その162 新装備



 「ピューイ!」


 【ああ。俺達の本当の姿はこんなんじゃないんだ。まあ、生きていただけでもありがたいがなぁ】


 【まったくですよ。もう少しで主が童貞のまま死ぬところでしたし、あの腐れ神にはリベンジをくれてやらねば腹の虫がおさまりませんね!】


 【いや、お前達ふたりはまだ活躍したよな? 私、何もしていないのに気づいたら猫ですにゃ……】


 【……俺、一瞬活躍した】


 【自慢ですかブルート!? このメナス、必ずや主の役に立つためにぃぃぃ!】


 「ピューイ! ピューイ!」


 「うふふ、みんなよく喋るわね」


 とまあ、テッラを膝に置いてほほ笑むガクさんの娘アイが目覚めた”四肢”達に話しかける。泊めてもらった次の日、いや、僕はその日からずっと徹夜で設計図を作っていた。

 ガクさんの言うコンセプトを達成するなら、この世界にない武器を作らなければならない。ガクさんの家にあった書籍をいくつか読んで一気に作成をお願いした。


 一つ目は刀。


 地球で暗躍していた時に覚えた知識を使って鍛冶師にお願いしているが、上手くいく保障は全くない。せめて形だけでもと言ってある。たった二日でできるとは思えない。ちなみに金属は僕のお金でこの町で一番硬い金属を買った。


 二つ目はバリスタ。


 これは馬車の上から撃つタイプで、この世界は射出兵器は存在しないので高速で撃ちだされる矢は当てやすいだろう。同じ理由から三つ目にクロスボウを頼んでいる。見せ武器の手持ちタイプと、服の下に隠せる小型のものを。

 

 四つ目はパイルバンカー


 少しお高い火薬を購入し、僕の頭から胴体くらいの長さの杭打機を作ってもらう。シンプルだけど、威力は高い。それとこれにはもう一つ理由があって、ダブルビームライフルを当てるため、壁へ磔にする目的が主な理由だ。


 ……それでもこの世界で作った武器であるという概念になってしまうなら、無駄なものになってしまうのは否めない。だけどやらないよりはマシだと、出来上がりを待つことにする。


 あ、それと僕と馬達も防具をつけることにした。防御魔法のフルシールドも使えないから先日のようなデッドリーベアに襲われたらひとたまりもない。馬達には背を覆う鎧と、頭に角がついた兜を作ってもらった。

 僕は動きを鈍くしたくないので、心臓などの急所を覆う胸当てや太ももや足をカバーする軽めの具足をもらった。さらに左腕にはガントレットをつけ、右腕には小型のクロスボウを巻きつけるようにする。

 

 そして――


 「起きろレオス! できたぞ!」


 「ふえ!?」


 勢いよく開け放たれた扉の音で僕は飛び起き、四肢達も面倒くさそうな声を上げて僕の後をついてくる。急いで鍛冶場へ行くと、そこにはオーダーしていた装備がずらりと並んでいた。


 「す、凄い……。ちゃんとできてる」


 刀を抜いてみると、幾分反りは少ないけど刀だった。柄も握りもそれっぽい感じだ。馬車の荷台の上にもバリスタがきちんとついていた。

 床を見ると、職人さんたちが死んでいるのではないかと思えるような状態で眠っていた。


 「二徹くらいでだらしねぇなあ? よし、サッサと運びだして出発しようぜ!」


 「あ、お金置いて行かないと」


 「かまわねぇよ。俺が払っておいたからな! ……へへ、神がどれほどのものか楽しみだぜ」


 お金を払ってくれたらしい、という言葉の後に不穏な言葉が聞こえたけど、スルーした。するとカゲトさんがクロスボウとパイルバンカーを荷台へと乗せながら僕へ言う。


 「……私は最後まで一緒には行けない。ガクが話したが、妹を探していてな。見つけるまで死ぬわけにはいかないのだ」


 「ううん。全然いいですよ。途中まででも心強いですし」


 「すまないな。私にとって妹は最優先事項なのだ。ちょっと目を離したすきに消えてしまうとは……」


 「いつ居なくなったんです?」


 「二年ほど前だ。部屋に食事を持っていくと『探さないでください』と書かれた手紙があってな……」


 「いや、それただの家出じゃないですか!? え、あ、いや、いいです」


 「妹はだな――」


 「お構いなく!?」


 クールなキャラなのかと思ったらただのシスコンだったカゲトさんが何か話そうとしていたので逃げ出し、僕は御者台に座る。同時にガクさんもカゲトさんを押し込み、荷台が揺れた。


 「父さん、死んでもいいけど一発かましてきてくれよ?」


 「ユウ! も、もちろん無事でお願いね! レオスさんとカゲトさん、父のことお願いします! バイバイ、テッラちゃん」


 「ピュー!」


 テッラが僕の懐に帰ってきて、アイに別れの挨拶をしていた。さらにボウさんが口を開く。


 「……領地にはまだ父さんが必要だ。ちゃらんぽらんだが、父さんは天才だ。だから必ず戻って来てくれ」


 するとガクさんが一瞬俯いた後、大声で笑いだす。


 「ぎゃははは! 言うようになったじゃねぇかユウ。それにボウも褒めすぎだろうが? 大丈夫だ、俺は無敵の男だからな。神を騙るやつなんざ指先一つでちょいよ」


 「約束したからね!」


 「おうよ! レオス、行こうぜ」


 少し目が潤んでいるアイさんを尻目に馬車はゆっくりと動き出す。


 「重くない? 大丈夫?」


 「ぶるるん!」


 「ひひーん!」


 バリスタは流石に重いかと思ったけど、問題ないという感じでいなないてくれたことでホッとする。荷台のキッチン、取り外すことも考えないといけないかな。山は越えたから大珠部だと思いたい。


 「嬢ちゃんは悪いが棺に入れておくぞ」


 「はい。氷の魔石、ありがとうございました。これで腐敗は避けられるはずです」


 「……たまらねぇな。話したこともないが、仇はとってやるぜ」


 「道中の魔物は私に任せろ。お前達は温存しておくといい」


 そんな会話をしながら、僕達はガクさんの町を出発した。城までは二週間と少し。無事でいてくれ……!

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