ワンちゃん、お腹を見せる
その日、いつものようにギルドで変わり種パーティはクエストを物色していた。
「んー、あんま良いクエストねぇなぁ」
顔を顰めるパーティのリーダー、というか表向きソロの冒険者……いや、冒険者すら表向きの家事担当ノエルは、銀髪の一部を血に染めていたが気にする程の事ではない。
「アンジェあったかいトコがいいなー」
「だな、ろくなことがねぇ」
雪山に良い思い出の無い二人は、温暖な地をリクエストする。
「アンタ達ねえ、クエストは遊びじゃないのよ? 寒かろうが暑かろうが戦うのが冒険者なのっ!」
と言う金髪の悪魔がそのクエストを困難にしている気がするのは気のせいではない。
「はいはい、んで何かあったかよ?」
「そうねぇ……―――ッ……」
張り紙を見ていたミシャの表情が変わる。
「どうした? 良いのあったのか?」
その変化に気づいたノエルが尋ねると、ミシャはどこか神妙な面持ちで答える。
「……このクエストにしましょう」
破壊神が次に滅ぼすと決めた地は―――
「――あ? デルドル王国? すげー遠いじゃねーか、それに報酬も良くねぇし……」
「どこー? あったかい?」
「まあ、寒くはねぇだろうが……何でこんなクエスト選ぶんだよ?」
普段のミシャなら選ばないだろうクエスト、ノエルが不満そうにするのも自然な反応だが、
「――うっ」
反論を許さない
「荷物持ちがゴタゴタ言うんじゃないわよ、私が白って言ったら黒でも白、私が英雄にするって言ったら荷物持ちも英雄になるのよ」
この時、ノエルの『破壊神被害者の会』としての経験が警報を鳴らす。 意見=口答え、ノー=死。
「……アンジェ、偶には遠出も楽しいぞ……」
「んー? りょこう?」
「そうだっ、楽しいぞぉ」
「あはっ、いくーっ! りょこー!」
こうして、
そのクエスト内容とは―――
デルドル王国東部にあるサザンピークでモンスターが大量発生! 救援求むっ!
※ 資格、シルバークラス以上、募集人数30名前後
依頼主、デルドル王国
つまり、
『サザンピークを救えっ!』という事だ。
「今回は派遣社員じゃなく、一冒険者として参加する事になるわね」
そう、このクエストはパーティで受けるというよりは個人という事になる。
「ふふ、腕が鳴るわ」
ミシャのアクアマリンの瞳が赤く染まっている。 まるで未来の惨劇を映すかのように。
( 何を張り切ってんだか知らねぇが、サザンピークの形が変わらなきゃいいけどな…… )
嫌な
某妖精の村は観光の命綱である妖精を森ごと消され、村長による悪政で今大改革が起きているという噂がある。
―――頑張れリンダ。
そして一行は、長旅になるクエストの準備を整えに、ノエルに借りさせた一軒家へと帰って行った。
◆
「りょーこうっ、りょーこうっ!」
ご機嫌に飛び跳ねるアンジェ。
だが今回は少々窮屈な思いをさせてしまいそうだ。
「アンジェ、今回は他の冒険者達もいるから、いいって言うまで妖精化してろよ」
「えーっ! やだっ、つまんない!」
一気に不機嫌モードに入ってしまったアンジェに、深い溜め息を吐いたミシャが近寄り頭を撫でる。
「ごめんね、人化していい時はちゃんと言うから」
「う~……」
「私だって辛いのよ? アンジェの力を下手に使って誰かに勘づかれたら困るから、今回は
口惜しいと表情を曇らせるミシャ。
まるでノエルは100%戦力外、パーティのリーダーであり、勇猛果敢な狼人族を蔑ろにする言い振りだ。
嫌味果汁も100%、さすがのノエルも奮起するかと思ったミシャの考えは―――
「そう心配すんな」
その台詞に憤慨するのではなく、余裕の表情で英雄はアンジェの頭を撫でる。 静かな闘志、英雄を目指す少年が遂に高みを目指すのか。
「向こうじゃなきゃ無い美味い食材もあんだろーよ、俺がちゃちゃっと作ってやっから! 日々の炊事で腕も上げたし、おやっさんの店ではバイトリーダーになったぜ?」
――――やったぜ、リーダー……。
最早彼はミシャの苦言をそう捉えるレベルにいない。
前人未到、未知の低みへと歩を進める劣化型主人公は、一体どこまで辿り着けるのか。
―――思えば初登場が戦闘値のピーク。
最凶の魔導士とやんちゃなピクシー、そして居酒屋のバイトリーダーはデルドル王国の東部、サザンピークを目指す。
でも今回は……
――――シリアスするかも……。
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