その124 冥王とガイスト
「大人しく……捕まってくださいよ!」
「アイムを必要以上に傷つけないでねバス子! 単純な力押しでいい、動きを封じさえすれば!」
空中からバス子の槍で牽制しつつ、僕が地上で動きを止めれメディナが取りつきやすいかと思っていた。
だけど、なかなかどうして、見ていないはずの方向から来る槍は体の動きだけで回避し、剣は後ろに下がりながら僕を捌くのに使っている。
【クク、我の攻撃手段が剣だけだと思ってもらっては困る! 《メンタルブレイク》】
ガイストが聞いたことも無い魔法を唱えると、パキン、と、僕の視界が一瞬弾けた。
「目の前がチカチカする……!」
「はらほろ~……」
僕はその程度ので済んだけど、空を飛んでいたバス子には効果は絶大だったようで、ふらふらと別の場所へ飛ぼうとする。
「危ない!」
「ひゃん!? 尻尾はだめぇ!? ……ハッ! ありがとうございますレオスさん。こいつ、結構やりますね」
【どうして槍が当たらないか気になるか? クク、なに、種明かしをすると簡単だ。アイムの視界と我の視界は別々に使っている。アイムの視覚外からの槍は我が。剣はアイムの視点を使えば難しくはない】
とは言うけど、二つの視界を同時に見て混乱しないはずはない。視えていても、体を動かすのはまた別の話だからだ。
そういうことに特化している、と言えばそうなんだろうけどこちらとしてはかなりやりづらい。そっちがそうならこっちだって……!
「<クリエイトアース>!」
僕は足を踏み鳴らして魔法を使う。だが、今の段階では何も発動しなかった。
【ふん、何も起きないではないか! 諦めたか? 《ライトニングアロー》】
余裕の表情だけど、それでも何かを察したガイストは一歩後ろに下がりながら、やはり聞いたことが無い魔法を使って攻撃を仕掛けてきた。
だけど、僕はニヤリと笑いバス子へ合図をする。
「縫い付けて!」
「ほえ?」
直後、
【何!?】
一歩下がったガイストの足元にぽっかりと穴が開き、吸い込まれるように落ちて行った。そこへ、先ほど放った僕の言葉の意味を理解したバス子が、落とし穴へ突撃する。
「伊達に三つ又の槍じゃないんですよ、こいつは!」
【ぬぐ!?】
駆けつけると、見事、首へ槍の隙間を入れて地面に縫い付けていた。
「バス子、下がって! メディナ!」
「ウム」
いつの間にか冥王スタイルになっていたメディナがバス子と入れ違いで落とし穴へ入っていく。仮面が結構ひび割れていたけど大丈夫かな……
「グアアア!?」
「メディナさん!? まずい……!」
バス子が珍しく焦りの声を上げてメディナを引き上げようとするが、
【クク、相当力を落としているようだな……我をこの娘から引き剥がすどころか、このままでは我がその体を乗っ取る方が先になりそうだな! ははは!】
「くそ、失敗か……今助けるよ!」
思いのほかメディナの能力は下がっていたようで、アイムからメディナへ体を乗り換えるつもりのようだ。そうはさせまいと救出に向かうも――
バヂィン!
「うわ!? バリア……?」
【落とし穴で我を封じたつもりだろうが、むしろ好都合。このまま冥王の体を頂くとしよう! 今度こそ我が本物の冥王となるのだ……!】
「グ、ウウ……!」
【しぶとい……!】
「今度こそってどういうことだ! <インフェルノブラスト>」
どぉん! と、僕の魔法がバリアを直撃し、大気が震える。
【お、おお!? な、なんて魔力をしている……!? お、教えてやろう、大魔王様が冥王を冠する魔王を作る時、我とメディナを作ったのだ。そして選ばれたのは、メディナだった……! こいつに負けたのだ、我は!】
「……オマエハシッパイサク……」
【大魔王様がそう言っていたな! だが、お前と我で一体何が違うというのだ? ……いや、それはもはや意味はないか。メディナ、お前の体は我が活用してやる!】
「グウウウ……」
「メディナ!? <クリムゾンアッシュ>!」
「ちょ!? レオスさん!? うわ!? すご!?」
ドゴォオォン!
「よし!」
最大級の魔法がバリアを打ち破る音が聞こえ、僕は落とし穴を覗き込む。
「レオスさん!」
ビュ!
「おわ!?」
バス子に体を引かれた直後、僕の顔があったところにライトニングアローとかいう魔法が通り過ぎた。そして穴からスゥっと冥王メディナが空を飛んで出てきた。
【外したか。まあいい、肩慣らしをさせてもらう】
「お前……!」
「の、乗っ取られたんですか……!?」
【違うな。正しく扱う者になっただけだ。《デスシックル》】
ヒュン!
「チッ! <ファイアアロー>!」
「あわわ! 槍! 槍!」
高速回転する黒い刃を剣で弾き、魔法でガイストに仕掛ける。
【ぬるい】
ボロいローブをサッと翻しただけで、ファイアアローは掻き消えてしまう。そういえば魔法は効かないんだっけ。メディナは掌で消していたけど、こいつは全身で消せるらしい。
「なら、その仮面を壊して――」
【いいのか? それをすればメディナは消えるぞ? 我は別の体に乗り換えればいいだけだがな。まあ、こいつを生かしておく理由も無いか? 《ソウルサック》】
「う……ううう……」
「がああああ……」
「なんだ……?」
ガイストが魔法を使った瞬間、待機していた村人が苦しみだし、みるみるうちに顔色が青紫になっていく。その後、ガイストの魔力が高まっているのを感じた。
【ふはははは! いいぞ! 少し魂を取り込んだだけで力がこれほど漲るとは。村人でこれだ、お前達はさぞかしいい餌になりそうだな……! 《ダークネスシックル》】
速い!
黒い鎌を携えたガイストが僕に迫る。アクセラレータを使う間もなく目の前に現れた!
「くっ!」
【ふむ、この身体になってから気づいたが……お前の身体は相当なものだな? お前の身体を使った方がさらに強くなれるか?】
「させないよ!」
ガィン!
【おっと!】
「えっへっへ! こっちにもいますってんだ!」
バス子も復帰し、背後から攻撃をする。しかしボロ布を揺らすだけで手ごたえは無さそうだった。
【どうした? この仮面が弱点だぞ? そうら!】
「うわ!? ええい、メディナさん、しっかりしてくださいよ! あんたが本物の冥王でしょうが!」
鎌を捌きながら吠える。何とか糸口が無いものか探すためにも、今は攻撃を続けるしかない。
「<レビテーション>! でやあ!」
【いいぞ! その調子だ!】
「!?」
僕が上を取ってセブン・デイズを振り下ろすと、ガイストはぐるんと首だけを僕に向け、仮面を壊させようと自分から突っ込んでくる。軌道を変えて無理やり肩口に当てるが、バランスを崩した僕の脇腹へ鎌の刃が一閃した。
「痛っ……!」
【とどめだ】
「レオスさん! ……自分を人質にするなんて、いやらしいやつですね……!」
バス子のフォローで難を逃れた僕はダークヒールで傷を癒す。
【何とでも言え。《ブラックペイン》】
スヴェン公国でメディナが使った魔法が展開される。あの時は両手からドラゴンの頭が二本だったけど、今回は全部で八本も出していた。
だけどあれくらいならフルシールドで防いで……防いでから、どうする……? あの体の下には手ごたえを感じない。恐らく仮面を破壊するしか打つ手がない。だけどそれをすればメディナは……
【じっくり魂を貪ってやる……行け!】
「来ますよレオスさん!」
ガイストの声で、僕とバス子が身構える。
だが――
【な、なんだ……!? なぜ行かない! か、体が……動かんだとぉ!?】
ガイストはギギギ……とまるで関節がさび付いた人形のように動かなくなっていた。
「レオス。今、仮面を破壊する」
「メディナ!」
いつもの調子でメディナが話しかけてきた。
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