最終章:罪と罰の果て
その164 一筋縄ではいかない道
「どういうことだ?」
「みんな……死んでいる……」
ガクさんが顔を歪めて口を開く。それを聞きながら僕は周辺に倒れている人を確認する。しかし、生存者は誰もいなかった。
――ここはラーヴァからペンデス国へ向かうための国境。町で本当に半日休んだ後、すぐに出発しここまでやってきた。
しかし、国境へ辿り着いた瞬間、血の匂いが充満しており、慌てて中へ入ると門番だった人たちが軒並み死んでいた。
「アマルティアとかいう者の仕業か? 酷い死に様だ」
カゲトさんが門番の目をスッと閉じながら僕に問う。だけど死体を見て思うことがあったのでふたりに返答をする。
「アマルティアが城を出てから一週間以上経過しているのに、この死体は新しすぎる。別の何かに襲われたんじゃないかな?」
「にしても、門番達も雑魚じゃねぇ。魔物が相手にしてはいささかやられすぎじゃねぇか? アマルティアの仲間って線はどうだ?」
「あいつは仲間を作るタイプじゃなかったと思うけど……」
”旅の男”として各地を渡り歩いている時にお供を連れていたなんて話は聞かないし、自分の力で相手を潰していくような感じに見えたから仲間がいるとは考えにくい。
ともあれ生存者はいないようなので、先を急ごうとした時に通路の中にある詰め所から物音がした。
「……誰だ? 生き残りか? それとも……」
ドガッ!
「うわああああああああ!」
カゲトさんが剣を抜いて詰め所を蹴り破ると、中から悲鳴が聞こえてきた。その悲鳴の主は剣を振りかぶり、カゲトさんへ襲い掛かっていく。扉付近にも死体があり、奥にも倒れた足が見えていた。
「ふん……!」
「わあああ!?」
もちろんカゲトさんはものともせず、足を引っかけて転ばせると、若い男が転がるように詰め所から出てきた。僕達は彼を囲むと事情を知らないか聞いてみることにする。
「驚かせてごめんなさい。あなたはここの生き残りですか? 一体何があったんです?」
「……」
僕が助け起こすと男はガバッと起き上がり、座ったまま後ずさりしながら震える。僕達の顔を見た後、ホッと息を吐いた。
「ふう……人間だ……良かった……」
「……一体何があったんだぁ?」
「?」
不機嫌そうに言うガクさんに違和感を覚えていると、続きを話し出す。
「正直、その……よく、わからないんだ。ニコニコした男が国境へ来たんだけど、直後血しぶきが窓にへばりついてさ。外で悲鳴が聞こえたから俺は慌てて詰め所の奥に隠れたんだ……」
ガタガタを顔を青くする彼がそう言い、ニコニコ笑っているとなるとやはりアマルティアが? そんなことを思っていると、ガクさんが口を開く。カゲトさんも馬車の近くに待機している。
「そりゃ気の毒だったな。俺達は先を急がなくちゃならねえ。見た感じそいつももう居ないようだからここは任せるぞ。俺はガク。カン=ザキ領の領主だ」
「ええ!? 領主様がどうしてこんなところに……」
「いいから、ハイかイエスと言え」
「選択権が無い!?」
僕がツッコミを入れるも、ガクさんは彼に遺体の片づけと僕達が直前に立ち寄った町へ報告をするようにと、書状を書いて渡していた。
「待たせたなレオス。行くぞ」
「あ、はい。それじゃ荷台に――」
僕達が馬車へ目を向けた瞬間、
【主!】
デバステーターの声と共に、背後で殺気が膨れ上がった! 慌てて振り向こうとした僕の横で、回し蹴りを繰り出すガクさん。剣を振りかぶっていたらしい門番の彼がとんでもない勢いで詰め所に叩きつけられた。
「ガクさん!」
「へっ。やっぱりか」
「やっぱりって?」
動かなくなった門番から目を離さず尋ねると、横に並び立ったカゲトさんが剣を構えて答え合わせをしてくれた。
「簡単なことだ。詰め所の扉は閉じていて奴は無事だった。そこまでは気になるところではないが、どうして詰め所の中に死体があったのか?」
「あ!?」
そういえばカゲトさんが蹴り破った時、詰め所の中に遺体が見えた。逃げ込んだにしては奥に遺体があるのはおかしいし、扉が閉まっているのも妙だ。もし、彼が扉を閉めたのなら相手に発見されてもおかしくない。そんなことを考えていると、ガクさんが唾を吐きながら続けた。
「それに詰め所の中は血だらけだった。なのにこいつの鎧は新品みてぇにキレイだ。となると、この惨劇を作った犯人は――」
ガクさんが言い終わる前に門番の彼がずるりと詰め所の壁を這うように起き上がり、ニヤリと笑いながら喋り出した。
「クク……。アマルティア様の言う通り生きていたか小僧。お前一人ならこの演技で倒せそうだったが、仲間を連れているとは意外だったな。小僧についてくるとは運の無いやつらだ」
「どういう意味だてめぇ?」
「知れたこと。ここで死ぬからだ……! 貴様は領主だとか言ったな? 金持ちの道楽でついてきたか? 全員ここで……終わりだ」
そう言って剣を構える門番の男。するとガクさんが頭を掻きながら一歩前へ出て振り向かずに僕達へ言う。
「レオス、カゲト。悪いがこいつは俺一人でやる」
「え? い、いや、アマルティアの手の者だったら多分かなり強いだろうし、もしかしたら攻撃が効かないかも……」
「関係ねぇ」
そう言って歩き出すガクさん。表情は伺えないが、声色で怒っていることが丸わかりである。だけど、次の言葉でガクさんが怒りを表す理由は当然だと悟る。
「おい、てめぇ名前は?」
「あ? 生意気な人間が。まあいい、俺は”セイヴァー”アマルティア様の力で産まれた部下みたいなもんだな」
「そうか。ありがとよ。この国境の人間は……俺の領地の人間もいたんだわ。よくもまあやってくれたもんだぜ? なあ? だからよ……死ね」
「!?」
ゴッ!
一瞬でセイヴァーの目の前に移動したガクさんの拳が顔面に突き刺さる!
「ごふぁ!?」
「それで終わりじゃねぇだろ? 立ちな」
ガクさんがスッと構えて静かに呟いた。僕でもぞっとするくらい、冷めた声で。
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