その165 アマルティアの心理



 ガクさんに殴り飛ばされたセイヴァーがペッと血を吐き、口元を拭う。こいつ……攻撃が通じるのか? そんなことを思っていると、セイヴァーが不敵に笑いながら口を開く。


 「クク……なかなかやるな。踏み込みの速度、威力ともに申し分ない」


 「御託はいいからかかってきな。それともびびって攻めてこれねぇか?」


 ガクさんの挑発にセイヴァーが笑みを止めた。……かと思った瞬間、ガクさんへと一気に踏み込んでいく。ガクさんの攻撃と張り合ったのか、こいつも速い!


 「はあ!」


 「そんな大振りが当たるかよ! そら!」


 「おぶ!? ふはは、まだまだ!」


 ヒュ!


 「見え見えだっ!」


 横薙ぎの攻撃を屈んでかわし、鎧の隙間を殴りつけるガクさん。身体をくの字に曲げながら突いてくるが、それも余裕で回避する。


 「強い……!」


 「あの男は領主でありながらSランクに近い実力がある。あれくらいはできるだろう。だが、レオスの言うアマルティア配下にしては動きが鈍いな?」


 僕の呟きに解説してくれたカゲトさん。確かにアマルティアが送り込んできた刺客の割に対して強くない気がする。僕達が見守る中、怒り心頭のガクさんの猛攻が続く。


 「おら! どうしたぁ!」


 「うぐ……!? はっはっは、どうした、その程度か!」


 ガッ! ゴッ! ザシュ!


 「ヘッ、かすり傷だ!」


 鎧すらへこます一撃がセイヴァーの顔に苦悶の表情を作り、反撃を試みるもガクさんが超至近距離で攻撃を仕掛けるため県では取り回しがきかず頬や腕に切り傷をつけるのが関の山。


 そうなるとそれを嫌がって間合いを取ろうとするのが剣士の常だけど、


 「あまりやられるのも面白くないな、一度距離を取って――」


 「ハッ! そうしたくなるだろ? だがなぁ!」


 それもガクさんは予測済みだった。飛びのこうとしたセイヴァーの足を踏みつけ、離脱させないようにしたのだ。


 「こいつ……!」


 「食らいな! ”豪破”!」


 離脱できずガクンと身体のバランスが崩れ、ガクさんの拳がセイヴァーの胸板にピタリとくっつけた直後、技を放つ。

 

 「ごぼあ!?」


 鎧は粉々になり、血を吐いて膝から崩れ落ちる。だが自分から倒れることもを許さず、髪を掴んで無理やり立たせた、顔面を地面に叩きつけた。


 「ハッ、大したことねぇな。アマルティアってやつも大したこと無さそうだぜ。それにしても、お前には俺達の攻撃が通用するんだな?」


 「ク、クク……。この世界で創造されたということは貴様らと同じだということだ。当然だろう? だが、俺は『アマルティア』様に創られた存在。貴様らとは……違う!」


 「何が違うのかわからねぇが、てめぇはここで終わりだ!」


 「うごぉぉぉぉ!?」


 掴んだ髪を離し、頭に渾身の蹴りを入れるとゴキンという鈍い音がして大きく吹っ飛び、地面に倒れた。


 「……仇はとったぜ」


 ガクさんがポツリと呟き僕達の方へ振り向く。しかし――


 「ガクさん! そこから離れて!」


 「何!?」


 周囲に飛び散った血が生き物のように動き、ガクさんめがけて襲い掛かってきたのだ。避ける間もなく、ガクさんは血の鎖に体を拘束された。


 「これは一体……! 今助けます!」


 僕とカゲトさんが走ろうとするも、別の場所にあった血が檻のようなものを形成し、行く手を阻む。剣で斬ろうとするも弾かれてしまう。そこへ、むくりと起き上がったセイヴァーが口を開く。


 「クク……やってくれたな……どうだ、俺の身体はもうボロボロ……本当にやってくれた……。俺の力は”恨み”。そして血を使って様々なことができるのだ」


 「恨み!? じゃあ剣で攻撃していたのは……」


 「ダメージを貰わねば威力が上がらんのでな。適当に攻撃し、死なない程度に打点をずらして攻撃を受けていた。おかげ様で血をこれだけ操れるようになった!」


 そう言って手元に血を寄せ集め真っ赤な剣を作り出した。そこでフェロシティが足元で呟く・


 【アマルティアは私達と似たような存在を作ったかもしれませんな。私達も主の深層にある”破壊者”や”暴力”といったものが形になったものですし】


 アマルティアの感情ってことか? 色々と考えることはあるけど、今はガクさんを助けないと!


 「むう……全然斬れん……!」


 「ここまで見越してダメージを受けていたなんて……」


 「クク……。さあ、散々やってくれたお返しと行こうか!」


 ドシュ!


 「ぐあ!?」


 肩を刺されて血が噴き出す。その血を吸収して怪しく光る剣を舐めると、死なない程度にガクさんを切り刻んでいく。


 「ククク! 動けぬまま切り刻まれる気分はどうだ!」


 「ハッ……! 動けねぇやつしか攻撃できねぇとは情けない奴だぜ……。ますますアマルティアってやつは大した事ねぇと感じるぜ……」

 

 ペッと唾をセイヴァーの顔へ吐きかける。頬をピクピクさせながら激高してガクさんの顔を拳で殴りつけた。


 「我が主を馬鹿にするか!」


 「怒るなよ、事実だろうが。そもそもダメージを負うごとに威力が上がるなんて能力をつけるあたりふざけてるんだよ。ヘタをしたら死ぬ……てめぇの主は遊んでるんだ、てめぇが死んでも主様とやらはお強いから痛手にもならなねぇからな!」


 「……もういい、貴様は死ね!」


 「反論できねぇのがその証拠よ! ”大爆震”!」


 ドン! と、拘束されていない片足を大きく地面に叩きつけたガクさん。直後、地面が揺れてセイヴァーがバランスを崩す。そしてガクさんを覆っていた血の鎖が粉々に砕け散る。


 「てめぇのおかげで色々分かって助かったぜ。今度こそ仇を取らせてもらう。”爆砕鉄拳”……!」


 ボゴン……!


 グッと踏み込んで繰り出された拳は、殴りつけるどころかセイヴァーの胸板を貫いた!


 「ごぼっ……!? 馬鹿な……い、一撃でこの俺が……!?」


 「どういうつもりでアマルティアが創ったのかわからねぇが、てめぇはその程度だってことだ」


 ブシュ!


 胸板から腕を引き抜くとその手には心臓が握られていた。それを握りつぶし止めを刺すガクさん。


 「馬鹿な……主よ、どうしてこの程度の人間に勝てない俺を創った――」


 「……」


 ドサリと前のめりに倒れ、今度こそ絶命した。血を払い、ガクさんが僕達のところへ歩いてくる。


 「《アクア》」


 「おう、ありがとよ!」


 水魔法で血を洗い流すと、ガクさんが神妙な顔で僕に言う。


 「恐らくだが、アマルティアは神になっても中身は人間みてぇだな。こいつがこの程度なのは、自分自身に近い能力を持った者を創りたくないんだろうぜ」


 曰く、現時点で無敵の存在である自分を脅かす可能性がある者を生み出したくないのでは、ということらしい。倒されてもまた作り直せるという自信もあるし、最悪自分で倒せばいいと考えているとガクさんは言う。


 「付け入るスキはあるかもしれねぇな」


 そう言いながら、遺体を埋葬しようと僕達は動き始めた。

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