」
「そこの!」
「は、はいっ!」
「この食材中に運んでっ!」
「食材……って……」
そこには、厳選された三体の
「アンタら、追っ払ってひぃひぃ言ってるだけだからダメなのよ」
低く、冷たい声で、次の獲物を見ながら愉しそうに笑う可愛いヒロイン(諦め)。
「こっちにビビるぐらいやってやんなきゃコイツらいつまでも来るんだからっ!
陽の落ちた大地を聖なる光が照らす。
「――は、はあぁぁ……こんな魔法、見たことがない……」
兵士が呆気に取られるのもその筈、この魔法はかつてアール戦で唱えたアンデッドを一斉浄化する禁忌魔法なのだ。
「……なーにかなこの溢れ出てくる魔力。 ちょっと自分でも限界見えないわね、いっそこの国落としちゃおっか?」
「ええっ!?」
「冗談よ」
―――やめなさい、
「早く持って行きなさいっ! 中で待ってるから!」
「わ、わかりましたっ! ……待ってるって、誰が?」
か弱く、清純可憐にして女神の慈愛を持ち合わせる正統派ヒロインは、次の獲物に殺意の視線を向けながら、
「ウチの――――コックよ」
地を蹴る音と同時にすら感じる獲物の悲鳴。
現役復帰を果たした(派遣のままだが)、サイネリア教団が世に放ってしまった怪物は暴れ回る。
あなた達――――責任取れますか?
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